こんな酒場、なんて呼ぶ? 呑兵衛が愛する大箱で総合な酒場ジャンル、五反田『酒蔵 桜ちょうちん』へ
立って飲む「立ち飲み」、酒屋で酒を飲む「角打ち」。チェーン居酒屋、スナック、ビアホール……酒場ひとつをとっても、さまざまなジャンルがあるのだが、ここで酒場好きの呑兵衛のみなさんにお伺いしたい。イメージは、ちょっと大きめの街にある古い駅ビル。その中のテナントのひとつで、たまに地下街にあったりする。100席はくだらない大箱の店内、大概は昼過ぎから営業していて、昼時は定食メニューを出したり。ひとりで飲(や)るにはもったいないくらい大手を振って愉しむことができて、マッタリとした独特な空気感がある。こんな酒場のことを、なんと呼んでいますか?
凄くマニアックな話になるのだが、中規模ローカルチェーンや、小さな個人経営店ではない、店舗はあっても2号店くらいまで。それ故、『四文屋』、『加賀屋』、『酒蔵 駒忠』、『魚三酒場』とはチョット違う。そう、中目黒の『藤八』や北千住の『幸楽』。あとは所沢の『百味』と池袋の『ふくろ』なんかがソレにあたる。
料理は品数豊富! ニラ玉、巻き寿司、焼きそば、川海老のからあげ、グラタンなどの“なんでもメニュー”で大衆食堂のエッセンスも少し含む。これくらいで私の言ってる意味、分かる人いるかなあ……。
8億年ぶりに「五反田」へやってきた。五反田といえばどうしても“風俗”のイメージを払しょくできない。私が愛聴している『ナインティナインのオールナイトニッポン』で、特に好きな年末恒例の“出川ゲスト回”でもよく登場する街。五反田の風俗話は何度聴いても腹を抱えて笑うので、是非とも聴いてみてほしい。
岡村さんと出川さんが待ち合わせ場所にしているというポストを探しつつ、やってきたのが……。
出たっ、『酒蔵 桜ちょうちん』だ! ぱっと見はただのファミマであるが、れっきとした酒場の入り口。
藍色暖簾(のれん)の“ちん”が、何だかかわいいですね。
暖簾をくぐるとアサヒの電気看板がお迎え。本体がある2階へ続く階段が、ワクワクさせるじゃないか。
ひ・ろ・い……広いっ! そうそう、冒頭で語っていた“大箱”がこんな感じなんだよ! 古い駅前建物なのだが、しっかりと掃除が行き届いている清潔感。席と席の間にゆとりがある解放感もタマラナイ。
ちょっと“食堂”の雰囲気を醸し出しつつ、決して“ディープ”ではなくかつ、昭和ヨロシク味わい深い雰囲気がいい、まさしくこの内観こそが“ソレ”なのだ。時間は15時半という、客がまばらなちょういい時間。いよぉし、飲むぞう……!
やって来たのは「ホッピー白セット」である。ただでさえ大好物なホッピーを、こういうところで頂けるのは幸せの限り。
ごどぅん……ごどぅん……ごどぅん……、はあああんっ、いつもおいしいですねえ! ホッピーの好きなところって“分割”で酒が飲めるところだ。ナカ(焼酎)にソト(ホッピー)を自分の好きな割合で割って飲む。ガーッとソトを多めにゴクゴク飲(や)ってもいいし、チビチビとアテをナメながら飲るのもいい。今日は酔いを“リボ払い”で、後先考えずいきましょう。
アテを選ぶにも、壁札や手元のメニューを見るとその豊富さに面食らう。一周まわって枝豆だけで満足してしまいそうだ。でもこんな何でもある感じの“総合”メニューがいいんだよねえ。
まずやってきたのが「刺身三点盛り」。ハマチ、本マグロ、サーモンの脂がみなぎるフルコース。分厚めカットのハマチはバターのような舌ざわりで、決して水っぽくなく良質な旨味。
本マグロはネットリかつ、新鮮なトロ身がたまらない。こちらも脂ノリノリのサーモンは、醬油を弾くコッテリとした味わい。どいつもこいつも、引火するんじゃないかと心配になるほど強烈な旨脂だ。
続いては「ニラ玉」。そうです、こんな大箱の総合メニューがある酒場には、こいつがお似合い過ぎる。発色のいい黄色ではなく、ほんのりと茶色がかった黄色がいい。
とろりとしながら濃い目の味付けの玉子に、たっぷりのニラがチャクチャクと絡む……これとホッピーが、合うのなんのって。
ちょいちょいと、昼酒を求めて客が入ってくるが、それでもまだまだ余裕の広々とした店内。家族、デート、独酌に仕事のサボり場……老若男女問わず、いつでも誰でも訪れることができる酒場。
ふむふむ、“フードコート酒場”って呼び名はどうだろう……悪くない。
思わず「うわぁ!」と声を上げた「せいろ蒸し 季節のお野菜6種」が到着。色褪せたせいろにカリフラワー、ブロッコリー、キャベツ、ニンジン、サツマイモ、カボチャ、桜型のかまぼこのグラデーションが美しい。訪問時は桜の時季が終わったくらいで外の桜は散っていたものの、こちらでは満開の花が咲いているようだ。
この華やかな色合いに反した謎の“黒クリーム”がつけ添えてある。これは何だろうか……正体は“イカスミマヨネーズ”で、これが後にいい役目をする。
カリフラワーとブロッコリーはホクホクと甘みがあり、パリシャクのキャベツはふうわり春の様相。こっくりとしたニンジンのコク、芯からにじみ出るサツマイモの甘さ、カボチャはそれにしっとりとした触感が加わったおいしさだ。
そのままでもいいが、例のイカスミマヨネーズを忘れてはいけない。それまでは大地の旨味だったが、突然、海の香りがまろやかに加わるのだ。ただ野菜を蒸かしただけではない、実に考えられた色と味のグラデーションだ。
「あまりに混み過ぎて、嫌になりますよ」
4月のやたらと強い窓からの日差に、ブラインドを下げながら仰るマスター。“桜ちょうちん”とはよく言ったもので、花見の時季はかなり混んで大変なのだそうだ。窓の外をのぞいてみると、目黒川は新緑でこれまたきれいだ。
さぁて……一体いつまでこの“大箱”で、メニューの豊富な“総合”酒場で飲んでやろうかしら。
ふむふむ──おっ!
“大箱総合酒場”
“オーバコソーゴー”
これが私が考えあぐねたネーミングであり、まだまだ客で埋まらない昼酒場で、密かに満足感に浸るのだ。
酒蔵 桜ちょうちん(しゅぞう さくらちょうちん)
住所: 東京都品川区西五反田1-4-2
TEL: 050-5595-1495
営業時間: 16:00~23:30(土は 14:00~)
定休日: 日・祝
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取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)
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