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吉田松陰も通った古道 “通行禁止の道”復活へ一歩【河津・二本杉歩道】

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幕末に吉田松陰や、初代アメリカ総領事ハリスが通った道「二本杉歩道」を復活させようと、地元の有志たちが登山道整備を始めました。木や石、枯れ葉などを使って自然に溶け込むよう地道な方法で、由緒ある道が徐々に姿を現しています。

「通行止め」の先へ

二本杉歩道の入口 10年前から「通行止め」(静岡・河津町)

こけむした橋には「山腹崩壊による土砂流出のため通行止」の表示がありました。入れないようロープが張られています。

一歩足を踏み入れると土がふかふかで、長い間、人が通っていないことを感じます。

伊豆半島の真ん中、河津町から伊豆市に続く二本杉歩道は、江戸末期から幕末にかけて伊豆の主要道路として使われた「下田街道」の一部です。

点線が二本杉歩道 天城トンネルの西側

倉原卓也さん:
下田で黒船に密航しようとした吉田松陰が捉えられ、江戸に送られた時に通った道です。アメリカ初代駐日総領事のハリスもこの道を通りました

案内してくれたのは、河津町から補修の依頼を受けて二本杉歩道の整備を2023年から始めた天城トレイルワーカーズの代表・倉原卓也さん(41)です。

倉原卓也さんと同行した関係者

人が立ち入らなくなり荒れ果てた登山道ですが、歴史も自然も魅力が詰まったこの道を、また人が歩けるようにしたいと、仲間とともに整備をしています。

今回は、倉原さんたちの点検に同行させてもらいました。

※二本杉歩道は通行止めです。橋が崩落したり、道が不明瞭な箇所が多くありました。安易に足を踏み入れぬようお願いします。

「近自然工法」を知る

倉原さんの本業は河津町を拠点とするアウトドアアクティビティのガイドで、渓谷を下るキャニオニングを得意としています。

生まれは大分県で、豊橋市の大学でプログラミングを学んでいましたが、伊豆のアドベンチャーレースに参加したことをきっかけに、自然の中を駆け抜けるアクティビティに目覚めます。

右)倉原卓也さん(画像提供:倉原卓也さん)

陸上自衛隊員を2年間務めた後、妻の実家がある河津町に住みました。

トレイルランニングのコース整備にも関わる中で、多くのランナーやハイカーが踏みしめた登山道が荒れていく状況を目の当たりにしました。

伊豆エリアの登山道 道がえぐれ深い溝になっている

その時に知ったのが、北海道の大雪山系で登山道補修に取り入れられていた「近自然工法」です。この考え方は近年全国に知られるようになり、自然に学び、自然の力を利用しながら、登山道とその周囲の植生を復元したり増やすことで、自然と人とを共存させる手法として共感を得ています。

二本杉歩道を歩きながら、自然と共存するよう目指して整備した箇所を見せてもらいました。

道なき道を進む

倒木をくぐって進む 案内がなければ道を見失うほど

人が歩かなくなって10年。二本杉歩道は倒木に阻まれたり、やぶが茂ったり、倉原さんの案内がなければ道を見失うほど荒廃していました。

それでも、所々に当時の石垣が姿を現し、幕末のメインロードの面影を残しています。

天城トレイルワーカーズ・倉原卓也さん:
昔の人は崩れやすい場所がわかっていて、そこにはしっかりと石垣をつくっていました。丁寧な仕事だから今でも残っているんです

こけむした昔の石垣

深い山の中、重い石を運び積み上げた労力はどれほどのものだったでしょうか。

水の流れや土の動きを理解した上で先人達が築いた石垣は、雨が多いことで知られる伊豆半島の天城山周辺にあっても、幾年月の風雨を乗り越え、道を支え続けていました。

ふと登山道脇に目をやると、岩陰に子ジカが身を潜めていました。

岩陰に身を隠す子ジカ

人が山に入らなくなり狩猟者も減った現代、シカが増えすぎて新芽を根こそぎ食べてしまい、山が荒れる原因の一つになっています。

とはいえ、突然の人との遭遇に身を固める子ジカは愛らしく、一行は静かに通り過ぎました。

自然と共存する道を目指して

天城トレイルワーカーズが整備した木段

「ここが施行箇所です」と、倉原さんが指さした場所にはジグザグに丸太が組まれた階段がありました。

土が崩れ落ち、登りにくかった傾斜地に2.5mほどの木段を設置。普通の階段のように平行に丸太を並べないのは、水の流れを蛇行させるためです。

施工前の状況 画像提供:外園智明さん

丸太が平行だと水は真っすぐ流れ、勢いを増して土を削り、階段は破壊されます。

蛇行させることで流れは弱まり、水に運ばれて来た土が適度に堆積して階段は補強されます。

と同時に階段の周囲も、土が崩れてこないように補強します。

雨水の流れを考えた施行

あとは自然の力に任せます。

雨が降れば水が土を運び、階段にたまる。

数年かけ、崩れなくなった斜面には植物が芽吹いて土壌を安定させてくれます。

天城トレイルワーカーズ・倉原さん:
この施工が近自然工法になっているのかは正直まだわかりませんし、近自然工法と呼ぶには十分ではありません。目標は下草やササが茂る環境になり、その中に人が歩ける最小限の道があることです。そうなって初めて、近自然工法で施工ができていたんだなとわかると思っています

登山道を見守る石仏

倉原さんたち天城トレイルワーカーズは4~5人で2023年3月から補修を始めました。

これまでに数カ所に手をつけてきましたが、2~3kmに及ぶ道全てを通れるようにするには、時間も人数も足りません。

天城トレイルワーカーズの補修作業 画像提供:外園智明さん

さらに峠より伊豆市側は歩道の管理者すらおらず、倉原さんたちも手が付けられない状況です。

天城トレイルワーカーズ・倉原さん:
各地には歩道の管理者がいない登山道があるんです。登山道の補修ができる業者も伊豆にはあまりいません。その結果、安全が確保できないので通行止めになってしまいます

最近は全国各地の山で登山者など一般の人が参加し、自分たちにできる範囲で倉原さんたちのような技術を身につけた人に協力して、自ら登山道を守る取り組みが始まっています。

幕末のドラマが繰り広げられた歴史ある道に、再び脚光を。地元だけでなく山を訪れる人も力を合わせる時かもしれません。

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