死刑囚が脱走!潜伏生活中に見えてくる彼の目的・思いとは?『正体』試写会レビュー
代表作に「正義の申し子」「震える天秤」など数々のヒット作品を生み出した染井為人のベストセラーサスペンス小説を、第43回日本アカデミー賞にて映画「新聞記者」(19)が最優秀作品賞含む6部門受賞した藤井道人を監督に映画化した『正体』。
日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)の脱獄から始まる衝撃のストーリーとスリリングな展開が魅力の作品です。正体を変えて逃亡を続け、潜伏場所を点々とする中で、沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)と関わり、鏑木の過去や目的が徐々に明らかになっていきます。はたして、鏑木の真の目的とは一体何なのか?
試写会に参加した藤女子大学映画研究会の私たちが感じた映画『正体』の魅力をお伝えします!
思わず手に汗握る緊張感ある演出に注目
『正体』では緊張感を感じる様々な演出が施され、思わず息をのむシーンが満載です。鏑木が逃げるシーンの汗や生理的反応の細かな表現、必死に逃げる様子はもちろん、潜伏シーンの服装や特殊メイクなど環境に溶け込む逃走犯のリアルを演出。華麗なアクションシーンとは異なり、痛みを感じるような現実的な描写が、観ている者を物語の世界に引き込みます。
虚構と現実が交錯するスリリングな展開に息が詰まる
本作では、死刑囚脱獄に対する世論の変遷が、SNSというイマドキな方法で描写されています。これが鏑木の正体を疑いながら追う我々とリンクし、現実世界の事件と錯覚させる程の演出になっているのが見どころのひとつ。
名前、容姿、職業などを巧みに変え、複数の人物を装い逃亡を続ける様子は、観ているこちらまで混乱する程。また、潜伏期間中にも関わらず、職場の同僚である和也をと酒を酌み交わす様子や沙耶香との暖かい食卓など、度々映る食事シーンからは、鏑木が確かに生きていることを感じさせます。
逃走犯?関わる人々?様々な視点から楽しめる『正体』
『正体』は、視点が固定されていない映像作品の特性があり、社会に紛れ込みいつバレるのかと肝を冷やす脱獄犯の目線と、隣に居るのが凶悪な脱獄犯かもしれないという周りの人々の目線、双方の視点から緊張感を味わうことができます。死刑囚という暗い影を背負いながらも、誰かの心を温める優しさを持つ鏑木。彼の複雑な心の動きには共感せずにはいられません。そんな鏑木に翻弄されながらも、登場人物たちと共に彼の正体に迫っていく様子は、情報過多の時代に情報とどのように向き合うのか、自分の目で相手を知る大切さを感じさせてくれる物語です。
信じるとは?作中に点在する「信じる」というキーワード
「信じる、君を。信じる、この世界を。」というキャッチコピーにある通り、本作は「信じる」がキーワードになっています。逃亡生活で鏑木が出会った人物たち。彼らは鏑木が死刑囚であると知った際に、自分の見てきた鏑木とのギャップに悩むことになります。何が本当の鏑木なのか…、果たして彼らは最後に何を信じるのでしょうか。観ている我々にも、その選択が委ねられます。「信じる」が作中でどの様な役割を持つのか、ぜひ劇場で確かめてみてください!
『正体』の基本情報
■公開日:11月29日(金)
■原作:染井為人『正体』(光文社文庫)
■出演:横浜流星
吉岡里帆 森本慎太郎 山田杏奈
前田公輝 田島亮 遠藤雄弥 宮﨑優 森田甘路
西田尚美 山中崇 宇野祥平 駿河太郎 / 木野花 田中哲司 原日出子 松重豊
山田孝之
■主題歌:「太陽」ヨルシカ (Polydor Records)
■監督:藤井道人
■脚本:小寺和久、藤井道人
■音楽:大間々昂
■配給:松竹
■公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/shotai-movie