「超美味しいか激クサか」まれにハズレが混じるギャンブル魚たち
魚の中にはいわゆる高級魚でありながら、捌いてみるとひどい臭いを発するものが少なからずあります。そしてそれはしばしば外見から判断することができません。
磯の魚は個体差が大きい
長く多様性に富んだ海岸線に囲まれた我が国では、日々様々な魚が食用にされています。中でも漁獲が少なく、時期によっては脂の乗りやすい「磯の魚」は高級魚と呼ばれるものが多いです。
磯の王者と呼ばれ釣りの対象としても人気の高いイシダイやイシガキダイ、我が国の魚では最も高級と言われるクエ、塩焼きの最高峰と言われるイサキ。もっと身近な磯魚であるメバルやカサゴも、市場で購入するとキロ単価2,000円はくだらない高級魚です。
しかしこれらの磯の魚はしばしば「ハズレ」を引いてしまうことがあります。というのも、磯の魚にはしばしば、浜に打ち上げられた海藻のような臭い、ときには悪くなった玉ねぎやニラのような強い悪臭がするものがあるからです。
これはいわゆる「磯臭さ」と呼ばれるもので、恐ろしいことに外見からは見分けることが難しいため、しばしば大枚をはたいて購入したにも関わらず、悪臭で美味しく食べられなかった……という事が起こります。個人的にはイシダイはハズレを引いてしまうことが多く、丸のまま購入するのが怖くなってしまいました。
ハズレを引くと「漂白剤臭」
ハズレ魚の臭いは「磯臭さ」だけではありません。磯とはまったく関係ない、シロギスやメゴチのような砂浜に生息する魚や、誰もが知る高級魚であるマダイなどでも、同様に「外見からはわからない臭み」を持つことがあります。
その臭いはまるで消毒薬、病院のような臭いと表現され、専門的には「ヨードホルム臭」と呼ばれています。消毒した水のカルキのようにも感じられるため、釣り人たちは魚の名前に合わせて「カルキス」「カルキマダイ」などと呼びます。天ぷら屋さんでキス天を頼むとしばしば消毒薬のような香りがすることがありますが、それがこのヨードホルム臭です。
玉ねぎやにんにく、酢味噌などの消臭系調味料をうまく使えば美味しく食べられる「磯臭さ」と比べると、ヨードホルム臭は手強い存在です。多くの人はおそらく、食べられずに捨ててしまうのではないでしょうか。こちらも外観からはわからないことが多く、高級魚の購入時には不本意なギャンブルを強いられます。
硬くて臭い「石ガツオ」とは
これらの悪臭とは全く異なる「臭みギャンブル」を強いられる魚がいます。それはあの有名なカツオ。
カツオは磯臭さやヨードホルム臭を持つことはほとんどありませんが、しばしば筋肉に謎の生臭さを持つものがいます。全身ではなく筋肉の一部のみこのような品質になることもあり、その部位は変な硬さが出ることから「石ガツオ」「ゴリガツオ」「ゴシガツオ」などと呼ばれています。
石ガツオの恐ろしいところは、捌いてすぐにはそうだと気づかないこともあるという点です。捌いて加工し、盛り付けて提供したあとで客から指摘されて判明、というのもよくあるといい、職人泣かせな存在なのだそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>