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アド街ック天国でお馴染み!パティ・オースティン「Kiss」パワーステーションでの制作秘話

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1995年12月16日 パティ・オースティンのシングル「Kiss」発売日

「出没!アド街ック天国」でおなじみ、パティ・オースティン「Kiss」


パティ・オースティンはアメリカのジャズ・フュージョン畑で1970年代から活動。1980年代以降はクインシー・ジョーンズの秘蔵っ子として台頭し、いくつかのヒットソングを経て人気シンガーの仲間入りを果たした経緯を持つ。

ダンスクラシックス人気ではトップクラスを維持する「ドゥ・ユー・ラヴ・ミー」や、クインシーのもうひとりの秘蔵っ子、ジェイムス・イングラムとのデュエットにして超ロングセラーとなった「あまねく愛で」(Baby, Come to Me)、といった代表曲は案外広い層に知られているのではないろうか。80年代を通して傑作アルバムを数枚残すパティは、90年代に入る頃には有名シンガーという立ち位置を確保していたのであった。

ところで話題が一気に変わるが、テレビ東京で毎週土曜にオンエアされている『出没!アド街ック天国』は今や誰もが知る人気番組。番組で取り上げた “街” のファッショナブルな人物(主に女性)を次から次へと紹介するコーナー “○○コレクション“(○○は取り上げた街の地名)で使用されているBGMこそがこのコラムの主題、パティ・オースティンの「Kiss」という曲である。

90年代からつい最近まで、およそ20年以上にわたって頻繁に使用されているので、アーティスト名やタイトルを知らずとも、この曲自体を耳にしている日本人は、実は大変多く存在しているということになる。そう、もしかしたら日本において、パティの最大ヒットはこの「Kiss」なのかもしれない。そこで、パティ・オースティンのこの曲が日本で発売された経緯を今一度ここに記してみよう。

パティ・オースティンの新アルバム!その1曲が「Kiss」


1990年代、私は日本のレコード会社・ポニーキャニオンで洋楽作品の宣伝 / A&Rの仕事に従事していた。洋楽の仕事といっても、ワールドワイドなメジャー系でないレコード会社は、海外でメジャー契約していないアーティスト / レーベルと独自契約したり、日本制作といった手法を使って、洋楽作品を制作宣伝することになる。

1995年、私は同社のA&Rという立場で、日本で売れそうな海外(主に英米)のアーティスト / レーベルを常に探していた。そんな時、アメリカ在住の弁護士から、パティ・オースティンのマネジメントがこれから制作される新アルバムの地域原盤権の買い取り先を探しているという連絡が入った。要は、アルバム制作費の一部を負担するかわりに日本を含むアジアでの販売権を持たないかという提案だった。

パティ・オースティンの新アルバム!日本での知名度・実績は特定の層には申し分ない、ある意味エスタブリッシュド・アーティストからのオファーに私は飛びついた。もちろん、損益分岐等の計算を充分に行ってからの契約締結になる。アルバム制作は主に米マネジメントが主導していく中、そこに収録する1曲を100%日本サイドで制作、かつ先行シングルとしてリリースをする運びになる。

そう、その1曲こそが資生堂の口紅 “レシェンテ” のCMソングとなる「Kiss」だった。日本で制作したアップテンポでロッキッシュなバックトラックを何度かやり取りして、パティ、そして資生堂のオッケーをもらえば、いよいよ本人の歌入れとなるが、レコーディングに関しては彼女に来日してもらうより、日本スタッフが渡米してパティ馴染みのレコーディングスタジオで録音という流れになった。

憧憬を抱き続けていたパワーステーションでのレコーディング機会


1995年初秋、私と「Kiss」のサウンドメイキング兼プロデューサーの2人は米ニューヨークに降り立った。早速指定されたレコーディングスタジオに向かうのだが… そのスタジオというのがなんとパワー・ステーション!シックの一連のアルバムに記された眩しいクレジット “Recorded at Power Station” のパワー・ステーション! ブルース・スプリングスティーン、ローリング・ストーンズ、マドンナ等々がレコーディングしたあのパワー・ステーション! そう、ある種の憧憬みたいなものを抱き続けていた『パワー・ステーション・スタジオ』でレコーディング機会を与えてくれたパティには感謝しかなかった。

ちなみにこの『パワー・ステーション・スタジオ』、当時は “とっぱらい”(当日の支払い)の支払いしか受け付けないということで、日本から現金1万ドル(当時レートでおよそ100万円)を握りしめていたのは言うまでもない。武者震いしながら足を踏み入れた伝説の『パワー・ステーション・スタジオ』は、意外にもこじんまりとしたキレイとは言い難いごく普通のスタジオだったが、ロビーに飾られていた数々の名作アルバムのジャケットを発見するとボルテージはマックスに。

“ああ、これがプロフェッショナルってやつか” と痛感


ちょっと遅れてコーラスシンガーを引き連れて現れたパティ・オースティンは、予想通りというか案の定というか、もう実に貫禄充分。挨拶にも丁寧に応えて、どっしりと椅子に座る姿はスター歌手という佇まい… さすがパティ。事前にトラックはもとより、歌唱に関するやり取りもしていたので、“もうすべてわかってるわよ”と言わんばかりに打ち合わせもそこそこにレコーディングブースに入っていくパティを見て、“ああ、これがプロフェッショナルってやつか” と痛感した次第。

実際、プロデューサーの指示も100%理解しながらの、期待以上の歌声を披露、レコーディングは実にスムースに進んでいった。パティの歌録りがある程度終了したら、早い夕飯代わりにとデリバリーを頼んでしばし休憩歓談へ。ここでパティとコーラスの女性シンガー(旧知の仲で非常に親しそうな関係)と歓談していたら、パティが “アルバムのレコーディングで70~80年代のソウル系ヒットソングを1曲カバーする予定なんだけど、何かいいの思いつく?” なんて尋ねてくるなんて、これはもう私にとってはお手の物な質問! 即答で10曲くらい挙げてみると、満面の笑顔で “なぜそんなに詳しく知ってるの!? あなた日本人よね” と、一気に打ち解けムードに(笑)

そして、ここぞとばかりにアメリカ人にしかわからないような10曲、さらにアフロアメリカンならば知る通好みの10曲と、およそ30曲ほどを立て続けに提案。パティは1曲1曲に大きな反応を示しながら大爆笑、期せずして和気あいあいなピザパーティとなったのだった。その後コーラスの女性シンガーが、1980年代に数々のソウル系名作アルバムでバックコーラスをつけていた有名歌手ラニ・グローブスであることが判明。クレジットマニアだった私は、その名に大反応したのは言うまでもない。その後、残りの歌録りを済ませレコーディングは巻きで終了。記念すべき『パワー・ステーション・スタジオ』での録音は、パティの高いプロ意識で予定より早めに幕を閉じたのであった。

「Kiss」が収録されたパティのアルバム「ジュークボックス・ドリームス」


このような経緯で、パティ・オースティンの新曲「Kiss」は1995年12月にリリースされた。そして、ほぼ同時期にスタートした伊武雅刀のナレーションによる資生堂 “レシェンテ” CM。さらに翌年9月、大きな話題のもと「Kiss」が収録されたパティの新アルバム『ジュークボックス・ドリームス』が予定通り発売されたのだった。アルバムに収録された70年代ディスコクラシックたるマーヴィン・ゲイ「黒い夜」のカバーは、私のサジェスチョンによるものなのかどうかは、神とパティのみぞ知る、といったところか。

その後の、テレビ東京『アド街ック天国』における「Kiss」使用経緯に関しては皆さんのほうがよくご存知かもしれない。ポニーキャニオンから持ちこんだものではなく、自然発生的に使用されたパティ・オースティン「Kiss」。なんとシングル発売から30年近く経った2024年12月に同曲の配信がスタートした。それなりに長く生きていると思いがけないことが起こるものなんだな。またパティとヒットソング談義をしてみたくなっちゃったよ。

なお今回の配信、アド街コーナー の “○○コレクション“ で使用された尺と同じ35秒編も同時配信され、TikTok、Instagram、Facebook、YouTube shorts で音源が使用できるらしい。この曲にあわせ、自前のコレクション動画をアップする絶好の機会となっているので、ぜひチェックしてみてください。

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