永遠の命は幸せなのか ― 手塚治虫「火の鳥」展(レポート)
手塚治虫がライフワークとした最高傑作『火の鳥』。不老不死の伝説の鳥を巡る人々の葛藤を描いた長編作品で、「生と死」「輪廻転生」といった哲学的テーマを描き、その壮大な世界観は今も多くの人を魅了し続けています。
『火の鳥』の連載開始から70年余。生物学者の福岡伸一氏が企画監修し、新たな生命論の視点から、手塚治虫が問い続けた「生命とは何か」に迫る展覧会が、東京シティビューで開催中です。
東京シティビュー「手塚治虫「火の鳥」展」会場入口
展覧会の冒頭は『火の鳥』の世界観を表現したシアタールームです。
火の鳥を、生命が破壊と創造を繰り返しながら秩序を保つ「動的平衡」と重ね合わせた映像作品。東京の絶景を望む展望台で、生命の多様性と美しさを体感してください。
プロローグ「火の鳥・輪廻シアター」
『火の鳥』は1954年に「漫画少年」で連載がスタート。その後もさまざまな雑誌で続きました。物語は紀元前から未来の西暦3000年以降まで、舞台も邪馬台国から宇宙へと広がる壮大な叙事詩です。
第1章「生命のセンス・オブ・ワンダー」では、この複雑な物語構造を、時代背景とともに年表形式で紹介。また、手塚治虫がどのように発想し、構想を深めたのかに迫り、作品に込められた自然への畏敬の念(センス・オブ・ワンダー)を探ります。
第1章「生命のセンス・オブ・ワンダー」
続く第2章「読む!永遠の生命の物語」では、「黎明編」から「太陽編」までの主要12編の貴重な原稿を多数展示します。
火の鳥は、不老不死の象徴として人間を翻弄しながらも、物語を動かし続ける存在として描かれています。ここでは火の鳥が何を象徴しているのか、そして「生命とは何か」という問いに対し、手塚治虫がどのような答えを示そうとしたのかを探ります。
第2章「読む!永遠の生命の物語」
第2章「読む!永遠の生命の物語」
手塚治虫は『火の鳥』の連載開始時、「生命とは何か、死とは何か」という問いを読者に投げかけました。作家人生の大半をかけて描き続けたものの、物語の結末は「死ぬときに描く」と語り、結局、未完のまま終わっています。
第3章「未完を読み解く」では、手塚治虫がどのように物語を完結させる予定だったのかを探究。「永遠の生命は本当に幸せなのか」「生命は有限だからこそ輝く」というテーマについて考察します。
またここでは、現代美術家の横尾忠則氏が描いた「火の鳥」も特別展示。横尾氏と福岡氏が『火の鳥』について語り合う対談映像も紹介されています。
第3章「未完を読み解く」
手塚治虫が生涯をかけて問い続けた「生命とは何か」というテーマに多角的な視点から迫る、貴重な展覧会。未完のまま残された『火の鳥』をどう読み解くかは、私たち一人ひとりに委ねられているのかもしれません。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年3月6日 ]
©Tezuka Productions