「ノーマン選手が欲しくてたまりません」“佐々木尽語録”にあふれる世界ウェルター級王座への熱い思い
国内36年ぶりのウェルター級世界戦、19日ゴング
プロボクシングのWBOウェルター級タイトルマッチ(19日、東京・大田区総合体育館)で王者ブライアン・ノーマン・ジュニア(24=アメリカ)に挑む同級2位・佐々木尽(23=八王子中屋)が17日、横浜市内で行われた記者会見に出席した。
後楽園ホールで尾崎富士雄(帝拳)がマーク・ブリーランド(アメリカ)に4回TKO負けした1989年以来36年ぶりに国内で行われるウェルター級の世界戦。会見は挑戦者の魅力が詰まった“佐々木語録”のオンパレードだった。
「ノーマン選手が日本に来て対戦してくれることに感謝したいです。日本にベルトを置いていってくれてありがとうと伝えたい。勝つのは僕なので、絶対にベルトを離さない。ノーマン選手がベルトに見えて仕方ない。ノーマン選手が欲しくてたまりません」
会見を見ずにコメントだけ読むと、求愛しているのかと誤解しかねないほどの入れ込みよう。王者がベルトに見えるほど、ベルト奪取に執着しているということだろう。王者に対してはこう呼びかけた。
「ノーマン選手は男として素晴らしい。そのまま僕とぶつかってほしい。男と男の勝負をしよう。絶対面白い試合になるんで逃げないで戦ってほしい。逃げてもいいですけど。歴史に残る最高の試合をしましょう」
くっついても離れても戦えるノーマンだが、世界的な評価では“格下”の佐々木から逃げるとは思えない。もちろん、挑戦者の強打を警戒して距離を取ることもあるだろうが、27勝(21KO)2無効試合の無敗王者はおそらく倒しに来る。佐々木は王者を挑発して心理戦を仕掛けたのではなく、純粋な気持ちでそう言ったのだろう。
そう言えるだけの状態に仕上がったことも舌を滑らかにしたようだ。コンディションについてはこう断言した。
「調子もMAXだし、全てMAX。体が壊れるか壊れないかギリギリのところで、今日を迎えられるのか不安で怖かったけど、完璧な状態に仕上げたんであとは勝つだけです」
というものの、戦前の予想は挑戦者不利。パワーでは互角にわたり合えても、スピード、テクニックでは王者が上だ。佐々木が勝つとすれば、王者のエンジンがかかる前に早い回でのKOしかないように思われる。
「(王者の)公開練習を見て厳しいという声が多いけど、それが嬉しい。勝った時にその方が盛り上がる。今の実力から客観的に見て8:2くらいで勝てると思ってます。勝った後の盛り上がりが楽しみですね」
試合へのムードを盛り上げるために演出としてビッグマウスになる選手もいるが、佐々木の場合はどうも違う。本気でそう思っているように受け取れるのだ。
無骨で不器用で純粋で…。佐々木の魅力はパワフルな左フックだけではない。ボクシングスタイル同様、真っすぐな人間性こそ、ファンを魅了する最大の要因かもしれない。
ボクシングに青春の全てを捧げてきた男として、夢の世界戦のリングに立てることが嬉しくて仕方ない。そんな思いが言葉の端々に表れていた。
井上尚弥も「歴史を変えてくれ!!」
佐々木を指導してきた中屋廣隆トレーナーも世界戦に辿り着いたことに感慨深げでもあり、自信ありげでもあった。
「尽を12歳から育ててきた。3年前からこの日のためにラスベガスで何回も練習を重ねて、スパーリングパートナーの質はチャンピオンに引けを取らない。全てのパンチを磨いてきた。切れる日本刀のように」
佐々木が八王子中屋ジムの門を叩いたのは中学1年の時。当時は柔道をメインに習っており、中屋トレーナーは「入ってきた時はやんちゃ坊主で特に何も感じなかった」と印象に残っていなかったことを明かす。
しかし、定時制の高校進学が決まった時、佐々木が「ボクシング一本でやります」と宣言。二人三脚での歩みはそこから始まったという。
中屋トレーナーは高校を卒業するまでにボクシングが職業だと言えるようにすると約束。「ファイトマネーをたくさんあげられるようにスポンサーにも紹介した。高校の2年間アルバイトをしただけで、彼はボクシング以外の仕事をしていません」と振り返る。
入門から11年。世界王者を夢見てボクシングに専念してから8年。愛弟子は21戦19勝(17KO)1敗1分けのハードパンチャーとして世界に手の届くところまで来た。
「最低25戦くらいやりたかったけど、それに見合うだけの練習をしてきた」とトレーナーとして25戦程度のキャリアを積んでから世界挑戦の青写真を描いていたことを明かし、同時に自信も示した。
4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(大橋)も会見を見たのだろう。自身のXで「佐々木尽の楽しみが溢れちゃって伝えたいことが上手く伝えられないところもまた魅力。歴史を変えてくれ!!ノーマン選手が欲しくてたまりませんは反則です」と投稿し、期待を示した。
勝つ可能性が低いのは誰もが知っている。しかし、本人だけは勝利を信じて疑わない。「奇跡」が起きるのはこんな時なのだろうか。
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記事:SPAIA編集部