ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ9年ぶりの激情アンサンブル! 来日レポート 2025.4.7@東京 恵比寿ザ・ガーデンホール
エレクトリックでもやはりロドガブ
去る4月上旬、メキシコ出身の男女“激情”アコースティック・ギター・デュオ:ロドリーゴ・イ・ガブリエーラが久々に来日! 東京&大阪で2公演を行なった。前回2016年5月から実に約9年──その間にスタジオ作2枚とライヴ作1枚をリリースした彼等は…さらなる進化を遂げていた!!
これまでロドガブといえば“アコースティック・デュオ”と紹介されるのが常で、本稿でもひとまずそう上記したが、もはやその表現は撤回しなければならない。というのも、2019年作『METTAVOLUTION』で既に意欲的なエレクトリック導入は為されていたし、現時点での最新作『IN BETWEEN THOUGHTS…A NEW WORLD』(2023年)では、さらにエレクトリックの使用頻度が増していたからだ。いや、『IN BETWEEN〜』については、エレクトリック作品と断言してもイイぐらいだった。よって当然、今回の来日ライヴでもリード担当のロドリーゴ・サンチェスは、演目の半数以上でエレクトリックを弾き、フェンダー“Jaguar”を抱えたその立ち姿はもうすっかりサマになっていたのである。
ただ、相方のガブリエーラ・キンテーロはというと、今もアコにこだわり、ギターのボディを叩くなどするあのパーカッシヴな独自プレイも当然ながら健在。というか、ピックアップで演奏&打撃(?)音を拾っているとはいえ、エレクトリックに全く負けていなかったから本当に凄い。歪み少なめな“Jaguar”を多くの場面で圧倒していた…とさえ言いたくなるぐらいだ。
開演予定時刻の午後7時ちょうど、ファンにはお馴染みのトゥール「The Pot」がまず流され、暗転した中、たっぷりフルで聴かせ、そのエンディング直前に、ステージ下手よりロド&ガブが走り込んできた。2人ともアコを手に、着席して弾き始めたのは、静かな抒情を湛えた「Akatsuki」──いきなりの新曲だろうか? 繊細なアルペジオとしっとり静謐なメロディーに、場内は一瞬で静まりかえり、弦を擦る音がキュッキュッと響き渡る穏やかな緊張感は、最初から盛り上がる気マンマンでいた観客に、言わば肩透かしを喰らわせる形となった…が、そこからメドレーのように「The Soundmaker」のイントロが奏でられ、同時にガブのパーカッション・プレイが解き放たれると、「おっ…きたきた!」とばかりに、オール・スタンディングのフロアのあちこちから歓声が上がり、ビートに合わせて満場の手拍子が沸き起こる。
観客の入りは上々。フロアの後ろまでギッチリではなかったものの、半分より前はかなりの密集度で、後方からだとステージの様子があまりよく見えない…。それでも、演奏がどんどん熱を帯びていくと、アコ2本とは思えない音圧がビンビン高まっていき、それに身を委ねているとアドレナリンやドーパミンがドバドバと放出されていくのが分かる。
続いて初期ナンバー「Diablo Rojo」が始まると、オーディエンスの手拍子はさらに激しさを増し、中間部で2人がおもむろに立ち上がってブルース・ジャムを繰り出すと、会場内の一体感がさらに高まった。以降、「イェ〜イ」とか「ヒャ〜」とか「ホ〜」とかいった歓声がところどころで起こる、いつものノリに。そう、ロドガブのライヴでは誰もがラテンの情熱をまとい、思い思いに暑苦しく盛り上がりまくるのだ。
Rodrigo Sanchez
3曲演奏し終えて、ガブが「コンバンワ〜」と日本語で挨拶し、たどたどしく「待ッテテクレテ嬉シデス」「アリガトーゴザイマス」と言うだけで、凄まじい大歓声が。すると、続くちょいウェスタンなムードの「Egoland」で、早くもロドが“Jaguar”を手にし、エレクトリック・ロドガブがここ日本でも生解禁! ストリングスなど同期音源を駆使してのプレイは、続く「Seeking Unreality」でも新たな風を呼び込み──しかしながら殆どの観客が、エレクトリックでもやはりロドガブはロドガブである…との思いを、改めて強くしたのではないだろうか。
そう、アコであろうがエレクトリックであろうが、文字通りの“激情”アンサンブルのあちこちから、2人の阿吽の呼吸の絶妙さがひしひし伝わってくる、あの堪らない昂揚感は何ら変わりがないのだ。また、“Jaguar”のほぼ歪みのない丸いトーンは、アコのバックでも決して浮き上がったりすることなく、それ故エレクトリック入りでも、意外なぐらい違和感を覚えることはなかった。
事実、そのあと「11:11」と「Tamacun」がアコ2本で披露され、今度はロドの日本語MC「9年モ待ッテイテクレテ、トテモ嬉シイデス」を挟み、「Krotona Days」がヘヴィなエレクトリックのカッティングから始まり、泣きソロからワウ・ソロが炸裂し、エンディングに軽くアーミングまで飛び出しても、観客から特に驚きの声が上がったりはせず。「Terracentric」の“ロックな”イントロ・リフに、それまでで最も大きな歓声が起こるも、それとて、ガブの「Tamacun」でのパーカッション・ソロに対する熱狂的なリアクションと、そう違いなかったし。
ガブのソロといえば、ショウ半ばでのソロ・タイムも空間系エフェクトを効果的に使い、弦を擦ったり、アコのあちこちを叩いたりといった“技”を盛り込み、浮遊感や幻想に彩られた素晴らしい見せ場となっていた。またそこからの流れで、ピンク・フロイドばりのエモさ爆発な「Finding Myself Leads Me To You」(ヴォイスも同期で再現)が、CDで聴くよりずっとずっと沁み入ったことも特筆しておきたい。
Gabriela Quintero
その後──終盤になっても、ロドは雄弁にエレクトリックを歌わせ、語らせまくり、ガブは熱情を切らすことなくビートを放ち続け、驚いたことに、本編を終えようといったタイミングで新曲が2曲披露。メロウな「The Simurgh」(恐らくショート・ヴァージョン)と、エレクトロ/アンビエントな仕掛けを伴う「Monster」だ。何と後者は、浦沢直樹の人気コミック/アニメ『MONSTER』から着想を得たとのこと。日本通で知られる彼等ならではというか、日本のファンにとっては、大きなプレゼントとなったに違いない。
さらには、アンコールでもサプライズが…! 100分超のショウを定番人気曲「Hanuman」で締め括る前に、アニメ『進撃の巨人』のオープニング・テーマ「紅蓮の弓矢」がプレイされたのだ。実はこの翻案カヴァー、来日の少し前に2人のラフなアコ演奏動画が公開されており、「もしや日本でやってくれるかも…?」と期待していたファンがきっと少なくなかったろう。ある意味、「Monster」以上のスペシャル・プレゼントだ。そして「Hanuman」では、フロアを左右に分け、それぞれ異なるパルマでラテンのノリを引き出す演出も大成功し、大々々感動の大団円に…!! 尚、客出しBGMも恒例の(?)AC/DC「For Those About To Rock (We Salute You)」でした〜。
いやはや、日本語のタイトルが付けられた「Akatsuki」で始まり、「Monster」があって、「紅蓮の弓矢」カヴァーもやって、日本語で沢山MCしてもくれて(アンコール前にはガブが「オ疲レ様デシタ」と…)、ロド&ガブの日本愛がたっぷりと込められた最高のライヴだった。次回は9年と空けず、なる早で戻って来てもらわねば…!!
ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ 2025.4.7@東京 恵比寿ザ・ガーデンホール セットリスト
1. New Intro / Akatsuki
2. Soundmaker
3. Diablo Rojo
4. Egoland
5. Seeking
6. 11:11
7. Tamacun
8. Krotona Days
9. Terracentric
10. Gabriela Solo
11. Finding Myself Leads Me To You
12. Descending To Nowhere
13. In Between Thoughts…A New World
14. The Simurgh
15. Mettavolution
16. Monster
[encore]
17.紅蓮の弓矢(『進撃の巨人』)(公式Xアカウントでの演奏動画)
18.Hanuman
(レポート●奥村裕司 Yuzi Okumura 撮影⚫︎土居政則 Masanori Doi)