【フェルケール博物館の企画展「掛井五郎の仕事」】 彫刻だけじゃない。油彩画、銅版画、絵巻物…。掛井五郎さんの多面性を堪能
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市清水区のフェルケール博物館の企画展「掛井五郎の仕事」を題材に。11月23日の開幕を前に22日、展示の最終確認が行われた。
2021年11月22日に91歳で亡くなった、静岡市出身の彫刻家掛井五郎さん。県立美術館の屋外彫刻プロムナードの「蝶」、静岡市民文化会館の「南アルプス」がよく知られ、2021年4~5月の県立美術館「STORIES ストーリーズ」展には展示室一つを占有する形で26点を出品した。
今回展は死去後初の博物館での個展。1960年のブロンズ彫刻「ロトの妻」から、最晩年まで作り続けた数々の「紙彫刻」まで、アーティスト掛井五郎の驚くべき多面性を認識する機会となった。
一般財団法人掛井五郎財団が所蔵する2万点超に及ぶ作品から71作品を抽出した、フェルケール博物館の椿原靖弘学芸部長は「単なる彫刻家ではない、絵も版画も手がける総合的なアーティストとしての姿を見せたかった」とコンセプトを説明した。
1970年大阪万博で展示されたブロンズ像「ノア」(1962年)は、原型から新たに鋳造したもの。1960年代は「ヨブ記」「使徒」など聖書からのモチーフが多い。
目玉の一つが最晩年まで作り続けたという「紙彫刻」群。当初はトイレットペーパーの芯に彩色していたが、徐々に紙の種類を問わなくなり、円筒にさまざまな表情の顔を描くようになった。「創作が生活そのものだった」(椿原学芸部長)掛井さんの、創作という行為への考え方がよく現れている。
漫画家赤塚不二夫さんにささげたという長さ12~13mに及ぶ巻物は「新鳥獣戯画」と名付けられた。展示会場では一部しか見られないが、墨で描いた奇妙な動物は愛嬌に満ちている。
100号のキャンバスに描いた油彩画、銅版画にドリッピングとおぼしき手法で色をしたたらせた作品など、好奇心の赴くままに手がけた平面作品もユニークだ。
五郎さんの長男で一般財団法人掛井五郎財団の代表理事を務める掛井隆夫さんは「さまざまな技法の作品が一堂に集まった。多面性を見てほしい」と話した。(は)
<DATA>
■フェルケール博物館
住所:静岡市清水区港町2ー8ー11
開館:午前9時半~午後4時半(月曜休館、祝日の場合は開館)
入館料:大人400円、中高生300円、小学生200円
会期:11月23日(土)~2025年1月19日(日)