新小金井で育まれるクラフトカルチャー。変化の過程にあるレトロな商店街さんぽ
昔ながらの和菓子店や鮮魚店、中華料理店が軒を連ねる新小金井駅前、西口商店会。その一帯にジワジワと広がりを見せるクラフトカルチャー。コンパクトなレトロ商店街で何が起こっている? 当事者たちに話を聞いた。
手仕事で丁寧に作るオーダー革靴『Coupé』
「10年後も履きたい靴」をコンセプトに、セミオーダーの革靴を制作する工房兼ショップ。店内でサンプルを試着し、履き心地を確認。デザインや製法、革の種類や色を選択してオーダーする。完成した革靴が手元に届くのはおよそ1年後となるそう。ちなみにブランド名の由来はもちろん、ころんと丸みを帯びたコッペパン。12~17時、不定期営業。
☎なし
営業日などの情報はcoupe_shoesへ。
世界に一冊しかない自分だけの本を『空想製本屋』
都内の工房とスイスの学校で手製本を学んだ、製本家の本間あずささんが主宰するアトリエ。要望、コンセプトを汲み取りながら、オーダーメイドの本を1冊から制作してくれるほか、本の修理や製本教室もおこなう。緻密かつ繊細で、複数の工程を経て完成する手製本は、隅から隅まで人の温度が感じられる。
☎なし
問い合わせはメール(info@honno-aida.com)まで。
来るたびに発見がある街の古本屋『尾花屋』
ジャンルレスにセレクトされた古本のほか、アート作品やアンティーク雑貨、古着も取り扱う。熱中して見ていたら軽く1時間は経っていそうな多種多様なラインナップは、店主の頭の中をそのまま再現したかのようだ。尾花さんは「いろんなものが置いてあって楽しいでしょ?」とレジカウンター越しに朗らかに笑う。買い取りの相談もお気軽に。
11~ 19時、木休。
☎042-407-57 98
活版印刷の深淵なる世界へ『溝活版分室』
武蔵野美術大学名誉教授の横溝健志さんを中心に、活版印刷 を愛好する10名ほどのメンバーで共同運営する作業室。体験ワークショップなどのイベントを不定期で開催しているほか、名刺の制作も受け付けている。ずらっと並ぶ鉛の活字は、見ているだけで知的好奇心が刺激される。
☎なし
問い合わせはメール(mizzopress2019@gmail.com)まで。
街と人をつなぐ発展途上の想創拠点『のびしろ荘』
駅徒歩30秒、地域密着型のコミュニティースペースを主催するのは、この春に大学を卒業する安島さん。写真家やアーティストによる展示、そのほかイベントなど、月に数度のオープンデイが設けられており、その際には作家の卵や近隣の大学生たちが集結する。現在、土間スペースをBARにするべく改装中。
☎なし
イベント情報はnobishiro_9へ。
じわじわと広がる新しい動き
レトロな通りを歩くと、革靴の工房、手製本のアトリエ、活版印刷の作業室など、ものづくりにまつわる店舗が点在していることに気がつく。コンパクトな商店街に、だ。『coupé』の中丸さん夫妻は「もともと親交のあった、革小物の『SAFUJI』が新小金井にショップをオープンしたこともあって『それなら僕らも』と、工房として使っていたこの建物を改装してショップにしました」と振り返る。
各店舗同士の横のつながりも強い。「『空想製本屋』の本間さんとは兼ねてからつながりがあって、作業室を探していた時に『隣の部屋が空いていますよ』と今の物件を紹介してくれたんです」と『溝活版分室』の加賀美さん。『尾花屋』の尾花さんは「『溝活版分室』で作ってもらったんですよ」とニコニコしながら名刺を見せてくれた。
面白いのが、いずれもここ5年ほどでオープンした店舗であることだ。賃料の低さが開業のハードルを下げていることも理由の一つであるようだが、それ以上に、クラフトを嗜好(しこう)する人々の琴線に触れているのが、この街が纏(まと)う雰囲気。『のびしろ荘』の安島さんは通学路として新小金井に通い、次第にこのエリアに引かれていったそう。
「新しいことを始めようとする人にもすごくオープン。人もみんなあたたかくて、優しくてありがたいです」
変化の過程にある新小金井に要注目だ。
取材・文=重竹伸之 撮影=佐藤侑治、加藤熊三(溝活版分室)
『散歩の達人』2025年2月号より