【福山市】『悲しいシンデレラの殺し方』『優しいティンカーベルの作り方』(2024年10月13・14日上演)~ 2つの物語が交差する
鍛え上げた体から発されるよく通る声。音と映像の共演。空気を通してビリビリと伝わってくる熱気。
総合芸術ともいわれる演劇の最大の魅力は、目の前で動き踊り語る俳優から放たれる膨大なエネルギーを、直に感じられることだと思います。
2024年10月13日(日)14日(月・祝)の2日間、リーディング・ファクトリーのプロデュースで、劇団宇宙キャンパスの『悲しいシンデレラの殺し方』『優しいティンカーベルの作り方』の公演がありました。会場はまなびの館ローズコムの大会議室です。
女性と男性それぞれの脳内会議を描いた、笑いあり切なさありの舞台でした。
福山の演劇界の盛り上がりを感じた公演のようすをお伝えします。
『悲しいシンデレラの殺し方』
女性10人と男性1人で演じられた『悲しいシンデレラの殺し方』は、恋する女性の物語です。
想う人に大切にしてもらえない切なさと、想いを寄せてくれる人に揺れそうになる不安定さなどが、「ワタシ」の脳内のさまざまな「女」たちのやりとりを通して描かれます。
登場するのは母性的な女、理知的な女、自虐的な女、狂気的な女など。
ワタシの内にいるさまざまな女たちが、迷い、叫び、主張します。
「幸せになりたい」
「傷つきたくない」
「自分にとって都合のいい夢を見る」
交わされる台詞は、胸の痛みを伴って見る人に染み入ってくるようでした。
折れた心。病んでいく心。
しかし、その心を立て直し、自分の力で前へと進もうとする「女」たちのしなやかな強さが印象に残りました。
『優しいティンカーベルの作り方』
一方、男性10人と女性1人で描かれたのは、恋する男性の物語です。
「ボク」が恋する女性は、「ワタシ」。
二つの物語は女性サイドと男性サイドをそれぞれ描きながら、リンクしていました。
「ボク」のなかにいるのは、傲慢(ごうまん)な男、臆病(おくびょう)な男、冷静な男、楽観的な男など。「ボク」と「男」たちの脳内会議で、舞台が進みます。
「キターーーー!」
好きな女性からのメッセージに一喜一憂する男たちのかわいらしさ。
彼女を大切に想う気持ちと、自分の欲望、どうすれば自分に気持ちを向けてもらえるのかの葛藤などがせめぎ合います。
「あわよくば」
「あの子の幸せも大事だけどボクはボクの幸せも大事」
「でもこのまま腐るよりマシ」
観終わったあとはボクを応援したくなる、優しさに満ちた舞台でした。
二つの物語で描かれたもの
二つの物語はそれぞれ独立した物語として楽しめますが、両方を観ることで女性サイドと男性サイドのものの見かた、考えかたなどがより鮮やかに見えてくる仕掛けでした。
会場を見渡すと、実際に二つとも観ている人が多いように感じました。
「『悲しいシンデレラの殺し方』は、恋する女性の、切実でセンチメンタルな面を少しシリアスに仕立てた舞台です。シンデレラコンプレックスや、ウェンディジレンマといった心理や哲学的な要素を取り入れています。
『優しいティンカーベルの作り方』は、いくつになってもおバカな男を描きました。昼休みの高校生の会話のような男の頭のなかを、コメディとしても楽しんでもらえたらうれしいです」
と作・演出の小林ともゆきさん。
小林さんは2023年、それまでの拠点としていた東京から福山に移りました。今回は、劇団宇宙キャンパスの本公演のために書いた脚本を、福山での番外編として公演しています。
出演した俳優は福山の人と、尾道や岡山、北九州など福山以外の人が半々だそうです。
終演後、キャストにもお話を聞けました。
「好きな台詞は『舌が肥えてても手軽さでハンバーガーを食べることだってあるわ』です。好きな人ではなく好きでいてくれる人を選ぶ女性の心を、こんなにも的確に表せるのか!と思いました」
と教えてくれたのは、尾道市立大学劇団あばら屋の亀岡真衣さんです。
「1か月泊まり込みの稽古になったので少し大変でしたが、こんなに素晴らしいお芝居に参加できて感激です!」
という、徳島の劇団まんまる所属の海月理奈(みつき りな)さん。
「『なぜ私ばかりが我慢しなくちゃいけないの』『間違っているのが私だけなんて、絶対認めない』の台詞は、男女関係なく響きます」
今後の公演予定
劇団宇宙キャンパスは、今後、春と秋に公演を予定しています。詳細は公式ホームページやSNSなどで確認してください。
また、今回出演した俳優たちのステージにも注目です。
・2024年11月23日(土) 即興演劇ユニット脱兎-DATTO-&リーディング・ファクトリー共同企画
(会場 AREA INN FUSHIMICHO)
誰でも自由参加型のインプロライブ(即興劇)
・2025年1月18日(土) ふくやま地域演劇まつり(会場 福山市神辺文化会館小ホール)
福山内外から9団体が出演
福山の文化のひとつとして、これからますます演劇熱が高まっていくように感じています。
演劇の魅力を感じに、足を運んでみませんか。