『フジロック』記憶に残る名場面の数々と、ザ・キラーズがヘッドライナーに急遽決定した驚き【音楽ライター・リレーコラム(2)】
3日とも行かなかった(行けなかった)年が、3~4回。あと、金土に行って日曜は観ずに帰った年が、確か1~2回あった。ということは、それ以外の年は、『フジロック』に3日間行っていることになる。じゃあ、20回以上はそうなのか。
コロナ禍で世間にめちゃめちゃ叩かれながら、邦楽アクトのみ・観客数は上限の半分以下・アルコールNG・声出しNG・マスク必須、等々の制限ありで開催された2021年も、「むしろそんな特殊な年だから、行って見届けなきゃ」と思って、全日参加した。大トリが、客前でのライブはピエール瀧の逮捕以降初めて、つまりここで復活を果たす電気グルーヴだったことも、「行かないわけにはいかん」という思いに拍車をかけた。
そしたら、毎年フジで出くわす同業者なんかの音楽業界人、ほんとに誰もいなくて、ツイッターを見たら、みんな家でYouTubeの生中継でフジを観ていることを知り、ついでに「うわあ、リアルタイムで各方面から叩かれてるわ、フジに来た我々」ということも知り、ほぼ悩まずに参加したけど、まずかったかしら、俺……と、不安な気持ちでいっぱいになったのを、憶えています。
あ、誰にも出くわさなかったのは、フジの運営側が、感染予防のため、出演者やそのスタッフたちに、「今年は会場をウロウロしたりせず、出番が終わったらすぐ帰ってください」という要請を出していたせいもあったことを、あとで知りました。
■記憶に残る『フジロック』の名場面
そんな按配なので、強く記憶に残っている年は、たくさんある。アンダーワールドがグリーンのトリで、はしゃぎすぎて、ジャンプした時着地に失敗し、足をグネった年とか。調べたら2003年でした。
キャンセルになったアクトの穴埋めで二回出演したザ・ミュージックを、二回とも観た年とか。あ、これも2003年だ。ザ・ミュージック、復活したんですよね、またフジに出ないかな。
あと、金曜の朝にザ・ミッシェル・ガン・エレファントとフラワーカンパニーズが出た年、日曜のフィールド・オブ・ヘブンに「遠藤賢司とカレーライス」で出演したフラカンのグレートマエカワ&竹安堅一を、フラカン鈴木圭介&ミッシェルのキュウちゃん(クハラカズユキ)と一緒に観たことも記憶している。キュウちゃんが「あれくるりにいた人だよねえ、こんなに良かったのか」と、ドラムのもっくん(森信行)を誉めていたな……え、これも2003年だ。2003年のことしか憶えてないのか、俺は。
そんなことはない。豊洲(現在豊洲市場になっているあそこです)で開催された1998年に、ホワイトで観たイギー・ポップとか。クロージング・アクトのプライマル・スクリームのステージに、ダイナソーJr.のJ・マスシスが参加して、ケヴィン・シールズや J・マスシスやマニ等が並んで演奏し、その右でボビー・ギレスピーが歌う、という夢のような光景を観れた2005年とか(その写真、今でも仕事机の前に貼っています)。
よく雨が降るフジにおいても、おそらく過去トップレベルの激しさだった豪雨に打たれながらSIAを観た、2019年の2日目とか。
逆に、まさかの「3日間一切雨降らない」「そして3日間ずっと鬼暑い」2023年の3日目に、日が落ちて涼しくなったことに感謝しながら観たリゾとか。
当時、『buzz』という音楽誌で毎年フジロック特集号を作っていて、そのために3日間で15本か16本くらい出演アーティストのインタビューを仕込んで大変だった2000年とか。全部自分がインタビューしたわけではないけど、5本ぐらいはやったような気がする。ケリス(という黒人女性シンガー。12インチを買い漁る程度には大好きでした)が、通訳に頼りっきりの僕にあきれて、「わかる? ねえ、わかる?(英語で)」と、何度も言われたのを憶えています。
という中で、いちばん強く残っている年は、となると──きっと多くの方もそうではないかと思うが──やはり、2001年だ。そう、フジに取材に来た海外の音楽メディアの人が「こんなブッキングが可能なフェスは、イギリスにもアメリカにもない」と言ったという、1日目オアシス/2日目ニール・ヤング・クレイジー・ホース/3日目エミネム、が、ヘッドライナーだった年である。
もちろん3アクトとも観た。それ以前に何度もライブを観たことがあったオアシスはともかく、ニール・ヤングとエミネムは、正直、なんか現実感がなかったのを憶えている。
アクト側の問題ではなく、こっちの気分の問題です。「うわあ、本物だあ。目の前にいる、音出してる。嘘ぉ」みたいな。
しかし、ギャラ、いったいいくらかかったんだろう。この3組だったら、オアシスがもっとも安かったであろうことは想像に難くないが。すごいですよね、当時のオアシスがいちばん安い、というのも。
で。その3組以外にも、いいアクトがいっぱい出ていたことを、当時のタイムテーブルを見て、思い出した。
エイジアン・ダブ・ファウンデーションが、グリーンに初進出した年だったり。ほかにもグリーンは、ステレオフォニックスやシステム・オブ・ア・ダウンもいる。システム・オブ・ア・ダウン、この2年前に渋谷クラブクアトロで観ていたので、「もうグリーンかあ」とか勝手に感慨深い気持ちになったものです。
あ、パティ・スミスが来たのもこの年だ。あとアラニス・モリセット、去年(2023年)のグリーンで「フジで観るの何年ぶりだっけ」と思ったけど、この年以来だったのね。
で、ホワイトは……そうだ、ニュー・オーダーが土曜のトリをやった年じゃないか。確か、ものすごい久々の来日でしたよね(今調べたら14年ぶり)。あと、トゥ・ローン・スゥオーズメンも、オービタルも好きだったなあ……。
レッドマーキーも、土曜のトリがエコー&ザ・バニーメン、深夜帯がフリースタイラーズ(DJ)にステレオMC’sにダブ・スクワッドに、レイ・ハラカミにリッチー・ホウティン、好きなアクトばっかり……あ、土曜のフィールド・オブ・ヘブンのダブル・フェイマス、ボーカルの畠山美由紀がオーディエンスの好反応に感激して、「よくロックスターとかが『愛してるよ』とか言うけど、あれは本当にそう思って言っているんだと思います。みんな、愛してるよ!」って叫んでたなあ……。
と、しばしの間、脳内がすっかり23年前に飛んでしまいました。
なお、ここ数年は、40代50代のおっさん3人とか4人で、宿をとってレンタカーを借りて行く、会場では別行動でそれぞれ観たい時に観たいもんを観る、という参加のしかたになっている(前述の2021年はひとりだったけど)。今年2024年も、その予定です。
■初日のグリーン、ザ・キラーズがヘッドライナーに急遽決定した驚き
初日のグリーンのヘッドライナー、SZAがキャンセルになってしまった時、あのワクにふさわしいアクトを今からブッキングするのは無理だろう、ザ・ミュージックとかの時みたいに、他の日にブッキングされている誰かがそのワクでもやる、もしくは国内アーティストのセッション企画とかでなんとかするんだろうな、と思っていたので、代打がザ・キラーズであることが発表された時は、びっくりした。
よくツモれたな。英米と日本国内では人気にあきらかに格差があるので(国内の方が低い)、ブッキングしやすいはずはない、と思うんだけど。いや、逆に、英米のフェスならヘッドライナーあたりまえだけど、普段は日本国内ではそういうわけにいかない、だから来ない、という状態だったのが、緊急事態だったのでヘッドライナーとしてオファーできたから、バンド側も急遽出るという決断をできたのかな。
なんにせよ、楽しみです。
文=兵庫慎司