移住希望者必読!空き家バンクを使う前に知っておくべき落とし穴と成功のポイント
教えて! 移住プランナー仲西さん vol.11
移住プランナー、移住専門ファイナンシャルプランナー、空き家相談士──。
複数の専門資格を持ち、これまでに約2500組の移住相談に対応してきた仲西康至(なかにし・こうじ)さんが、地方移住に関する疑問に答える連載「教えて!移住プランナーの仲西さん」。
第11回のテーマは、移住希望者からも注目される「空き家バンク」。
実際に利用する際に気をつけたい“落とし穴”と、成功するためのポイントを解説します。
「こんにちは。私たちは東京に住む50代の夫婦です。定年前に退職し、地方移住を検討しています。住まいは空き家を購入し、自分たちの好みに合うリフォームを希望しています。そこで空き家情報を調べると、「空き家バンク」をよく耳にしますが、利用する人は多いのでしょうか。『空き家バンク』を利用した方が良いのでしょうか?教えていただけますか。(Aさん、東京在住、50代夫婦)」
「空き家バンク」ってなに?
皆さんこんにちは、移住プランナーの仲西です。今回は、主に自治体が主に運営している「空き家バンク」についてご説明しますね。
ご相談者Aさんのように、「空き家バンク」という言葉はよく耳にするけれど、そのメリットやデメリットについて、知らない方も多いのではないでしょうか。「空き家バンク」は、空き家の所有者と利用希望者をマッチングさせるための情報提供サービスです。この制度は、地域の空き家問題の解決と、移住促進や地域活性化を目指して導入されています。ただし、「空き家バンク」で空き家を探せるのは移住希望者に限定するものではなく、地域の方々も利用は可能です。
「空き家バンク」が広まる背景には、少子高齢化や人口減少に伴った、空き家の増加があります。総務省の調査によると、全国の空き家率は13.6%に達しており、その戸数は約900万戸にもなります。そのため、国土交通省では、2025年4月時点における「空き家バンク」制度の参画数は1,103自治体、全体のおよそ62%になるとしています。さらに、多くの自治体が「空き家購入助成金」や「リフォーム補助金」などを設置し、利用の促進に取り組んでいます。
「空き家バンク」の問題点
「空き家バンク」における最大の問題点は、空き家情報の少ないことです。
国土交通省の「全国版 空き家・空き地バンク」のモデル事業に採択されている、次の2つのサイトを閲覧すると、全国自治体が掲載する空き家情報を確認することができます。 2025年4月25日時点の登録数は、LIFULL HOME‘S:858件、at home (アットホーム):10,326件です。 おそらく、両社には重複している物件が多数あることから、単純に加算することはできません。
LIFULL HOME‘S
at home (アットホーム)
空き家が急増しているのに、空き家情報が少ないのは不思議ですよね。実際に、「空き家バンク」に掲載されている空き家は、全体の0.2%程度とも言われています。
まず、「空き家バンク」に掲載される空き家情報は、空き家の所有者からの登録申請によるものです。地方自治体では、空き家所有者に周知チラシを配布し、「空き家バンク」の利用を促していますが、期待される効果が得られていません。
その理由として、空き家所有者の多くが相続によるものだからです。例えば、両親の死去により実家を相続したものの、本人は東京等に住んでおり、将来的にも実家を利用する見込みがないというケースです。処分するのも費用や手続きの負担があるので面倒になり、空き家の放置に繋がっています。実際に、空き家の所有者が物件の近くにいないことも多い点が、「空き家バンク」の登録申請の妨げとなっています。
「空き家バンク」利用時に押さえておきたいこと
さて、「空き家バンク」を利用するときに、押さえておくべきことを3つお伝えしますね。
(1) 「築年数」よりも「空き家年数」
一般に、空き家情報には築年数が記載されていますが、大切なことは「築年数」ではなく「空き家年数」です。同じ「築年数」であっても「空き家年数」によって、家の傷み方は異なるからです。さらには、「空き家年数」よりも「放置年数」が重要です。「管理されていた空き家」と、「放置されている空き家」では、修繕の必要な度合いが大きく異なってきます。当然、修繕費用にも大きな差が出てきますよね。
通常、「空き家年数」「放置年数」は表記されていませんので、担当者から直接、聞き取る必要があります。
(2) 「売買金額」よりも「修理費」
私たちは「売買金額」に目が行きがちです。誰もが、購入費用を低く抑えたいからです。しかし、大切なことは修理費です。安い物件を購入したが、修理費が高くついては本末転倒ですよね。
特に、空き家は購入時には想定していなかった修理が、居住後に発生するものです。
例えば、放置されている空き家では、水道管や電気系統の確認ができません。特に、個人売買の場合は、購入後のリスクは自己責任となりますから注意が必要です。
(3) 「相続登記」よりも「建物登記」
空き家バンクに掲載されている物件には、「相続登記」が完了していないものが含まれています。両親の死去により実家を相続したが、法務局に登記変更をしていないケースです。
このことについては、罰則が設けられていなっかったため、全体のおよそ6割が相続未登記物件であるとも言われています。但し、2024年4月に「相続登記の義務化」が制定され、申請期間と罰則が設定されています。
ここで、さらに注意をしなければならないのは、建物未登記の物件です。田舎にある築年数の古い物件には、建物未登記の物件が存在します。
まず、建物未登記物件の購入は避けることが賢明です。所有者に建物登記を依頼し、登記が完了してから購入をしましょう。
ちなみに、建物未登記物件を購入すると、次の売買が難しく、自治体の助成金等も受けられなくなります。
「空き家バンク」で物件を売ってもらえない人
「空き家バンク」で良い物件を見つけても、物件を売ってもらえない人がいます。
「お金をきちんと支払えば問題ないのでは」と思いがちですよね。そこには、「空き家バンク」を運営する自治体や所有者にとって、空き家バンクの購入者に対する、ひとつの思いがあるからです。
その思いとは、「地域に馴染める方に売却したい」です。例えば、購入希望者(買い手)の中には、居丈高に交渉を進める方がおられます。新築物件や戸建て分譲の住宅を業者から購入するのならば、それでも売ってくれるでしょう。しかし、空き家には所有者の思いがこもっています。祖父母や両親から受け継いできた大切な家です。そうした所有者(売り手)の心情を理解したうえで、売買交渉に臨むことが求められます。
また、内覧の前に電話で細かな質問をする方がおられます。これも、所有者や自治体には良い印象を与えません。空き家の購入にはリスクを伴いますが、そのリスクは購入者が負うべきものとなります。内覧を何度も繰り返し、自分の目で確認し、自己責任で購入をしなければなりません。
残念ながら、神経質な方は「将来、地域とトラブルを起こすのでは」と懸念されてしまいます。すると、購入を希望したとしても、所有者や自治体から遠回しなお断りがあるかもしれません。
「空き家バンク」の物件掲載数は、決して多いとは言えませんが、地方移住の際の物件探しとしては、最も活用すべき制度です。特に、「空き家バンク」は自治体が運営しているので、安心して利用することができます。
さらに、「空き家バンク」を利用することで、自治体職員との距離も縮まり、地方との関係づくりにも効果的です。
今回のご相談者Aさんが、理想の物件に出会えることを祈っていますね。
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