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Yukihide “YT” Takiyamaが2ndソロ発表「切り開かれていない土地を開拓した人たちが昔いて、その残像を追っている…」

YOUNG

Yukihide “YT” Takiyama

ここ数年は特にB’zや松本孝弘のソロ活動をサポートしていることで、急激に知名度を高めてきたギタリストYukihide “YT” Takiyama。彼が前作『Tales of a world』に続く2枚目のソロ・アルバム『Next Giant Leap』を、去る9月25日にリリースした。「One small step for man one giant leap for mankind(1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ)」というのは、宇宙飛行士のニール・アームストロングが月面に降り立った際に発した有名な言葉だが…今回のアルバムはそんな名言を引用するに相応しい、ミュージシャンとしての大きな進化が至るところに現れている。普段はL.A.を拠点として活動しているYTを、TMG(TAK MATSUMOTO GROUP)のツアー・サポートとして日本へ戻ってきたタイミングでつかまえ、この渾身の新作について色々と聞いてみた。

極力音を重ねず、トリオのバンドでライヴ演奏できるような曲

YG:今回の作品は前作に比べて良い意味でアクが出たいうか、別人のよう…というとちょっと大袈裟なんですが、それぐらい個性が強く立っていると感じました。ご自身ではどうですか?

Yukihide “YT” Takiyama(以下YT):前作は色々な時期に作った曲が入っているアルバムなんですけど、今回は制作段階である程度、方向性を決めていたんです。具体的に言うと、極力音を重ねず、トリオのバンドでライヴ演奏できるような曲。ギターの音は少し壊れているというか、ファズでぐしゃっとなってるような…そういう方向を見据えていたんで、アクが出たというのは確かにあるかもしれないですね。

YG:どのアーティストも1stアルバムは、方向性を模索しているようなところがあるじゃないですか。でも今作は、YTさんが自分の行くべき道を見つけたような感覚がありました。

YT:1枚目に入っていた「Nasty Creature」はかなり昔からあった曲なんですけど、あれが自分の中でやりたいものとしてはずっとあるんですよ。そういった意味では、以前から方向性は定まっていたとは思ってます。でもあまりにも自分の好きな方向にばかり偏ってしまうと、マニアックなものになりかねないので…その辺はバランスを取りつつ。メロディーがあってこそだという感覚は、常に念頭に置いていましたね。

YG:仮にバランスを考えずに、YTさんのやりたいことだけをデフォルメするとどうなるんですか?

YT:アバンギャルドとまではいかないんですけど、変わったものになると思うんですよね。ノイズっぽいものも入ってきたり。

YG:なるほど、キャッチーじゃないものも好きだってことですね。そちらを極めると、確かにお客さんがほったらかしになりかねないですし。

YT:そうなんです。それはちょっと危険なんで。

YG:ちなみに前作に対するリアクションはどうでした?

YT:僕のことを知ってる人からは「YTっぽい」と言われるんですよね。色々な時期の色々な曲があって、雰囲気が違うものが集まってますけど、漠然と自分らしい要素が貫かれている。でも今作は制作期間がまとまっていたので、頭の中から出てくるアイデアも統一されてたと思うんです。そういう意味では、ばらつきが少なくなったのかなと。

YG:今作の制作に入ったのはいつ頃ですか?

YT:2023年のB’zのツアー・サポートの間に、アイデアは貯めていたんです。でも実際に作り始めたのはその後、アメリカに戻ってすぐぐらいですね。

YG:YTさんはツアー中にも作曲できてしまうタイプなんですね。

YT:アイデアは出てきますね。なんとなく思い浮かんだものをコンピューターに録ったり、iPhoneのボイスメモに入れたり。

YG:やっぱり凄腕のミュージシャンたちと接する時間が長いと、刺激をもらって脳が活性化される…といったことがあるんでしょうか?

YT:どうなんでしょうね。でもツアーをやってる間は、ギターのリフみたいなアイデアがパッと出てきたりすることが多いです。僕、ドラムのパターンなどに合わせて曲を作ることが多いんですよ。例えばライヴのサウンド・チェック中、ドラマーが何か叩いている間に、それを聴きながら勝手にギターのフレーズを考えてたりするのはよくあります。

YG:ちょっとしたジャムのような感覚ですね。

YT:まあ僕が1人で勝手に…ですけど。ドラマーの方は全然そんなつもりもなく、ただ叩いているだけなんで(笑)。そうやってちょっとしたアイデア作りをすることはありますね。

YG:今回のアルバムはインストと歌モノが交互に来るような曲順になっていますよね。この辺りは意図的なものですか?

YT:決め込んでいたわけではないんです。ただ全体を聴いて、この順番かな…と並べたら自然と交互になったという。たまたまなんです。他の順番も試してみたんですけど、結局バランスが良かったのはこの形でしたね。

YG:YTさんは作曲家でありアレンジャーでもあり、プロデュースもエンジニアリングもすべてみずから行なうじゃないですか。自分の作品だと、それはやりやすいのか、逆に誰かから何かインプットがほしくなるのか…どちらですか?

YT:やりたい音楽の幅が広いので、自由すぎると迷うことはあります。そういう時に、前回から関わってくれてるGin(Kitagawa/プロデューサー)にたまに意見を聞いたりはしますね。確かに1人だと難しいところはあります。アイデアがどうこうというよりは、いろんな方向に行ってしまいがちで。様々な可能性が自分の中で聴こえてしまうから、上手くまとめられなくなることがたまにあるんですよ。今回のレコーディングに参加してくれているチャーリー(パクソン/dr)とかソロモン(ウォーカー/b)といったバンドのメンバーにも、意見は聞いたりします。

YG:でも最終ジャッジは必ず、YTさん自身だと。

YT:そうですね、最終的にここは譲れないという軸はあるんで。

YG:ドラムとベースの話が出ましたが、すべての曲をトリオのバンドで録ったんですか?

YT:「Afterburner」という3曲目だけ。チャーリーは氷室京介さんのバンドでも叩いていたドラマーで、ソロモンはブライアン・アダムスのバンドのベーシストなんです。その3人でロスで一緒に、DEATH DIAMONDというバンドっぽいことをやってるんですよ。

YG:ということは、他の曲は打ち込みですか?

YT:他は全部そうです。

YG:そう思って聴くと、特にドラムの打ち込み方は恐ろしいほどの完成度ですよね。

YT:好きなんですよ、基本的に。コピー&ペーストはほとんどせず、だいたい初めから終わりまでドラムのパターンを頭の中で作って、それをフル尺で頭から打ち込んでいく。例えば1Aと2Aのパターンを変えたり、タイミングも少しずつずらしたり…クオンタイズ(註:演奏のタイミングのズレを補正すること)もしないです。

YG:MIDIパッドか何かで、リアルタイムで叩くわけですか?

YT:パッドも使いますし、鍵盤で打ち込むこともありますし。どうしてもタイミングが気持ち悪い時は、後からマウスでいじってちょっとだけずらしたりもします。オタクなんですよね。

YG:まあ昔のロック・バンドは、生ドラムで最初から最後まで通して録るのが当たり前でしたもんね。仮にヨレても当たり前というか。

YT:そう、それと同じような感覚。時間はかかりますけどね。でも打ち込み作業を始める前に、ディテールは頭の中で考えてしまうんですよ。ここでギターがこう来て歌がこうなるから、じゃあドラムはここで何か入れた方がいいな…みたいに、フレーズをなんとなく作っちゃうんです。

YG:それは多分、YTさんみたいな仕事の仕方をしてきた人ならではかもしれないですね。スピードを求められることもあるでしょうし、デモを録るぐらいなら最初から作り込んだ方が結果的に早かったり。

YT:それはあるかもしれないですね、自分の作品だと特に。でも僕は別に、他のアレンジャーの方と比べて作業が早いわけではないと思うんですけど。時間はかかる方だと思うんです。他のアレンジャーと比べたことがないのでわからないですけど。

切り開かれていない土地を開拓した人たちが昔いて、その人たちの残像を追っている…みたいなイメージ

YG:ではアルバムの細かいところについてお聞かせいただければと思うんですが…まず1曲目「Echoes of the Last Runner」。この曲を最初に聴いた時、ギターの音を人間の声かと勘違いしたんです。ボコーダーか何かを通してます?

YT:いや、ギターにファズとオクターヴァーとオート・ワウを重ねて。

YG:それでああいう具合になりますか。

YT:なるんですよ(笑)。オクターヴァーを使うと実際に和音で弾いた音に比べると、かかり方が怪しくなるじゃないですか。その曖昧さが、喋っている感じに近いと思うんですよね。でもまあ、たまたまできたような音なんですよ。

YG:メロディーに関しては、YTさんは楽器を持たずに作るタイプですか?

YT:歌いながら作りますね。その上で譜面を書いて。

YG:やっぱりそうなんですね、聴いていてそれはよくわかりました。

YT:でもこの曲は本当は歌モノにしようと思っていたんですよ。試しに仮の歌詞も作ったんですけど…歌えなかったんです。

YG:それはどうして?

YT:歌い回しが自分の歌だとちょっと、イメージ通りにどうしてもならず、どれだけ試しても納得いく形にならなかったんで。じゃあギターで弾いた方がいいかなと。

YG:ゲストのヴォーカルを迎えてみよう…とはならなかったんですね。

YT:そうですね。やっぱり自分で演奏できるものにしたかったんですよ。

YG:全体の音像は最初におっしゃったとおり、確かに3ピース・バンドらしくて、そこはこだわりが伝わってきました。

YT:そうですね。ギターが2本聴こえるところも、多分ライヴだったらオクターヴァーを使うとか、ベーシストに上を一緒に鳴らしてもらうとか…そういう形でカヴァーできると思うんです。最低限の重なりにしかしてないはず。

YG:ちなみに前作のインタビューでYTさんは、インスト曲は歌詞がないからこそ、情景が浮かぶように作ることを意識している…とおっしゃっていたんです。この曲に関してはどういう情景ですか?

YT:なんて言うんですかね…切り開かれていない土地を開拓した人たちが昔いて、その人たちの残像を追っている…みたいなイメージ。その人たちがいなくなってまた荒れているところを、もう1回自分が試行錯誤しながら、葛藤を持ちながらまた進んでいこう…と。

YG:なるほど。…と言いながら、あんまり一般的なテーマではないですよね?

YT:例えばトリオのバンドを想定して物事を進めるっていうのも、 今までちゃんと自分ではやったことがなかったですし。トリオ編成はポリスとか、そういうバンドがやってきているじゃないですか。じゃあその人たちがやってきた方法論を参考にしつつ、再度僕が自分なりの形で進めてみよう…と。

YG:ご自身の今の心境がそこにあるわけですね。そして2曲目「Bigger on the Inside」。これは歌モノで、歌い方がかなり前作から進化したというか…プロに対して失礼な言い方になったら申し訳ないですが、単純に上手くなったように感じました。ヴォイス・トレーニングはしました?

YT:いや、そこは全然研究してないんですけどね。ただこの2曲目に関しては、今までどおりの歌い方だとしっくりこなかったんです。綺麗に聴こえちゃうというか。もっと必死な部分を出したくて、じゃあ試しに全然違う声で歌ってみようと思って、本当に潰した感じの声にしてみたんです。だから上手くは歌えてないんですよ、自分の中では。歌い切った後は咳が止まらないぐらい大変で。

YG:昔からこういう歌い方が、YTさんの中にあったわけじゃないんですね。新しく生み出したと。

YT:生み出したというか、ひねり出したというか。初めての試みです。

YG:でもこの方向性にしっかり行き着くのが、素晴らしいですね。音像はこの曲に関しては、3ピースではなくたくさんの人がいるジャムの雰囲気に聴こえました。

YT:楽器は多分3人でも弾けるぐらいに抑えていると思うんですが、ただやっぱり自分以外に、周りの人がいるからこそ良い…みたいな雰囲気にはしたかったんですよね。そういう意味では、ジャムっぽさを感じていただけて良かったなと思います。

YG:コーラスはいろんな人の声が入っているように聴こえるんですが、すべてYTさんの声ですか?

YT:僕とGinの声が入ってるだけで、2人で全部やってます。かなり試行錯誤しました、わざと歌い方を変えたり、声の出し方を変えたり。普段と違う試みをかなりやった曲ですね。

YG:アルバムならではの実験ができたわけですね。3曲目「Afterburner」はさっき話に出た、3ピースのバンドで録った曲。ベーシック・トラックはライヴ録りですか?

YT:いや、僕のギターは後から。2人にギターのリズムとメロディーをバーっと弾いたトラックを渡しておいて、ドラムとベースだけ一緒の部屋で自由に録ってもらいました。その後でもう1回ギターを録り直す形です。3人で一緒に録れたらよかったんですけど、都合が合わなくて。

YG:従来のYTさんの路線の曲でありつつ、モーターヘッドっぽい感じもあったり、スティーヴ・ヴァイっぽいところもあったり。

YT:この曲のアイデア自体は、けっこう昔から持っていたんです。「Afterburner」というタイトルからもわかるんですけど、飛行機の航空ショーを観ている時に思い浮かんだ曲ですね。ギターのリフが観ている時に出てきて、ずっとそのアイデアを温めてたんです。グワーッと飛行機が迫りくる時と、飛んでいってシーンとなる時、その変わり方がすごく印象に残っていて。で、曲を書く時に、激しいパートと静かなパートが出てくるような構成になったんです。でも航空ショウはすごい轟音なので、静かな時も耳鳴りのような変な音が聴こえてくるというか…その感じを出すために色々やったのが、多分スティーヴ・ヴァイっぽいところだと思うんですけど。

YG:続く4曲目「No One of a Kind」。これは歌モノで、また新しい歌い方が出てきましたね。ちょっとファンキーな…誰かの影響があったりするんですか?

YT:いや、誰々っぽくっていうのはないんですけど。ただリズムを作った時に、あまりダラダラしない歌い方、リズム隊のグルーヴに乗った感じの歌い方が曲に合うと思ったんです。普段そういう歌い方はあんまりしないんで、これもかなり苦労しました。敢えて言うなら、リズムに影響を受けて決まった感じですね。

YG:激しいロック曲ではあるんですけど、レゲエっぽさもあって。

YT:そうですね。あのレゲエっぽいヴァースの部分は、初めは普通にキックが4分で打っているだけだったんです。でもそこで何か1つ別の要素がほしくなって、Ginと話をしていた時に、レゲエっぽくしたらどうかと。それでポリスっぽい感じにレゲエの味を入れてみたんですよね。でもポリスみたいに歌うと、まんまポリスになっちゃうので(笑)。

YG:そうか、レゲエっぽい3ピース・ロックは、そういう先駆者がいましたね。

YT:だからこの曲のドラムはもう、もろに(ポリスのドラマーの)スチュワート・コープランドの影響を受けていると思うんですけど。

YG:音像的にはこれまた他の曲と違って…ギターは何種類か音を使い分けているじゃないですか。なのにパンニングはずっと同じ位置にあるというのが、ライヴ・アルバムみたいで面白いなと。

YT:そうですね(笑)。でもこの曲は基本的にファズのギターがメインで、ヴァースのところにクリーンが少し入る程度かな。ギター・ソロのところは、ちょっと変わった感じですかね。

YG:あの予想外の素っ頓狂なギター・ソロですね(笑)。

YT:あそこは全く違う雰囲気にしたかったんですよ。いわゆるソロっぽくないものにしたくて。平凡にアルペジオを弾くとかじゃなくて、人がちょっと耳を寄せるようなものにしてみたくて。

YG:本当に何をしているのかわからなくて、コピーする気も起こらないというか…。

YT:そうですよね(笑)。ワーミー・ペダルとワウ・ペダルを両方踏んでいるんですよ。初めはワーミーは動いていないんですけど、徐々に踏んでいって。で、そこに付点8分のディレイを絡めて。

YG:ライヴの時は椅子を用意しなきゃダメですね。

YT:そう、ちょっとやり方を考えないといけないなって思ってるんです。立ったままだとバランスを崩しそうですから。

YG:逆にエンディングには、正統派の泣きのソロが入ってたりするのが面白いです。

YT:あそこは勢いです(笑)。そのままずっと終わるのもなんだから、勢いで入れちゃおうと思って。もう本当に一発でバーっと弾いて、それでOK。

“次の一歩はどうしよう、どう踏み出そう”みたいな、そういうことを考えてできた曲

YG:5曲目「Where My Head is」はインストで、ベースのリフから始まる雰囲気がもろに’80年代のロック・フュージョンだなと思いました。

YT:前作にもこういうタイプの曲を入れているんですけど、僕の中ではジェフ・ベックなんですよ。特にフレーズを考える時は念頭にありました。ただそんなベックっぽいものでも、ファズ成分強めで弾いてますし、やっぱり綺麗なフュージョンにはならないんですけどね。少し潰れたようになってしまうというか。

YG:このタイプの曲は例えば、コード進行だけ最初に決めて、とりあえずアドリブで弾いて出てきたもので曲を作る…みたいな感じですか?

YT:僕の場合はだいたいギターのリフから作ることが多くて、この曲も初めにベースのリフが出てきたんですよ。いや、ギターで作ったのをベースに置き換えたのかな? どっちだったか憶えていないですけど、その時にメロディーの初めのフレーズが既に頭の中にできていたんです。あとはそこからコード進行や、その後の展開もすんなりできた感じですね。

YG:この曲はどんな情景を思い浮かべて?

YT:もうタイトルのままで…すごく必死でいろんなことをやっている時に、考えすぎてぼーっとすることがあるじゃないですか。集中していると逆に一瞬、はっきり見えなくなる時があるみたいな。そういうイメージの曲です。

YG:YTさんが仕事でテンパってる時は、こういうテンポ感なんですね(笑)。

YT:いや、そういうわけじゃないんですけどね(笑)。頭を使いすぎて頭が動いていない、ちょっと疲れもある…みたいな感じですか。

YG:なるほど(笑)。そして6曲目「Go On」、これは冒頭のリフが、歪んだ「Sunshine Of Your Love」(クリーム)みたいな。

YT:確か一番初めに作った曲なんですよ、アルバムの中で。もともとワーキング・タイトルが「Next Giant Leap」だったんです。「次の一歩はどうしよう、どう踏み出そう」みたいな、そういうことを考えてできた曲ですね。

YG:面白いですね、それがアルバムのタイトルになったというのは。

YT:何かこう、満足していない状況でも、前にとにかく進んでいかないと、結局何もできない…ということってあるじゃないですか。そういう葛藤がありながら、とにかく自分には音楽しかやれることがないんだ!と。リフの感じとかも荒々しいところは、そんな葛藤している自分をそのまま出したんです。

YG:この曲がアルバム制作の一発目に出てきたというのは、方向性を決める上で良いスタートだったと言えそうですね。

YT:そうですね、この曲が出てきたからだいぶ固まったと思うんですよ。

YG:ギター・ソロは、少しアウトして、でもその後上手く戻ってちゃんと解決している感じが、ダーティだけど知的…みたいな相反するものを感じたんですが、これはアドリブですか? それとも作り込んだもの?

YT:両方ですね。初めはアドリブでバーっと弾いて、それを聴きながら「ここはこういう方向に行ったら面白いかな」というところで、フレーズを作っていって。で、レコーディング時にはフレーズをもう少しまとめた形にしました。

YG:非常にYTさんらしさが出ていると思いました。そしてヴォーカルがまた、新しい歌い方ですよね、日本語詞ですし。忌野清志郎さんや近藤房之助さんみたいにブルージーなニュアンスがあったり、稲葉浩志さんのような瞬間も感じられたりしたんですが。

YT:いやあ…光栄ですね。影響を受けたなんて口が裂けても言えないです(笑)。そんな方々みたいに歌えませんから。でも、もう必死に歌いました。すべての曲に当てはまるんですけど、綺麗に歌おうという意識はないんですよ。多少音程がずれていてもいいと思って。音程がきちんと取れていないとか、滑舌がしっかりしていないとか、そういうのもそのまま残すようにしたんです。

YG:でもブルースって、そういうところに味が出るものですし。

YT:ブルース系シンガーに影響を受けたように感じられたのは、多分僕がずっと聴いてきたから…というのもあるとは思うんですけど。

YG:そして7曲目「Strangers on Mars」。これはもう、タイトル通りの情景を思い浮かべた曲ですか?

YT:そうですね。今、いわゆる“Next Giant Leap”…つまり「人類にとっての次の大きな一歩」だと言われていることって、火星の開拓ですよね。そういう分かりやすい意味で“Mars”という言葉を入れたんですけど、要は新しい場所に誰かが踏み出した時、その人はそこでは“Stranger”だと。日本語だと何て言うのがいいんですかね? いきなり来たよそ者、みたいなものかな。そういうイメージですね。

YG:頭のリフのところ、ものすごいファズの音ですよね。ダーティだけどギリギリ音程感がある、絶妙の線を狙っているというか。おそらくツマミの設定を、「ここじゃない、ここじゃない」みたいに延々探っている作業があったんだろうなと思ったんですが。

YT:ありました(笑)。こういうファズの音、大好きなんですよ。発振してプープー言ってしまっているような。

YG:だからといってZ.VEXの“Fuzz Factory”みたいにノイジーなところまで行くと、わけがわからなくなっちゃうし。

YT:そうなんです。“Fuzz Factory”も持ってはいるんですけど、今回は使いませんでした。どうしてもフレーズが見えなくなるので。あれはやっぱり飛び道具的なものというか。

YG:リードの音が少しブルースハープっぽいというか、別の楽器の音に聴こえたんですけど、これは特別な何かをしてるわけでもない?

YT:ファズの音ですね。デス・バイ・オーディオの“Fuzz War”ってあるじゃないですか。あれをボグナーのクリーン・チャンネルに通して、スライドで弾いてるんです。

YG:なるほど、それがたまたまブルースハープっぽく。

YT:アタックが弱くなりますからね。スライドはアルミでできたバーで、ちょっとトーンが普通のバーと違うのもあると思います。

YG:そして8曲目「Celebration of the New Sun」。ここまでと全然違う、アコースティック・ギターのみのソロ曲ですが、これは一発録りですか?

YT:そうですね。もちろんその一発の前にすごく練習しましたけど(笑)。全体の始まりか終わりを、すごく静かな曲にしたいという思いが漠然とあって、ガット・ギターを弾いていた時にこの曲がスッとできたんですよ。あんまり考えずに出てきた曲なんで、いけるかも…と。

YG:コンプレッサーが深めにかかっていて、右手左手のタッチが如実に出る感じが、この音作りで録るのは難しいだろうな…と思いました。

YT:生々しさが欲しかったんですよね。キュキュッっていう音とかが、全部入ってほしかったんですよ。歌モノでもそうですけどね、息を吸っている音とかもできるだけ入れたいと思って。

YG:曲のタイトルはどういう意味合いですか?

YT:その日が終わって、次にまた新しい日が始まるという…プラスにもマイナスにも取れますけど、僕の中ではポジティヴな捉え方なんです。1日をとりあえず全力でやって、満足いかなかったりすることもあるんですけど、終わったらまた次の日が始まるんだから、グダグダ考えてもしょうがないか…みたいな。

YG:今はわりと砕けた表現でしたが、それをこういうタイトルに落とし込むと、逆に大仰な感じですね(笑)。

YT:もうちょっとかっこよく説明できたらいいんですけど(笑)。

YG:いや、そのミスマッチはすごく面白いです。続いて、機材も教えていただけますか?

YT:アンプは基本、いつも使ってるボグナー“Ecstasy”の20周年モデル。ファズを使う時はあれのクリーン・チャンネルにつないでます。今回は歪みの深いチャンネルは使っていないかもしれない。ファズはさっき言ったデス・バイ・オーディオの“Fuzz War”を、ほぼ全曲で使ってるんじゃないかな。他にもファズはいくつか使っていて…フォックスロックスだったかな、名前は忘れちゃいましたけど、1オクターヴ上と下の音が出せるやつとか、あとエレクトロ・ハーモニックスの“Big Muff π”とか。ラムズヘッド期のやつですね。それに320 Designの“Strung Fuzz”も使いました。で、コンプはボグナーの“Harlow”というペダル。ギターは大半が1978年製の黒いギブソン・レスポール・カスタムです。今回の曲はほぼあのギターで弾いていると思います。

YG:YTさんの以前からの作風だと、アンプはプラグインを使ってもおかしくはないですが、やっぱり生アンプじゃないとダメですか?

YT:ダメというか、生アンプの音が単純に好きなんです。ただ、今回スピーカー・キャビネットのシミュレーターを使ったりはしました。トゥー・ノーツの“Torpedo”のプラグイン版の“Wall Of Sound”というヤツを。自分の持っているスピーカーのIRも入れてあるし、あと昔のセレッション・グリーンバックとか、その辺はいくつか試したのもあります。

YG:スピーカー・シミュレートの分野に関しては、ここ何年かで急激にクオリティが上がりましたもんね。

YT:すごいことになりましたよね。あれの良さって、でかいキャビネットのシミュレートもいいんですけど、小さなボロボロのキャビネットなんかもシミュレートされてたりするじゃないですか。そういう音が欲しい時にいいんですよね。「Strangers on Mars」のファズがプープー言ってる音とかは、もう本当に小さいスピーカーのシミュレートを通してあります。

YG:…といった具合で、聴きどころ満載のアルバムになりました。8曲入りですが、密度的にはもっとありそうな濃さですね。

YT:本当は15曲ぐらいできていたんです。

YG:じゃあすぐに次のアルバムを作れますね(笑)。

YT:どうでしょう?(笑) でも、次を出す頃にはまた考え方が変わってそうですし。

YG:確かに。ソロ・アルバムって別に、ネタがあるからとりあえず出しておこう…みたいなものではないですし。

YT:自分のその時の心境と合っていないと、しっくりこなくなっちゃいますからね。

YG:では最後に読者に、何かメッセージをいただけると。

YT:ちょっと壊れたものというコンセプトで作ったんですけど、メロディーは丁寧に作ったんで、楽しんでいただけると嬉しいです。あと来年予定しているソロ・ライヴの方も、ぜひよろしくお願いします。1月12日にあるんですけど、それは3ピースでやるつもりで…今回のアルバムのコンセプトそのままですね。シンク・トラックなんかも流さない、とにかくプリミティヴな、3人のミュージシャンが集まってバっとやるようなライヴにしようと思っています。アルバムを今回で合計2枚出させていただいたので、ようやく自分たちの曲だけでセットリストを組めますし。ベースは今作に参加してるGinで、ドラムはGLAYのバックなどで叩かれている永井利光さん。駄目元で頼んでみたら、たまたまスケジュールがその日は空いていたんですよ。絶対に楽しいライヴになると思います。

INFO

Next Giant Leap / Yukihide “YT” Takiyama

B ZONE | CDリリース:2024年9月25日

Amazonでチェック

収録曲
1. Echoes of the Last Runner
2. Bigger on the Inside
3. Afterburner
4. No One of a Kind
5. Where My Head is
6. Go On
7. Strangers on Mars
8. Celebration of the New Sun

YUKIHIDE “YT” TAKIYAMA EXCLUSIVE LIVE「NEXT GIANT LEAP」ライヴ情報

日程:2025年1月12日(日)
会場:池袋harevutai
開場 15:30 / 開演 16:00
詳細・お問い合わせ:ディスクガレージ

公式インフォメーション:
【YT】Yukihide “YT” Takiyama

(インタビュー&文●坂東健太 Kenta Bando Pics●©VERMILLION)

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