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介護現場のハラスメント実態と対策。職員を守る3つの取り組み

「みんなの介護」ニュース

長谷川 昌之

介護現場で起きているハラスメントの種類と事例

利用者や家族からのハラスメント

介護現場では、利用者やその家族から職員に対するハラスメントが深刻な問題となっています。ヘルスケア労協の調査によると、介護現場の過去3年間において、47.6%の職員が患者やその家族から何らかの迷惑行為を受けたと報告されています。

具体的な事例として、以下のようなものが挙げられます。

暴言:最も多く報告されており、認知症の利用者が混乱から職員に対して侮辱的な言葉を投げかけるケースなど 威嚇・脅迫:家族が介護方針に強い不満を示し、職員を責めたり脅すなど 暴力行為:認知症や精神疾患を抱える利用者が、混乱状態で職員に対して身体的な攻撃を加えるなど

このようなハラスメントは、職員のメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼします。調査では、ハラスメントを受けた後に「出勤が憂鬱になった」と回答した職員が47.1%に達し、「仕事に集中できなくなった」とする人も21.7%いました。

さらに、12.1%は退職を考えたと答えており、これらのデータは介護ハラスメントが職員の精神的健康を損ない、離職率を高める要因となっていることを示しています。

職員間のハラスメント

介護現場では、利用者や家族からのハラスメントだけでなく、職員同士のハラスメントも問題視されています。これには、同僚や上司からのパワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどが含まれます。

具体的な事例としては以下のようなものがあります。

パワーハラスメント:経験豊富な先輩職員が新人に対して過度に厳しい指導を行ったり、不当な扱いをしたりする行為 セクシャルハラスメント:性別に基づく差別的な発言や、不適切な身体的接触を行う行為 モラルハラスメント:特定の職員を排除したり、孤立させるような行為

このような職場環境では、職員同士の信頼関係が損なわれ、チームワークが低下する恐れがあります。さらに、職場環境の悪化は職員のモチベーション低下につながり、結果としてサービスの質も低下することが指摘されています。

介護現場特有の課題として、人手不足による過度な労働負担や、世代間のコミュニケーションギャップが挙げられます。これらの問題が職員間のストレスを高め、ハラスメントを誘発する可能性があるでしょう。

上司や経営者からのハラスメント

介護現場では、上司や経営者からのハラスメントも看過できない問題です。特に経営者が利益優先で人材を使い捨てにするような態度を取ると、職員は精神的な負担を感じることになります。

具体的な事例としては以下のようなものが挙げられます。

不当な評価:公平性を欠いた人事評価や、恣意的な昇進・昇給の決定 過剰な業務負担:人手不足を理由に、一人の職員に過度の業務を強いること パワーハラスメント:威圧的な態度や言動で職員を萎縮させること

このようなハラスメントは組織全体の雰囲気にも影響し、結果として利用者へのサービス提供にも悪影響を及ぼす可能性があります。具体的には以下のような対策が求められるでしょう。

明確な方針の策定と周知 ハラスメント防止に関する組織の方針を明確にし、全職員に周知すること。 相談窓口の設置 職員が安心して相談できる窓口を設置し、適切に対応する体制を整えること。 研修の実施 管理職を含む全職員を対象に、ハラスメント防止に関する研修を定期的に実施すること。

これらの対策を通じて、上司や経営者からのハラスメントを防止し、職員が安心して働ける環境を整備することが求められています。

介護ハラスメントがもたらす深刻な影響

職員のメンタルヘルスへの影響

介護現場におけるハラスメントは、職員のメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼしています。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によると、ハラスメントを経験した職員の多くが心理的な影響を受けていることが明らかになっています。

具体的には、利用者やその家族からの暴言や威嚇、身体的暴力などが職員の精神的健康を損なう主な要因となっています。

これらの症状は、職場でのパフォーマンス低下につながるだけでなく、長期的には抑うつや不安障害などの精神疾患のリスクを高める可能性があります。

介護現場特有の課題として、認知症の方など、意図せずハラスメント的な言動をとる可能性のある利用者への対応があります。このような場合、職員の専門的なスキルアップとともに、適切なサポート体制の構築が不可欠となるでしょう。

職員のメンタルヘルスケアは、単に個人の問題ではなく、介護サービスの質と直結する重要な課題です。組織全体で取り組むべき優先事項として認識し、継続的な改善努力が求められています。

離職率の上昇と人材確保の困難

介護現場におけるハラスメントは、職員の離職率を著しく上昇させる主要因となっています。この問題は、単に個人の職場環境を悪化させるだけでなく、業界全体に深刻な影響を及ぼしています。

ハラスメントによる離職の増加は、以下のような負の連鎖を引き起こしています。

既存スタッフの離職率上昇 新規人材の確保難 人手不足の悪化 残されたスタッフの負担増加 さらなる離職の誘発

この悪循環を断ち切るため、厚生労働省は以下のような対策を講じています。

介護職員処遇改善加算の拡充 介護職員の賃金水準の向上を図り、職場定着率を高める取り組み ハラスメント防止のための指針の策定 事業者に対し、ハラスメント防止のための具体的な措置を義務付ける指針 介護職員の資質向上のための研修制度の充実 職員のスキルアップを支援し、職場での自信と満足度を高める取り組み

しかし、ハラスメント対策だけでは不十分であり、総合的な労働環境改善が求められています。

しかし、ハラスメント対策だけでなく、介護現場全体の労働環境改善が必要不可欠です。長時間労働の是正、休暇取得の促進、キャリアパスの明確化など、総合的な取り組みが求められるでしょう。

加えて、ハラスメントが横行する職場というネガティブイメージの払拭も重要です。介護業界の魅力を適切に発信することで、新たな人材の確保にもつながるでしょう。ハラスメント対策を含む包括的な職場環境改善が、今後の介護業界の発展に不可欠となっています。

サービスの質の低下と施設の評判への影響

介護現場におけるハラスメントは、職員のメンタルヘルスや離職率に影響を与えるだけでなく、提供されるサービスの質にも深刻な影響を及ぼしかねません。仕事への集中力が低下やモチベーションの低下によって以下のような影響が考えられます。

職員が利用者に対して十分な注意を払えなくなる 必要なケアを提供する際の細やかな配慮が欠ける 職員間のコミュニケーションが悪化し、チームワークが低下する 利用者やその家族からの苦情が増加する

これらの問題は、介護サービスの質を直接的に低下させ、利用者の満足度や生活の質に悪影響を与える可能性があります。

施設の管理者や経営者は、ハラスメント防止策を講じることが、単に職員の保護だけでなく、サービスの質の維持・向上、そして施設の評判や経営の安定にも直結することを認識し、積極的な対策を講じる必要があります。

ハラスメント対策は、職員の保護だけでなく、介護サービスの質の維持・向上、そして施設の持続可能な運営のために不可欠な取り組みだと言えるでしょう。

介護現場におけるハラスメント対策の3つの柱

明確な方針の策定と周知徹底

介護現場におけるハラスメント対策の第一の柱は、明確な方針の策定と周知徹底です。方針の策定にあたっては、まず組織としてハラスメントを許容しないという姿勢を明確に示すことが重要です。

具体的にはハラスメントの定義や禁止される行為の具体例、違反した場合の懲戒処分などを記載すると良いでしょう。

策定された方針は、全ての職員に確実に周知されなければなりません。以下のような周知方法を検討してみてください。

就業規則や服務規程等への記載 ハラスメント防止方針を公式な規則として明文化します。 職員に対する説明会の開催 方針の内容を直接説明し、質疑応答の機会を設けます。 社内報、パンフレット、社内ホームページ等への掲載 さまざまな媒体を通じて、方針を繰り返し伝えます。

さらに、新規採用時のオリエンテーションでも必ず方針を説明し、理解を促すことが重要です。定期的な研修やミーティングの場でも、方針の再確認を行うことで、職員の意識を高め続けることができるでしょう。

方針の周知は職員だけでなく、利用者や家族に対しても行う必要があります。契約時や利用開始時に、施設のハラスメント防止に関する方針を説明し、協力を求めることで、互いに尊重し合える環境づくりにつながります。

ただし、方針の策定と周知だけでは十分ではありません。次に説明する相談窓口の設置や、継続的な研修など、総合的な取り組みと組み合わせることで、より効果的なハラスメント対策となるでしょう。

相談窓口の設置と適切な対応体制の整備

介護現場におけるハラスメント対策の第二の柱は、相談窓口の設置と適切な対応体制の整備です。相談窓口の設置にあたっては、以下の点に注意が必要です。

アクセスのしやすさ 職員が気軽に相談できるよう、複数の窓口(例:直属の上司、人事部門、外部の専門機関)を用意することが推奨されます。 プライバシーの保護 相談者のプライバシーを厳重に守り、相談したことで不利益を被ることがないよう保証する必要があります。 公平性の確保 相談を受ける担当者は、中立的な立場で対応できる人物を選定することが重要です。 迅速な対応 相談があった場合、速やかに事実関係の確認と対応策の検討を行う体制を整えることが求められます。

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によると、顧客等からの著しい迷惑行為に関する企業の取り組みとして、「顧客等からの著しい迷惑行為の対応に関するマニュアルの作成、研修の実施」を行っている企業は全体の13.7%にとどまっています。

 

この数字は、特に中小規模の事業所でさらに低くなる傾向があり、改善の余地が大きいことを示しています。

一方で、適切な相談窓口と対応体制を整備している施設では、早期にハラスメント問題を解決でき、職場環境の改善につながっているという傾向も見られます。

相談窓口の設置と適切な対応体制の整備は、単にハラスメントへの事後対応だけでなく、予防的な効果も期待できます。職員が安心して相談できる環境があることで、小さな問題の段階で対処することができ、深刻化を防ぐことができるでしょう。

また、この取り組みは職員の信頼感を高め、職場の雰囲気を改善する効果もあります。ハラスメントに対して毅然とした態度で臨む組織だという認識が広まることで、ハラスメント自体の抑止力にもなり得るのです。

継続的な研修とコミュニケーション改善

介護現場におけるハラスメント対策の第三の柱は、継続的な研修とコミュニケーション改善です。

継続的な研修の実施には、以下のような内容が含まれます。

ハラスメントに関する基礎知識 ハラスメントの定義、種類、具体例などを学びます。 法的知識 関連法規や事業者の責任について理解を深めます。 事例研究 実際のハラスメント事例を基に、対応方法を学びます。 コミュニケーションスキル 適切な言葉遣いや態度、傾聴スキルなどを習得します。

研修は、新人研修だけでなく、定期的に全職員を対象に実施することが重要です。また、管理職向けの特別研修も効果的でしょう。

コミュニケーション改善に向けては、職員が自由に意見を言える雰囲気づくりを心がけること、定期的な面談を通して問題の早期発見につなげること、職員間の信頼関係を深めるためのチームビルディング活動を実施することなどが挙げられます。

継続的な研修とコミュニケーション改善は、ハラスメントの予防だけでなく、職場の生産性向上や離職率の低下にもつながる重要な取り組みです。介護現場の特性を踏まえた、きめ細かな対応が求められます。

例えば、認知症ケアの専門知識と対応技術の向上、BPSDへの理解促進など、介護特有の課題に焦点を当てた研修も効果的でしょう。また、世代間コミュニケーションスキルの向上と相互理解促進プログラムの実施も、多世代が働く介護現場では重要です。

継続的な研修とコミュニケーション改善は、一朝一夕には成果が出ないかもしれません。しかし、今回ご紹介した3つの柱を継続的に行っていくことが、長期的に見れば職場環境の改善、サービスの質の向上、そして職員の定着率向上につながる重要な投資だといえるでしょう。

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