「ベテラン俳優が激怒」「ディカプリオは大後悔」“ポルノ業界”描いたPTAの出世作『ブギーナイツ』を振り返る
ディカプリオが明かした「最大の後悔」
現在公開中のポール・トーマス・アンダーソン監督最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』は「2025年のベスト作品」に挙げる映画ファンも多く、アカデミー賞最有力候補と見る向きもある。
そんな同作のプロモーション中、主演のレオナルド・ディカプリオは本国メディアのインタビューで「俳優人生で最大の後悔は『ブギーナイツ』に出演しなかったこと」と明かした。当時、彼は『タイタニック』の撮影に専念していたため、PTA監督からのオファーを断らざるを得なかったのだという。
結果的に主役のダーク・ディグラー役はマーク・ウォールバーグが演じることになり、アカデミー賞に複数ノミネートされるなど非常に高い評価を得た。PTA最新作『ワン・バトル~』が劇場を賑わせている今こそ、改めて『ブギーナイツ』の魅力を振り返っておこう。
舞台は70年代、家庭用ビデオ普及前のポルノ業界
『ブギーナイツ』は1970年代末から1980年代初頭のロサンゼルスを舞台に、ポルノ業界に足を踏み入れた若者の成長と崩壊を描いた群像劇。PTA監督が学生時代に制作した短編を基にしたストーリーは、ポルノという題材を扱いながらも、登場人物たちの孤独、欲望、絆を繊細に描いており、ジャンルを超えた人間ドラマとして高く評価されている。
物語の後半では、家庭用ビデオの普及によって業界構造が根底から揺らぎ、登場人物たちはその波に翻弄されていく。ポルノ市場は、映画館で上映されるフィルム作品から、安価かつ迅速に制作できるビデオ作品へと急速に移行。かつてスターだった俳優たちはその価値を失い、プロデューサーや監督も予算削減や品質低下に直面する。
こうした技術的・経済的変化は、彼らのキャリアのみならず、アイデンティティや人間関係にも深刻な影響を及ぼしていく。『ブギーナイツ』は、時代のうねりの中で夢と現実が乖離していく様を描きながら、自己再生の可能性を探る作品でもある。
なぜ? 名優バート・レイノルズの“激おこ”エピソード
本作で俳優としての地位を確立したマーク・ウォールバーグは、10代の頃は手のつけられない不良だったことで有名。マーキー・マーク&ザ・ファンキー・バンチ名義で全米1位のシングルヒットも飛ばしたが、まもなく俳優へ転身。1995年の『バスケットボール・ダイアリーズ』でディカプリオと共演した。
他キャストもすこぶる豪華で、ジュリアン・ムーア、バート・レイノルズ、ジョン・C・ライリー、ヘザー・グラハム、フィリップ・シーモア・ホフマンらが出演。とくにバート・レイノルズ(2018年没)は7回も出演オファーを断ったそうで、撮影後もエージェントを解雇しプロモーションに参加しないなど、かなり腹を立てていたという。
その大きな理由としては当時27歳だったPTA監督の指示に従うのが嫌だったからとか、監督の態度も良くなかったのではとか、そもそもストーリー設定や他キャストにも不満があったらしいなどという噂もあった。観客としては80年代以降キャリアが低迷していた彼の半生とシンクロするような役柄に感銘を受けた部分もあったのだが……。
しかしレイノルズは素晴らしい演技を披露し、最終的にはゴールデングローブ賞を受賞、アカデミー賞助演男優賞にもノミネートされた。皮肉にも嫌悪する作品で再評価されることになったわけだが、一部の映画ファンからは「もっと協力的だったらオスカー俳優になれたかもしれないのに」などと言われてもいる。
興行成績、文化的影響、現在の評価
1997年10月10日に米国公開された『ブギーナイツ』は世界的に絶賛され、レビューサイトや映画メディアの著名批評家たちもその完成度を称賛。興行面では、製作費1,500万ドルに対し全世界で3倍近い収益を上げている。
本作はポルノ業界を描いた青春映画としてだけでなく、今では1990年代のアメリカ映画における重要な作品として位置づけられている。PTA監督の出世作であり、のちの『マグノリア』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』へと続くキャリアの礎となった。ぜひ『ワン・バトル~』と併せて観ておきたい作品だ。
『ブギーナイツ』はU-NEXT、PrimeVideo、Hulu、AppleTVほかで配信中
『ワン・バトル・アフター・アナザー』は全国公開中
