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「日本人には読めないフォント」が話題に 作者に聞くと今では少し後悔も?

おたくま経済新聞

画像提供:小山真吾さん(@KoyamaSkoyama)

 SNSに投稿された、日本人には読めないフォントが話題になっている。投稿者が購入した商品には「ワモウナムレ チレロ55」という文字が書かれている。

 どうやら日本語に似せた「Electroharmonix(エレクトロ・ハーモニックス)」というフォントが使われているらしい。

「Electroharmonix」の入力例

■ 日本人には「ワモウナムレ チレロ55」としか読めない

 投稿者は半導体や通信デバイスなどを製造する創業48年の電子部品メーカー、テクダイヤ株式会社の代表取締役である小山真吾さん。

 一見何の商品なのかはわからないが、商品をよく観察してみると本体には「DENTAL FLOSS」の文字が書かれている。それを踏まえた上で、パッケージ上部の文を読むと「ワモウナムレ チレロ55」は「DENTAL FLOSS」と読める。ただし、日本人には初見で読み解くのは難しい。

 小山さんも「なんと書いてあるか?俺は読めませんでした」と投稿。コメント欄でも「ワモウナムレ チレロ55」にしか読めないという返事で埋まっている。

■ 作者はカナダ出身のタイプデザイナー

 日本人には読めないフォントこと「Electroharmonix」の作者は、タイプデザイナー※のレイモンド・ララビー(Raymond Larabie)氏。カナダ出身で、現在は日本の愛知県名古屋市に住んでいる。(※フォントのデザイナー、書体デザイナーと呼ぶこともある)

 「Electroharmonix」は2015年ごろにもネット上で話題になり、今回は商品に使われたことで再び注目を集めた。

 このフォントを読むコツは日本語だと認識できないほど、ピンチアウトをして文字を小さくしていくこと。あくまで、ローマ字として認識するように脳を騙していくのだ。

■ フォント名に後悔

 今回話題になっていることについてララビー氏に連絡をとったところ、とても興味深い話を聞くことができた。

 実はララビー氏にとっても「Electroharmonix」には色々な思い入れがあるという。

 このフォントが最初に発表されたのは、1998年3月25日。カタカナ、ひらがな、漢字の文字に触発され、疑似日本語としてデザインされた。もちろん当初から日本語としては読めないものとなっている。

 そして名前の由来はギター用エフェクトペダルの会社名「Electro-Harmonix」から。ララビー氏は当時、その会社が廃業していると思い込み(実際に2度倒産している)、名前の「ヴィンテージな雰囲気」も気に入っていたことからフォント名に採用。しかし後に新しい社名で会社は復活。「Electro-Harmonix」もブランド名として大復活をとげ、現在業界では主要メーカー(ブランド)として認知されている。

 「その名前を見るたびに……そしてフォントを見るたびに身が縮む思いがします」(ララビー氏)

 ちなみにフォントの方の「Electroharmonix」でもリリース以降、さまざまな変化が起きている。まず2010年代初頭にはデザインを一部整理、改良した「改良版」をリリース。次に、当初は無料の商業利用デスクトップライセンスでリリースされたものの、2024年4月にはパブリックドメインに置かれている。

■ ララビー氏の心は名古屋人

 ララビー氏にとって「Electroharmonix」は、タイプデザイナーとしての経験と日本との繋がりにおいて重要な部分になっているといい、まさに氏と日本を繋いだ架け橋的存在。

 また、日本に住むようになって、感じ方にも変化があったという。特にいま住んでいる名古屋からは強い影響を受けているそうだ。

 「まだ日本人として感じるかどうかはわかりませんが、確実に名古屋の人として感じ始めています!」(ララビー氏)

 最後に今回話題になっていることについても質問してみた。勿論ご本人も話題の件については把握しており、嬉しい思いで見ていたという。

 「皆さんが楽しんでくれて嬉しいです。数日前に 『Reddit』というニュースサイトで話題になっているのに気づきました。フォントの名前が今ではとても恥ずかしいです。今は誰でも使える公共のフォントなので、皆さんが修正したり改良したりしてくれると嬉しいです」(ララビー氏)

 日本人には読めないフォントこと「Electroharmonix」は、ララビー氏のフォント工房「Typodermic Fonts」のサイトをはじめ、他の複数サイトでも配布中。「Typodermic Fonts」ではパッケージとして他のフォント類と配布されているので、単体で欲しい場合はフォント名で検索して配布先を自分で探して欲しい。

※ララビー氏とのやりとりは日本語を通じて行いました。ララビー氏からのコメントはできるだけオリジナル要素をくずさないように、簡単な修正程度にとどめています。

<記事化協力>
小山真吾さん(X:@KoyamaSkoyama)
Raymond Larabieさん(Instagram:@rlarabie/HP:Typodermic Fonts)

(山崎尚哉)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山崎尚哉 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2024082704.html

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