【編集スタッフ座談会】九州の“書きたい人”と歩んだクオリティーズの4年
創刊以来、我々は〈九州のいいヒト、いいコト、いいシゴト〉をテーマに数多くのローカルプレイヤーや企業に取材をし、それぞれが本当に大切にしている価値観や言葉にできない深い想いを紐解いてきました。ときに事業であったり、まちづくりであったり、途方もないチャレンジであったり。各地域で紡がれる、小さくも尊いモノガタリたちを丁寧に拾い集めてきたのです。
2024年6月9日、クオリティーズは4周年を迎えました。
この重要な節目に、クオリティーズ4年間の歩みと、地域メディアの可能性について「書くこと」を仕事に選んだ3名のライターと編集スタッフらが語り合います。編集部が見つめてきた、この島のさまざまな動き、芽吹き、胎動。そして社会課題の最前線ともいえるローカルにおける地域メディアの役割とは。
〈2024年5月某日〉
「本気だとは思わなかった」「4年も続くとは」
〈▲写真左より近藤耕平(ライター)/伊集院隆仁(編集デスク)/浅野佳子(ライター)/福永あずさ(ライター)/日野昌暢(編集長)〉
日野「クオリティーズは九州中のライターさん、編集者さん、そしてカメラマンさんとつくりあげているローカルメディアで、みなさんのお力添えがないと続けることができなかったと思っています。今回は4周年記念座談会ということで、クオリティーズのライターさん3名に集まっていただきました。
浅野さん、近藤さんは福岡市在住の初期メンバーで、本当にたくさんの記事を書いてくれています。熊本から参加いただいている福永さんは書き手としてはもちろんのこと、熊本で自主企画の個展を開催されていたり、多様な視点を持たれており、ご参加いただきました。みなさん、お忙しいところありがとうございます」
浅野「それにしても4周年ってすごいですよね。失礼を承知で言いますけど、最初にお声がけいただいたときはクオリティーズが4年も続くなんて思ってもなかったんですよ。私も昔、地元・熊本の出版社に勤めていたんですけど、所属した2社とも倒産していて、ローカルメディアの難しさを嫌というほど分かっていたので。日野さんに最初にお会いして、クオリティーズの説明を受けているときも『言ってることはわかるけど、実際にどうやるんだろう?』って素朴に思っていました」
〈▲ 浅野佳子/熊本県出身、福岡市在住。日野曰く、“取組みフェチ”。地域の取組み、まちのうごめきに感度の高いライター〉
福永「私も日野さんからクオリティーズのお話を聞いたときに、『どれぐらい本気なの?』と少し疑っていました。現場に足を運び、対面で仕事をすることを大切にしていることもあり、 東京に住んでいる“大手企業の人” と一緒にできるのかも不安で。
ただあのときは、私の仕事的にも、いよいよ長い文章を求められなくなっていたタイミングで。熊本でも紙媒体がほとんどなくなり、Webメディアは長文といっても、そのまま書き起こしたような記事や掛け合いの文章ばかり。全然それが面白いと思えなくて、ウェブと紙の良い落としどころってないのかなって、ちょっと悩んでいたときでもあったんですよね。だからクオリティーズのような“書けるメディア”というのは魅力的でした」
〈▲ 福永あずさ/宮崎県出身、熊本市在住。言葉の力を信じ、言葉で勝負をする編集者・コピーライター〉
近藤「僕の場合は、新卒で東京のスポーツ新聞社で勤めてはいたんですが、一人前の記者になる前に退社。福岡に戻ってからも、長らくライターの仕事はしていましたけど、どっちかというと編集に軸足が置かれていたし、それまでのキャリアで長い文章を書いたことがなかったんです。だから本当にここまでの“書き仕事”が自分にできるんだろうかという不安がありました。自分自身への挑戦もあって、やってみようと思ったのが4年前の正直な気持ちでしたね」
〈▲ 近藤耕平/福岡県北九州出身、福岡市在住。クオリティーズ編集部での担当記事本数はNo.1の職人的ライター〉
伊集院「みなさん基本的に疑いと不安感しかない中、ご参加いただいたことを今知りました。とはいえ、4年やってこれたわけですよ。みなさんとしてはこの4年、振り返ってみていかがです?」
浅野「一緒にやってきて思うのは、今までの仕事ではお会いできないような人に取材できる面白さがこのメディアにはあること。雑誌が追いかけるタイプの人って、ある程度“話題の人”になりがちだけど、クオリティーズは“そうじゃない人”たちの言葉を聞こうとするじゃないですか。
あとはPR記事と通常の記事の垣根がないのも特徴ですよね。PR案件の取材対象者の方もめちゃくちゃ面白い方が多い。特に私は福岡の機械メーカー・三松さんに繰り返し取材させてもらって、定点観測みたいなことができています。これってなかなかない経験で、毎回行くたびに驚きがあるし取材も楽しいですね」
日野「クオリティーズは九州の優良企業にスポンサーになっていただきつつ、みなさんが大切にしている価値観や “物語”を捉えてPR記事を手掛ける。メディアとしてのマネタイズをPR記事の制作で実現しつつ、その記事で企業の認知度を上げ、新しい人材獲得にもつなげることで企業にさらなるメリットをもたらし、地域に広く貢献していくことを目指す。これは“金融の地産地消”を掲げる九州の投資会社ドーガンがメディアオーナーになって、九州にある“いいヒトいいシゴト”と繋いでくれているからこそ、実現できているモデルかなと思います」
〈▲ 日野昌暢/クオリティーズ編集長であり、麺と焼酎を愛する九州人〉
伊集院「ただ、こうした企業の取材は難しい側面もあって。クオリティーズで取材させていただくローカル企業は社会的価値や大切にしている思いなどを、“外向け”に積極的に発信してこなかったところも多く、事業そのものがキャッチーでなかったりもする。誤解を恐れず言うと、取材対象としては“映え”ないところもある。
でも、だからといってそうした企業の活動を捉えなくていいのかというとそうじゃない。映えようが映えなかろうが、また事業規模の大小に関わらず、地域で事業を成立させていること自体が素晴らしいわけです。今回の参加者でいうと近藤さんは、PR記事をたくさん担当いただいていますが、まとめるのが難しい企業さんでも毎回、魅力をしっかり捉えて記事にしてくれていますね」
〈▲ 伊集院隆仁/編集デスク。鹿児島にルーツを持つ、名前だけやんごとない庶民〉
近藤「取材時の伊集院さん、日野さんの援護射撃にいつも感謝しています。ある程度決まった時間の中でインタビューする場合、最終的なアウトプットを見据えて話を聞いていくと、取材がやや平坦になってしまうときもあって。そんなときにお二人がカットインしてきて、違う方向からの問いを投げかけてくれて、それが突破口になって思いがけずいい話が聞けたりもするんですよね」
福永「私もクオリティーズの取材のやり方にはある意味、衝撃を受けましたね。たとえば最初に取材・執筆をした、天草の深川沙央里さんは過去に取材したことがあったので、追加のエピソードが聞けたらそれなりの記事にできると思っていたんですよ。でもリモートで参加された伊集院さんの切り込み方がすごくて、使うか使わないかわからないエピソードまでめちゃくちゃ掘る。その鋭い視点は、ちょっと目からウロコでしたね。リモートであろうと、対面取材であろうと、編集部のこの姿勢があるからクオリティーズはやれるんだなというのがわかった瞬間でもありました」
日野「本人からは言いづらいと思うので代わりに言いますけど、一緒に仕事をしている九州のライターさんから、実は編集者・伊集院の評価が高いんですよ。取材もそうだし、編集ディレクションや原稿のチューニングなど。このあたり本人はどう思っているのかなと」
伊集院「こそばゆい、としか…。いたって当たり前のことしかしていないのですが、もしいい仕事をしてくれていると思われているのだとすれば、やはり僕自身が若い頃に、素晴らしい編集者に育てられた経験があるからだと思います。もちろん手取り足取り教わったわけじゃないけど、それを近くで見てきたのは大きいのかなと。
取材で深堀りするのは、性癖みたいなものでしょうか。『改めて聞かれたけど、自分はこんなことを考えていたことに気づきました』的な反応が好きで。そのときに偶発的に生まれてきた言葉や新しい発見にやたらと興奮するじゃないですか」
日野「わかる」
伊集院「上がって来た記事をまとめるときも、ライターさんはここを捉えたのか、こういう気持ちなんだな、という視点を受け止めつつ、一緒に取材した僕の視点も少し加えて、読者にそれらの意図をより読み解かれるよう推敲しているので、どこか共同作業をしているような感覚なんです。編集者はただの発注者ではないですから、“それ”をしなかったら僕の存在価値がない。ということで、これ読んで僕らと一緒に仕事したいなと思った九州在住のライターさんは、是非クオリティーズ編集部にお問い合わせください」
ローカルライターはもはや絶滅危惧種なのか
日野「クオリティーズを立ち上げてしばらく苦労したのは地域の書き手を探すことでした。4年やってようやく各県で、地力のあるライターさんとつながることができましたが、基本はどこの地域も“書く人”が足りていないように感じています。新規店舗のオープン情報や、注目の地元グルメ、お出かけスポット情報を書けるライターさんはいるんです。でも地域で起きている本当にシェアすべき取組みや事業を取材して、それを読み応えのある原稿にまとめ上げる人材が枯渇している」
浅野「その手のライターがいないのは、そもそも鍛えられる〈場〉がないからに尽きるのかなと思います。出版社にせよ編集プロダクションにせよ、少し前までは熊本や福岡にも〈場〉があったんですよ。もちろん東京に比べると規模は小さいですよ。でも〈場〉があったから〈人〉が育った。写真に行く人、広告系で活路を見出す人と、その〈場〉から飛び立つことができました」
日野「そうやって地域に“メディア生態系”みたいなものがあったわけですよね」
浅野「そうです。もちろん意志があれば個人メディアでもなんでもできる時代だけれど、そこまでのモチベーションが湧かないときに、職能的に育つ環境がなくなってきている影響は、これからますます顕著になってくるんじゃないかなと思っています」
日野「かつてはタウン誌の編集者やライターさんが、一般の生活者とは違った視点でまちをみつめてきて、それを言葉にしていたけど、多くの地域でそうしたメディアがなくなり、ライターさんは書く場所を失いつつありますよね。それはライターさんを孤独にするかもしれないなと思っていて。またその状況になると、誰がまちを俯瞰して見つめていくんだろうか、とも思っていたり」
福永「そうですよね。自分で映画をつくったり、イラストレーターとして個展を開いたりとか、なんらかの創作活動をしている方は熊本にもいるんですよ。でも、文章を書く若い人は圧倒的に少ない。いないわけじゃないけど、浅野さんが仰るように育つ〈場〉がないんです。
ちゃんとした文章を書ける力が身につくまでは時間がかかるし、かと言って資格が必要でもないし、徒弟システムがあるわけでもない。必要な仕事だとわかっていても、農家さんが過酷な農業を我が子に継がせたくないと思われるように、私も若い世代に『ライターになりなよ』とは積極的に誘いづらい。だって、文章書くのってめちゃくちゃ面倒くさいですから(笑)」
浅野 「ただテキストメディアが厳しくなることが悲観的なことなのかどうかは、ちょっとわかんないです。メディア全体の景色を俯瞰すると、動画にせよ、写真にせよ、ローカルにも別のやり方で伝えられる能力のある世代も出てきているので。そういう意味でいうと、私たちライターは滅びゆく絶滅危惧種なのかなって気がしないでもない」
伊集院「それは言わない約束ですし、気のせいってことにしておきましょう。ですよね、近藤さん」
近藤「え、そこで振りますか。まぁ、他の媒体だと、文字数を減らしてくださいってリクエストを受けることが年々多くなっていて、クオリティーズは明らかに時代に逆行していますからね…」
伊集院「否めねぇ。先日、クオリティーズの飲み会の席でライターの正井彩香さんから『すいません、原稿まとめてたら1万8000文字になったんですけど、どうしたらいいですか?』って聞かれて、飲んでいた焼酎ソーダを吹き出しそうになりました。クオリティーズの記事は、だいたい5000ー7000文字くらいがひとつの目安になってますが、その約3倍。
でも、それだけ書きたいことがあるってことなんですよね。『その取材対象者さんを知ってもらうために必要な文字数であれば問題ないです』って返したら、ひたすら拝まれました。こういうライターさんが在籍していることが、この編集部の強みだし、そもそも6000文字を読んでくれる人は1万8000文字だって読んでくれる。いいんですよ、それで」
近藤「堂々と時代に逆行していくスタイル(笑)。ただ、どこを捉えるのか、どんな問いを立てるのかというところが、これからのメディアには求められているような気がしていて、クオリティーズはそこには応えているようにも思うんです」
近藤「要は生成AIが台頭してきて、ライターとしては脅威を感じてはいるのですが、そうなってくるとただ長い文を書くとか、インタビュー音源を要約するみたいなことに価値はなくなってくるじゃないですか。一方で僕らがやっていることって、取材対象者の発言の書き起こしでも、要約でもなくて。その人の言葉を自分の中で噛み砕いて、こういうことを言いたいんだなってところを、自分の言葉で書いているので、今のところAIがすべてをやれる領域でもないというか。それをあの分量で書くところにクオリティーズの面白さであったり、僕らライターの職能が発揮されていると思っています」
伊集院「めっちゃいいこと言う…それ僕が言ったってことにしていいですかね」
福永「あれだけの文字をWebで一気に読ませるってすごいことだけど、本当に心のある文章だったら読んでもらえるんですよね。実際、クオリティーズの原稿は長くても、ちゃんと読まれるし、取材対象者さんの名刺代わりの記事にもなっている」
日野「おっしゃるとおりで、取材をした方からは『自分のことを知ってもらえる記事になっている』と感謝されることも多いです。そして記事をきっかけに新しい展開が生まれることもあって。福永さんが担当した天草の深川沙央里さんは、クオリティーズ記事をきっかけに書籍を出版。また、先ほども名前が挙がった正井彩香さんが書いた福岡・奥八女の髙木茶園さんの記事は、地元放送局の目にとまりテレビでも紹介されました」
福永「やっぱりクオリティーズのライターさんってすごい! ここにいない方も、みんな素晴らしい。あれだけ長い文章を、ちゃんと読んでもらえるように書くのってすごく難しくて。何より、取材対象者さんへの尊敬と愛情がないといけない」
浅野「そうそう。長かろうが短かろうが『書く』という行為に関しては、多分やろうと思えば誰でもできるんだけど、“他人”の話をちゃんと聞けないと書く中身がどうしも薄くなる。どれだけ目の前にいる相手を面白いと思えるかが大事なんですよね」
福永「それをやりきれる書き手が九州にいるんだっていうのもクオリティーズに参加して知ったことだし、そんな方々が九州にいることがうれしい。私は記事の担当数は少ないですけど、クオリティーズのライター陣にはものすごく仲間意識を持っています」
クオリティーズという“箱”の中でやってみたいこと
浅野「去年の3周年のタイミングで、クオリティーズファミリーが一堂に会したイベントがあったじゃないですか。スポンサー企業の方々や取材をした人たちやライター陣が九州中から福岡に集結した日。あの様子を見たとき、すごく良いプラットフォームになっていると実感しました」
日野「僕もあの風景を見て胸が熱くなりました。僕らは個別に取材をして、みんなが素晴らしいというのを感じていたわけですが、その仲間が集まり、それぞれがつながっていく。Tシャツ姿のボトムアップ系のローカルプレイヤーと、ビシっとスーツに身を包んだスポンサー企業の皆さんは、生きている世界線は違うけど、みんな九州や自分たちが暮らすまちを良くしたいという共通の思いがあるんですよね。その思いを、クオリティーズという“箱”の中で混ざり合わせれば、新しい何かをこの九州に生むことができるんじゃないかと期待しているんです」
日野「すでに、クオリティーズファミリー同士でいくつか事業が生まれたり、新しい取り組みをやろうと動いてくれたりしている。いずれも自然発生的なものですが、僕らもその動きに積極的にコミットできるんじゃないかと思っていて。つまり僕らの方から仕掛ける、という意味です。ちなみに、クオリティーズという箱をつかってやりたい仕事や取組みなどあったりします?」
近藤「僕はWeb記事だけではなく、企業に関する書籍をつくってみたいですね。どの会社も創業者や経営者の理念、事業の概要や歴史などをホームページに記載はしていますが、その背景にある思いや、そこに至る物語はなかなか書ききれない。クオリティーズの取材でもお聞きしたことを、すべて書けているわけでもないので、まだ言語化されてない各企業の思いを本にできればいいなと」
浅野「実は最近、ある本をつくったんです。畜産や農業を生業としている熊本の阿蘇さとう農園さんとのお仕事なんですけど、羊をテーマにした180ページのZINE。阿蘇の草原を未来につなげていくために、草を食べる羊を飼う取組みをされているんですが、それを支援するクラファンのお礼の品として熊本のプロデューサー、デザイナーと一緒に作ったもので、これが我ながらいいんですよ(笑)。自分の職能が、違う分野の方々とのコラボレーションで新しい価値を持つことができるんだなと感じた仕事でもあったので、そういうことがクオリティーズでもできたら面白いなと思っています」
〈▲ ライター浅野が手掛けた『みどりいろの羊の本』。発行元:阿蘇さとう農園 企画:Yoshiki Izawa(PONO)、デザイン・イラストapuaroot〉
日野「いいですね。実際、ライター陣のみなさんも書くだけでなく、企画の仕事とかをメインでやられている方も多いじゃないですか。そういう意味では、みなさんのライティングの筋肉、編集脳で、別の関わり方もできるかなと思っていたりもするんです。たとえば福永さんはクオリティーズでも取材をした熊本・黒川温泉の北山さんとも、すでにそういう関わり方をされているそうですね」
福永「ええ。今、進めているのは黒川温泉に誕生する新しい食の拠点づくり。同じ熊本のデザイナーや建築家、植栽、内装のプロなどと一緒に、コミュニケーションのお手伝いをしています。地元の人たちとみんなで作っているので楽しいですよ。そういう意味では、私は企業となにか事業を、というよりもまちとか村とか、地域で何かを始めるときに関わりたいかな。何も決まってないタイミングで、最初のヒアリングとか、調査とかワークショップとか。そういうのに関わりたいというか、好きなんですよね」
伊集院「そうやってリアルに関わっていける仕事をご一緒できるようになるといいですよね。さきほどの『ライターは絶滅危惧種』ってパンチラインが頭から離れないのですが、みなさんの取材能力、思いを言語化する能力、それを編集して一つの物語に仕上げていく能力――それらを拡張させていけば、リアルな事業や取組みに携わっていくこともできると思うんです。だから絶滅する前にいろいろ仕掛けていけたらいいと(自分にも言い聞かせつつ)強く思っています」
九州のウェルビーイングを見つめていく
伊集院「実はクオリティーズのタグラインを半年前ぐらいに少しだけ変えているんです。ローンチ時からあった“九州のいいヒト、いいコト、いいシゴト”は残しつつ、そこに“ウェルビーイング見つめる、見つかる。”を追加しています。もともとウェルビーイング的な価値観を持って始めた媒体でしたが、改めてそこを打ち出した方が、メッセージが伝わるだろうという判断で。
“そこ”を見つめる姿勢を持てば、幸せはきっと見つかる。ここにもあった、あそこにもあった。それを一つひとつ拾い上げて、九州中の多様なウェルビーイングを可視化していこうと思っているんです」
日野「皆さんの周りにある幸せな状態とはどんなものですか? 僕の場合は、人と人とのいい関係が生まれているってことに尽きます。それが大前提で、加えて言うなら自分自身がやりたいと思っていることをやれている人はみんな幸せそうですよね。事業規模の大きさとか小ささとか、社会へのインパクトの大小にかかわらず、自分がやりたいことをやっていることは大切なんだなと思います」
日野「世の中的には、東京で大きな仕事をしている人はハッピーに見えるかもしれないけど、当人が本当に幸せかというと必ずしもそうじゃない。どっちが幸せかっていうとクオリティーズで取材させていただいている人たちの方が幸せそうに、少なくとも僕には見えるんですよね」
伊集院「手触り感のある仕事ができているか。そこに自分と他者や地域社会との関係付けを見い出せているのか。そこが大事で、人を幸せにするのではないかということですね」
日野「そうそう。自分が関わりながら何かを構築したり、参加している状態にある人たちが明らかに幸せそうなんですよ。あとは人と比べないこと。誰かを羨んで、『私はそうじゃない』『自分はできていない』みたいなことを考え始める人は不幸になるので、他者と比べることなく、自分がやりたいことをしている人が幸せなのかなと思っています」
浅野「取り組んでいることはそれぞれ違うんだけど、こういう世の中になったらいいな、という大きな目的があって仕事をされている人は、なんか幸せそうですよね。言葉にするのは難しいけど、“次の人間観”みたいなのを持っている人。東京にももちろんいると思うんですけど、従来の価値観とは違う別の概念で動いている人。何かに気づいてる人。
私は私で、仕事を通じてそういう人に会えるから楽しいし、自分にもすごくいい影響があると感じています。やっぱり環境で人が作られることも大いにあると思うので、 “次の人間観”を持つ人と一緒にお仕事ができるのは、幸せです」
伊集院「クオリティーズの取材でも、次の社会のあり方を模索している人、自分なりの仮説や概念を社会実装しようとしている人はたくさんいらっしゃいますよね。それぞれの適性で、それぞれのやり方で地域社会に貢献できていたり、面白いことができていたり。
普通にニュースとか新聞を読んでいると、地域の現実や未来は『暗い』ものだと思いがちだけど、実際に現場で動いている人たち見ると、あんまり悲観しなくていいように感じることも多いじゃないですか。確かにそれぞれ大変ではあるし、一筋縄ではいかないよなとも思いつつ、なんとかできている人を見たときに勇気づくっていうのはめちゃくちゃわかりますね」
日野「地域に生きる人にとって、学校や会社とかそういうとこじゃないところにも自分の役割がある状態というか、地域社会に参加できる場所が複数あることって、すごく大切な幸せの条件だと思うんですよね」
福永「私は、それを依存先がたくさんあることだと思っていて。甘やかしてくれるところがいくつもあって、何かあったときに助けてくれる人だったりとか、話を聞いてくれる人がいる状態。対話できる関係の人だったりとか、今は会えてないけど、想ってるよみたいな人がいたりとか。自分がそんな状態にあることが、幸せの条件だなと思っています」
近藤「僕は自分の人生を振り返っても、そんなに主義主張が強いタイプではないんですけど、子どものときから唯一大切にしているのは“正直者が馬鹿を見る世の中は嫌”ということ。だから人のため社会のため、一生懸命に頑張っているけれども、それが正当に評価されていない人を放っておくのがものすごく嫌で」
近藤「クオリティーズでも経営者の方をインタビューすることが多いのですが、どの方も例外なくもがき、苦しんでいる。みなさん必死に戦っている。なぜ、そこまで頑張るのか。なんのためにやるのか。その本音を記事にすることで、地域で頑張っている人に少しでも光を当てたいし、彼らの頑張りが報われる世の中になってほしい。青臭いことを言ってますけど、僕は今、自分が大切にしてきた価値観に偽りなく仕事ができているので、幸せだと思うんです。とはいえ今も記事を書くのは本当に苦しい。毎回、毎回クオリティーズの原稿もパソコンの前で悶えながら書いていますけどね(苦笑)」
伊集院「苦しみと幸せが表裏一体なところがなんとも」
福永「みんな大変な思いをしながら、書いてるんですよ。めちゃくちゃ大変で面倒くさいけど、やっぱりそれができるライターさんがクオリティーズに集まっているのは、本当に素晴らしいことだと思います。
そうそう、クオリティーズの記事って、Webにしかアーカイブされていないんですよね? これだけ膨大で、貴重なインタビューを紙にまとめるだけでも面白いことになるんじゃないかと思うんですけど、そういうことは考えてないんですか?」
伊集院「それ、やりたいんですよ。実際に触れられる『モノ』として残すことも大切だし、クオリティーズの編集方針で1冊の本がつくれたら、すごく地域資産にもなると思っていて。それにクオリティーズ編集部には、紙の編集のプロが何人もいる。5周年のタイミングで出せるよう動いてみましょうか」
日野「あとは途中でも話に出たけど、クオリティーズでつながったさまざまなプレイヤーと企業をつなぎあわせて、事業開発もしていきたい。地域経済に少しでも貢献できるような、もしくは地域の暮らしをちょっとでも豊かにできるような取組みをクオリティーズファミリーのみなさんと一緒にやっていきたいですよね。ライターのみなさんのお力もいただきながら、みんなでやっていきましょう!」
撮影:東野正吾(PHOTOLAND107)