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「起立性調節障害」発症のリスクあり 「感受性」と「注意力」に特性のある子は「幼少期からの対応」がカギ

コクリコ

子どもが生まれ持った「感受性」と「注意力」。この両方の特性を持つ子は、学校生活において疲れやすく、起立性調節障害を発症するリスクが高まります。不登校を防ぐためにできることなどを、多くの保護者から相談を受ける野藤弘幸氏が解説します。

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多様性の時代といわれる現代。子ども一人ひとりの特徴や得意をいかしてあげたいと思う保護者は多いでしょう。「感受性」と「注意力」という視点で子どもを観察すると、個性やできる・できないを把握しやすくなります。一方で、学校生活は「みんなで一緒に」が前提です。集団行動の中では、「その子らしさ」はマイナスに働いてしまうことも。それに気づかずに過ごしていると、学校に通えなくなることもあります。

第1回は感受性が敏感な子、第2回は注意力の範囲が狭い子の特性、第3回は2つの力が小学校入学後に与える影響について解説しました。

連載最終回となる第4回では、感受性と注意力両方に特性のある子が発症しやすい「起立性調節障害」について説明し、「学校に行きたいのに行けない」を防ぐためにできることなどを、野藤弘幸氏にうかがいます。

【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は大人から「育てにくい」と思われる乳幼児期~青年期の子ども・保護者に関わる保育者への研修などを行う。

「起立性調節障害」と感受性・注意力の関係

第3回では、注意力、感受性それぞれに特性がある子どもの小学校生活について解説してきましたが、特に気をつけてあげたいのが、注意力の狭さと感受性の敏感さ、2つの特性を合わせ持つ子どもだといいます。

近年、小中学生の間で増加している「起立性調節障害」を発症して、学校に通えなくなるケースもあるからです。

「朝、起きられない、午前中を中心にめまいや動悸、頭痛、腹痛が起こる。これらが起立性調節障害の症状です。その原因は、自律神経がうまく機能しなくなる、つまり、身体が休めない状態が続いてしまうことにあります。

感受性が敏感な子は、学校でさまざまな刺激を過剰に受け取ってしまうため、身体は常に活動的で落ち着かない状態です。注意力の範囲も狭く、言葉で説明するのが苦手でもあります。そして、『ちょっとうまくいかない』『どうしていいかわからない』ことがたくさん起こる中で学校生活を送っています。

このタイプの子は、なかなか眠れない、眠りが浅いことも多いです。夜、学校での出来事を思い出して、『明日もうまくいかなかったらどうしよう』などと不安になり、なかなか身体が休まらず、やっと眠くなったと思ったらもう朝……。こうした状態が続くと、非常に疲れやすくなります。

そして、ある朝、どうしても起きられなくなるのです」(野藤氏)

起きようと思っているのに起きられない、無理に起きても頭痛がする、身体がだるい、朝食を取ると消化も進まずお腹が痛くなる、などの症状が出てきます。こうなると、学校に行けるような身体の状態ではないといいます。

「症状の特徴上、『学校に行きたくないから噓をついている』などと誤解されることもあります。ですが、学校に行きたい、なんとか行こうと限界まで頑張り続けた結果、身体が悲鳴を上げ、自分の意思でコントロールできなくなるのが『起立性調節障害』です」(野藤氏)

小学校は「通えて当たり前」ではない

子どもが頑張りすぎて倒れてしまう前に、「保護者が睡眠や食欲の変化や疲れに気づいてあげることが重要」だと野藤氏は指摘します。

「起立性調節障害と診断される年齢は小学校高学年から中高生が中心ですが、幼児期からその兆候が見られることもあります。就学前から寝つきが悪く眠りが浅い、朝の機嫌が波打っている状態などが続く子は、身体の様子を十分に見てあげる必要があるかもしれません。

『感受性』『注意力』という視点で常に子どもを観察していれば、不調のシグナルに気づき、その時々で必要な対応をとることができますよね。少なくとも、理由もわからず突然、朝起きられなくなるという事態は起こりにくくなると思います。

表に出てくる『困った行動』を子どもの気持ちの問題だとすまさず、幼児期から子どもを理解しようとする思いを持ち続けてほしいです」(野藤氏)

さらに、野藤氏は保護者に対し、認識を改めてほしいことがあるといいます。それは「小学校は誰でも当たり前に通える場所ではない」ということです。

「学校生活とひと口にいっても、授業だけではなく係や委員会など、さまざまな活動があります。周りの友だちとの関係性が緊張を生むこともあるでしょう。自分の子はそうしたたくさんの刺激に耐えられるのか、臨機応変に対応できるタイプなのか、と子どもをよく見てあげてください。

その上で、難しそう、黄色信号だと感じた場合は、ためらわずにいろいろな人・組織に相談したり、制度を活用したりすることをおすすめします。事前に対策を考えておけば、防げる問題はたくさんあるのです」(野藤氏)

園に相談する、年長なら就学前相談を活用するなど、早い段階から準備することが大切です。集団生活の刺激の多さ、難しさを保護者も理解し、子どもに寄り添った対応を考えていきましょう。

専門医への相談時に留意したいこと

感受性や注意力を観察し、日常生活でさまざまな工夫をしてもうまくいかない……。こうした場合は、発達障害の可能性も考えられるため、迷わず医師に相談してほしいと野藤氏は話します。ただし、子どもの発達を専門とする児童精神科医や小児神経科医はそう多くはないので、なかなか診断までたどり着けない現状もあります。

「数ヵ月から半年先の予約になることも珍しくありませんから、『そこまでではないかも』などと考え、躊躇する保護者もいるでしょう。また、『療育』や『親子教室』で様子を見ている間に症状が落ち着いてくることもあります。そのまま診断を受けない方もいますが、判断を早まらないでほしいです」と野藤氏。これは、どういうことなのでしょうか。

※療育とは?
発達障害の可能性のある子に対し、困りごとを解決し、自立できるように支援する活動。運営主体により、支援内容はさまざまで、自治体のほか、民間企業が実施していることもある。

気になる行動が続く場合は、ためらわずに専門医の診断を受けましょう。  写真:takasu/イメージマート

「たとえば、言葉の遅れが気になり専門医の診断を希望しましたが、予約は半年以上先。療育中に問題なく会話ができるようになりました。単に発達がゆっくりだったのだと考え、受診を取りやめたとします。

こうした子が小学校入学後に、文字を覚えることや字を書くことにとまどう場合もあります。発語がうまくいかない『要因』が別のところにあったにもかかわらず、診断を受けずにあいまいにしてしまったことで、気づくのが遅れてしまったケースです。

もちろん、わかった時点で対応策を講じればよいですが、入学前に判明していれば、本人が苦しんだり傷ついたりする経験を減らすことができます。ですから、表面上の問題が解決したように見えても、できるだけ専門医の診断を受けてほしいと思います」(野藤氏)

子育てのゴールは「子どもが楽しく働けること」

不登校が社会問題となる中、さまざまな意味で学校へのハードルが高まっています。

「現状では義務教育はまだまだ集団行動が中心で、みんなに等しく一定以上の能力を求めます。そうした学校生活は、感受性と注意力に特性がある子どもにとっては厳しい面も多々あります。

とはいえ、待っていてもすぐに教育システムが変わるわけではありませんから、『どうしたら学校に行けるのか』を考えていくことは必要です。それに、なんだかんだいっても、日本はまだまだ学歴を重視する社会ですよね。資格取得でも、「高校卒業以上」を求めるものは多く、安易に学校に行かなくてもいいよ、とは言えません。

なにより、私が相談を受ける起立性調節障害を含め、発達の支援が必要な子たちは、『学校に行きたい子』がほとんどです。学校に行きたいのに行けない子がなんとか学校生活を送れるように、さらにいえば『学校に行けなくなってしまう子』が少しでも減るように、周囲の大人や保護者が支援することが大切です」(野藤氏)

一方で野藤氏は、学校の中で評価される「みんなと同じようにできる力」や「一定以上の学力」ばかりを子どもに求めるのは危険だと語ります。

「保護者がとにかく他の子と同じように○○してほしい、という視点ばかりで子どもを見ていたら、その子だけが持つ能力や特性は見えてきません。きっと本人も自分の能力を知ることはできないでしょう。

学校にいる間はそれでもなんとかなるかもしれませんが、仕事を選ぶときにリスクが高くなってしまいます」(野藤氏)

感受性が敏感で周りのことが気になってしまう特性なのに、常に知らない人からの電話を受ける業務や営業職などに就いてしまう。注意力が狭く、伝票計算など複数の情報処理が苦手なのに、こうした力が必要な事務職を選んでしまう。あるいは、そうした仕事に就くよう求められる、もしくは選ぶように勧められて選択してしまう。自分のことがわからないと起きてしまうミスマッチの一例です。

「冷静に考えれば、学校にいる期間より働いてからのほうがずっと長いのです。

そこを踏まえれば、人生で重要なのは、仕事が『楽しい』『やりたい』と思える内容かどうかだと思います。どんなに社会的地位が高い職業でも、おもしろいと感じなければ続けられませんから。

『明日もまた頑張ろう』と自然にモチベーションが湧いてくる仕事を選ぶためには、自分自身や自分の能力を知っていることが大前提です。

子どもが成長過程で自分のことをよく理解できるよう、教えたり手伝ったり、ときには対話したりしながら一緒に時間を過ごす。これこそが、保護者の大切な役割の一つではないでしょうか」(野藤氏)

保護者は子どもの将来を心配するあまり、「もっとこんなふうに育ってほしい」「(多くのことを)できるようになってほしい」と自分の理想や正しいと思う方向に導こうとしてしまいます。

「感受性」や「注意力」という視点は、子どもに生まれ持った能力が備わっていること、それがプラスにもマイナスにも働くことを教えてくれます。子どもの能力をよく理解した上で、良いところは最大限にいかし、難しいことは支える。そして、人に助けを求めてもいいと伝える。そんな関わり方が、子どもの人生における生きやすさにつながっていくのかもしれません。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

Photo by 川端アリ

【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は、「育てにくい」「言うことを聞かない」「自分でしようとしない」など、大人がそう思う乳児期から青年期の子どもたちと、その子どもたちの養育者に携わる保育者への研修、講演活動を行う。著書に『発達障害のこどもを行き詰まらせない保育実践~すべてのこどもに通じる理解と対応』(郁洋舎)、その他保育雑誌への連載などを担当。

取材・文 川崎ちづる

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