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【上原ひろみ インタビュー】メンバー一人ひとりが輝くアルバムを作りました─ 最新作『OUT THERE』を語る

ARBAN

Evoto

上原ひろみが2023年に結成した「Hiromi’s Sonicwonder」の第2作『OUT THERE』が4月4日にリリースされる。上原のピアノとキーボード、アドリアン・フェローのベース、アダム・オファリルのトランペット、ジーン・コイのドラムスが織りなすスリリングな演奏に、私はノックアウトされてしまった。4パートからなる組曲〈OUT THERE〉を中心としたアルバムについて、上原ひろみにじっくりと話を聞いた。

上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder 『OUT THERE』(ユニバーサルミュージック)

ライブ盤のような迫力

──新作OUT THEREが始まったとたんに、あまりの迫力にのけぞってしまいました。SonicwonderのSonicwonderlandという1枚目も好きですが、今度のアルバムを聴くと、あれははじめましてっていう感じに思えるぐらい。今回はライブ盤かな? と思うほどの迫力を感じました。ずっとツアーをなさってきたわけですよね。

そうですね。1年半くらいツアーしてからスタジオに入ったので、ライブ盤みたいな感じだと思います。

──すごく4人の関係が密になってる感じがするんですけど、ご自身としてもそれは感じてらっしゃいますか?

バンドとして本当に “育った” というか、バンド感が非常に強くなっています。前作は「こういうイメージの作品を作りたいな」と思って、それを具現化してくれるだろうミュージシャンを探してきて作ったのですが、今回は本当に “このメンバーありき” で曲を作っていきました。

──全員の聞かせどころとかアピールするところがすごくきちんと出てるなって思います。みんなが主役みたいな感じがして、それがすごくよかったなと思うんですよ。

そうなんです。本当に個がそれぞれ立つというか、みんなが輝いて全員がフロントに出るっていう、そういうイメージで曲を書きました。

左から アダム・オファリル(trumpet, w/pedals)/上原ひろみ(piano & keyboards)/アドリアン・フェロー(bass)/ジーン・コイ(drums)

──このレコーディング自体もライブみたいな感覚でやってるわけですか?

はい、そういう感じで、せーの、で録りました。

トランペットの技量に驚愕

──1曲目がXYZ、上原さんのデビュー・アルバムAnother Mindの1曲目ですよね。当時の衝撃をまた思い出しちゃって。でも、今回のバージョンも本当にすごいです。この曲を取り上げようっていうのは、何か意図はあったんですか。

私の中では〈XYZ〉はずっと自分と並走しているイメージのある曲で、今回取り上げたことで22年ぶり、ってよく言われるのですが、実際は「Sonicbloom」というギター入りのバンドでも、最後の「Z」をギターの「G」に変えて〈XYG〉という形で発表しましたし、サイモン・フィリップスとアンソニー・ジャクソンとのザ・トリオ・プロジェクトのライブでもよくやっていました。

メンバーが変わると本当に曲がどんどん変わるので、それを楽しみながらずっとやってる曲です。今回も初めて管楽器を入れた形で、このSonicwonderヴァージョンの〈XYZ〉が録れたらいいな、と思ってライブでやっていました。

──本当に素晴らしい演奏ですよね。僕はアダム・オファリルさんのトランペットが特にすごいなと思いました。

アダムに慣れちゃうと、トランペットの出来ることを勘違いしてしまいそうになる時がありますね。思い切りのいい出だしから始まって、トランペットってこんな低音出たっけ? って思うような低い音まで彼は出せますし、本当に唯一無二のプレイヤーだなと思います。

──そうですよね。アンサンブルのところでもすごく難しそうなことを、アダムさんは全然問題なくすらすら演奏されてて、やっぱりトランペットだと他の楽器より難しいんじゃないかと思うんですが。

そうなんですよ。だから私の知っているトランペットのキャパシティではできないかな、と思って、かなりチャレンジングなことを「できる?」って聞いてやってみると、すぐにできちゃったり。すごいテクニックだなと思います。

──管楽器がトランペットだけで、リーダーがピアノっていうバンドって、割と少ないかなって気がします。管楽器がサックスっていうケースはすごくあると思うんですけど。

たしかにアダムも「なかなかフロントに一人で立つことってない」と言っていました。普通は管楽器が何人かいるけど、一人だと吹かなきゃいけないところは全部自分がきっちり吹かないと、というようなことを最初言ってたので、ああそうかと思ったんですよ。私は全然そんなことを考えずに、アダムありきでバンドを作ったので。

──これはアダムさんがいないとできないだろうな、って思いながら聴いてました。

ラーメンは中華か和食か…

──2曲目のYES! Ramen!!ですけど、これは矢野顕子さんの〈ラーメンたべたい〉のアンサーソングみたいなものかな、と思ったんですけど、そういうわけでもないんですか?

違います。もともとラーメンがすごく好きでなので、〈ラーメンたべたい〉も矢野さんとやりましたが、今回はずっと自分の中に持っていた、ラーメンの曲をいつか書くっていう気持ちを実現させました。

──この曲って、ハリウッド映画的ないわゆるチャイニーズメロディーみたいなフレーズがかなり大々的に使われてますけど、ある種のジョークみたいな気持ちもあった?

私が小さい時に初めて食べたラーメンって、ラーメン専門店ではなくて、いわゆる町中華だったんですよ。昔はラーメンの専門店ってあんまりなかったですよね。私が子供の頃には、町中華のチャーハンや餃子とかがある中のメニューにラーメンがあって、ラーメンがメニューの一番目にはなかった。だから私の中では、最初はラーメンは中華料理から、なんです。その後、どんどんラーメンの専門店がこの何十年の間で育ってきましたが。

──今やラーメン=日本料理のような認識で、世界中に広がってますよね。

本当に一文化を築いていますよね。私もこの20数年世界をツアーする中で、ラーメンっていうものが世界で認知されていく様子を生で見てきて。海外のラーメンのレベルも本当に段違いにこの20年で上がりましたし、ラーメン激戦区みたいな場所が、パリ、ロンドン、ニューヨーク、アムステルダムとかにあるんですよ。そこでライバル店ができると、またそれぞれ切磋琢磨して、またさらにレベルが上がっていく。そういうのをずっと見てきて、ラーメンの曲だったら今だ! と思いました。

──なるほど、すごい楽しい曲ですよね。3曲目のPendulumっていう曲はミシェル・ウィリスさんのボーカル入りとソロ・ピアノの2バージョンが入ってて、これは矢野顕子さんとのライブ盤でもやってらっしゃいますけど、この曲はすごく思い入れが深いということですか?

最初はソロ・ピアノ用に書いた曲で、矢野さんと一緒にやることになった時に、歌詞を書いてるから歌ってほしい、みたいな流れで日本語詞のバージョンを作りました。もともとこの曲の持つフィールというか雰囲気が英語の語感に合うだろうなって思っていたこともあって、英語の歌詞はやっぱりネイティブの人に書いてもらうのが一番フィットするので、自分で考えたイメージの英語の意訳をミシェルに送って、彼女に書いてもらうという形をとりました。

──ミシェル・ウィリスさんはスナ―キー・パピーの関係で知ったんですが、デヴィッド・クロスビーのLive at the Capitol Theatreというアルバムがすごく好きで、よく聴いているんです。デヴィッド・クロスビー、ベッカ・スティーヴンス、ミシェル・ウィリス、マイケル・リーグというメンバーです。だから、ここでミシェルが登場してすごい嬉しかったんですけども、彼女とはどういういきさつで?

全く関係性はなくて、グラウンド・アップから出ている彼女のアルバムがすごく好きで、もうただの一ファンです。彼女の歌声でこれを歌ってほしいなと思って連絡したら、彼女も快諾してくれて。

──今回ソロピアノ・バージョンも入れたというのは?

元々ソロで作った曲だったので、私の中では最初のオリジナルというか、原型がそれなんです。なので、ソロ・バージョンも入れたいと思いました。

組曲がつくり出す「死亡遊戯」感

──全体の中で、Pendulumが二度出てくるのは休憩地点みたいな感じがしてすごくいいなと思っているんですけども、タイトル・チューンの組曲OUT THEREについてお聞きします。OUT THEREという英語にはいろんな意味があると思うんですけども、ここでは宇宙に飛び立つみたいな感じですか?

宇宙というわけじゃないですが、今ここではない、どこか知らない場所に飛び出るというか、非常に外に向かっていくエネルギーのある言葉だと思います。

──最初からOUT THEREというタイトルで組曲的なものを作ろうということでやったわけですね。

組曲を書くのが好きで、いろんなプロジェクトで組曲を書いてきましたが、このバンドでもやりたいなって思って。弾く側も聴く側も非常に集中力が必要で、その集中している感じがすごく好きなのでやりたいなと思うんですよね。

──これはライブでやる時は当然、1曲目から4曲目まで続けてやるってことですよね。交響曲のごとく、途中で拍手が入ったりはしないみたいな?

ソロを受けて拍手が起こったりとか、それは本当に街の雰囲気にもよりますし、会場の雰囲気にもよりますが、そこはジャズならではの自由さがありますね。

──これはライブのツアーの時も必ずやっているんですね?

はい。メインディッシュですね。

──演奏する方の集中力はすごいと思うし、聴く方もやっぱり20分くらい一生懸命聴こうっていう気持ちになって、それがすごくいいですね。どのパートも曲想が違っていて、Strollin’っていうのがこの組曲の中では一番リラックスして聴けるミディアム・テンポの気持ちのいい曲ですけど、さっき気がついたんですけど、4曲目のThe Questのイントロのフレーズが、上原さんのピアノのソロの中にチラッと出てきますね。

気づかなかったです。自然に出ちゃったのかもしれないですね。

──このOUT THERE組曲、自分の作品の中ではかなり気に入ってる感じですか?

そうですね。組曲の持つ “五重塔”感っていうか「死亡遊戯」みたいなイメージがありまして(笑)。それは自分がリスナーとして聴いてても、1楽章が終わったからこそ2楽章の流れがあって、その次に3楽章が終わった、さあとうとう4楽章だっていう、この気持ちがすごく好きなんです。

今回も書いていて、楽章ごとに違う世界にいざなって、そこにずっと集中して聴いている没入性があって、ということを意識して作りました。ライブでやっていても、お客さんの達成感、みんなでやりきったぞ、みたいな感じがすごく好きなんですよね。みんなで手を取り合ってゴールする感覚が強くある。会場全体が一つになっていく感っていうのは組曲ならではだな、といつも感じます。

──それは聴いてて僕も感じました。いったん聴き始めると途中で止めてお茶飲みに行ったりしにくいので、最初から最後まで続けて聴きましょう、って言うのがいいですよね。組曲の次にPendulumのソロピアノ・バージョンがあって、最後はBalloon Popっていう非常に弾けた感じで明るい曲ですね。でも、これもよく聴くとすごい難しそうではありますね。

リズムなどはそうですが、基本的にはすごく明るくポップな曲で、リフが始まるとお客さんがみんな笑顔になって身体が揺れだすみたいな雰囲気が、いつもライブでやるとあって。

──これはライブでは最後の曲として?

この曲はアンコールでやることが多いです。

最高峰ドラマーの “見えない技術”

──全体として強く感じたのは、このSonicwonderというバンドがいかにすごいかっていうことです。ドラムのジーン・コイさんもすごいですね。エッジが立っているいるけどしなやかで、彼のソロといいますか、たくさん叩く部分も結構フィーチャーされていますね。

こんなにドラム・ソロが多くなくても…と言われるくらいにドラム・ソロが多い。私がドラム・ソロが好きっていうのがあると思います。

──ドラム・ソロをやって、ってリクエストするわけですね。ベースのアドリアン・フェローさんはすごいテクニシャンだと思うんだけど、本当にパンドを支えてる感じがしますよね。ものすごく難しそうな曲がたくさん入ってるんだけど、でも当たり前ですけども、すごく楽しそうに聴こえるんですね。

彼は技術の面では世界最頂点くらいの実力があるので、そこが話題になりがちですが、彼のすごいところって、人(の演奏)をよく聴いていて、人のサポートが本当にうまいというか、いつもソリストがベストに聞こえるように演奏している。そこが彼の一番すごいところだと思います。

そんな話を、以前に私がどこかのインタビューで話したことがあって。それを知った彼に『それ、もっと言って!』って頼まれました(笑)。やっぱりあれだけ技術があるとテクニックのことを取り沙汰されがちですが、本当に聴く力がすごい、ということを一緒にやっていると感じます。

──今まで上原さんのやってきた人たちって、どっちかというと先輩にあたるミュージシャンが多かったんですけど、それに比べると若い世代のSonicwonderは、やっていて違いを感じますか?

別に「齢が下だな」だからといって違いを感じることはないです。ソーシャルメディアへのポストの速さとかで若さを感じたりもしますが(笑)。演奏している上で世代も国籍も全て含めて、そういうことが全く関係なく、混ざり合えるっていうのが音楽の素晴らしさだなと思います。

──このアルバムの聴きどころっていうのかしら、これから聴く方にここのところに注目すると楽しいですよ、というような、上原さんご自身からのメッセージはありますか?

メンバー一人ひとりが輝くようにアルバムを作ってきたので、それぞれのファンになってもらえたら嬉しいです。

──ありがとうございました。Sonicwonderのライブを早く見たくてじたばたしています!

取材・文/村井康司
撮影/西村満

上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder 『OUT THERE』(Telarc/Universal Music)

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