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「キングスとファイナルで戦えたら」最高峰の舞台に戻ってきた伊佐勉HC…“B1の変化”への適応と新天地・京都でのやりがい

OKITIVE

沖縄出身選手同士でマッチアップした岸本隆一(左)と渡辺竜之佑=11月15日(長嶺真輝撮影)
試合後、キングスの岸本隆一(右)と握手をする京都の伊佐勉HC=11月16日、沖縄サントリーアリーナ(長嶺真輝撮影)

プロバスケットボールBリーグでただ一人の沖縄県出身ヘッドコーチ(HC)である伊佐勉氏が、再び最高峰の舞台へ戻ってきた。 2025-26シーズンの今季、B1西地区の京都ハンナリーズのHCに就任。昨季までの2シーズンは福井ブローウィンズで指揮を執り、B3、B2で戦っていたため、B1復帰は3季ぶりとなる。 現在56歳。沖縄のファンに「むーさん」の愛称で親しまれる。B1の日本人HCの中で最年長となり、プロチームのコーチは19年目と屈指のキャリアを誇る。琉球ゴールデンキングスでbjリーグ優勝、サンロッカーズ渋谷(SR渋谷)では天皇杯優勝を達成しており、実績は十分だ。 ただ、京都は現時点で5勝13敗と黒星が先行し、西地区で13チーム中12位に沈む。開幕直後に得点源のアンジェロ・カロイアロが負傷離脱し、新チームの構築に時間を要している。11月15、16の両日に沖縄サントリーアリーナで行われたキングス戦では76-91、71-85でいずれも敗れ、3連敗でバイウィーク(リーグの中断期間)に入った。 とはいえ、悲観的な要素ばかりでもない。伊佐HCも「強豪のキングスに通用する部分もしっかり見付けられました」と手応えを口にしていた。ふるさとの地で発した言葉から、新天地で新たなチャレンジに挑む「むーさん」の今に迫る。

「ディフェンスで成功体験」もオフェンスに課題感

「ディフェンスで成功体験」もオフェンスに課題感

「前半は強度が全然上がらなくて、岸本君を中心にキングスに遊ばれていたと思います」 15日の初戦後、伊佐HCは冒頭の試合総括でそう語った。 岸本には同じく沖縄出身の渡辺竜之佑が主にマッチアップしたが、2試合で平均19.0点を献上。その他の選手にもバランス良くスコアを重ねられ、いずれの試合も第2クオーターから徐々に引き離されて敗れた。 一方で、高い位置から激しいプレッシャーを仕掛けてスティールを奪ったり、アップテンポな展開からイージースコアを決めたりする場面も随所に見られた。これらは、伊佐HCが各チームを渡り歩く中で磨き上げてきた得意のスタイルだ。 11月は連勝を含む3勝を挙げ、表現したいバスケットボールがチームに浸透しつつある。伊佐HCも確かな感触を語る。 「スティールやトラップはここ数試合で成功体験ができてきているので、感覚は掴んできてると思います。ディフェンスは毎試合成長が見られます。1対1のバトルの強度でスペースを空け過ぎてしまう時があるので、隆一のような選手にはボディアップをしながら守りたいです」 その反面、開幕時からのオフェンスの課題は続く。1試合平均15.6回とリーグで3番目に多いターンオーバーの数である。相手のプレッシャー強度が上がった時に人とボールの流動性が落ち、ミスが頻発するため、最も改善が必要な部分だ。 京都は昨シーズン、33勝27敗で西地区3位となり、2シーズン前の同地区最下位からジャンプアップしたチーム。伊佐HCも序盤戦の5勝という成績は「もちろん思い描いたものではない」と苦しい胸の内を明かす。一方、「でも、これが今の実力かなと思ってます。ディフェンスは毎試合良くなっているので、強度も含めてコンスタントに出せるようにしていきたいです」と冷静に今後を見据える。 オフェンスについても「(1試合で)70点くらいしか取れていないので、このバイウィークでプレーセットも含めて見直しをしながら、もうちょっとシンプルに点が取れるようにやっていきたいなと思います」と改善を見通した。

増加する「速い展開」でどう戦うか…

徐々にディフェンス強度が高くなってきている京都のメンバー=11月15日(長嶺真輝撮影)

初戦後の会見では、その他にも興味深い話があった。 3季ぶりにB1で指揮を執り、コーチとしてアジャストしている部分はあるか——と質問した際の答えである。 「B1に、ということはそこまでないですが、レベルは相当上がっている印象です。あと、どのチームもテンポが速くなっていて、ゲーム展開が速くなっています。プレー時間のタイムシェアはしていますし、したいですが、流れが一気に変わらないように、選手の疲労を見ながらちょっと(プレータイムを)引っ張っている部分は僕の中であるかなと思います」 実際、今季は「速い展開」を標榜するチームが多い。伊佐氏が率いるチームは以前からアップテンポな戦い方だが、現在ではそれがリーグの主流になってきた感もある。 選手に対して常に高強度のディフェンスを求める伊佐HCは、頻繁に選手を交代させながら全体の強度を保つスタイルだ。ただ、前述のコメントの通り、今はより戦況とのバランスを重視し、以前に比べるとその頻度は減った印象を受ける。 「そこがうまくいったり、いなかったりっていう感じです」とも言い、模索の段階にあるようだ。キングス戦ではゾーンディフェンスも織り交ぜながら守っていたが、それも工夫の一環だろう。 京都には古川孝敏や川嶋勇人など主力にベテランも多い。疲労をコントロールしながら、いかに高い強度を保つか。40分間を戦い抜き、勝利を積み重ねていくためにも、選手起用の精度をさらに磨いていきたい。

「勝利を届けたい」“歴史文化都市”京都にチームを根付かせる

記者会見で質問に答える伊佐勉HC=11月16日(長嶺真輝撮影)

伊佐HCは2007年、bjリーグに参入したキングスの創設初年度にアシスタントコーチに就任し、プロのコーチキャリアをスタートさせた。その後、沖縄にキングスを根付かせる一翼を担い、SR渋谷を経て、福井ブローウィンズでもクラブ創設時からチームを率いた。 沖縄と福井については、かつて「プロスポーツ不毛の地」と称された県だ。各チームに在籍していた頃に感じたファンの熱量の変化は、今も肌身に染み付いている。 「キングスも初年度は断トツに弱くて、お客さんが500人くらいしかいない試合もありました。けど、そこからクラブが大きくなるに比例してファンが増えていきました。福井も最初の頃はファンの方たちが応援の仕方が分からないくらいでしたけど、私がいた2年間で熱いファンが増え、最後のプレーオフはチームを強く後押ししてくれる盛り上がりがありました」 京都はプロスポーツ不毛の地ではないが、歴史文化都市とのイメージが強く、他地域に比べてチームを地域に根付かせる難しさがあるとされる。 それでも、ハンナリーズは2024-25シーズン平均入場者数が4,187人を記録し、来シーズンから始まる最高峰リーグ「Bプレミア」の参入基準をクリア。この数字は3シーズン前に比べて3倍近い。 これまで経験してきた土地の盛り上がりと似たような温度感を感じているのだろうか。伊佐HCは充実感を漂わせながらこう語った。 「沖縄にもハンナリーズカラーのユニフォームを着た方が相当いらっしゃっていて、どこに行ってもファンの方がいます。ホームゲームも試合前から選手の名前を呼んでくれて、すごく盛り上げてくれます。あとはやっぱり、勝利を届けることが一番の近道。そこに対して、僕らはいい仕事をできるようにやっていきたいなと思います」 ひたむきに戦い、絶対的な説得力を持つ「勝利」を多くの人に届ける。そして、チーム、バスケットボールを地域により根付かせていく。そのやりがいは、プロスポーツに関わる上で何事にも変えがたいやりがいがあるのだろう。

沖縄出身の“後輩たち”から刺激も…

沖縄出身選手同士でマッチアップした岸本隆一(左)と渡辺竜之佑=11月15日(長嶺真輝撮影)

Bリーグ開幕初年度を終えた後の2017年にキングスを退団して沖縄を離れ、約8年が経つ。決して短い期間ではない。それでも、今も地元のチームであるキングスについては「変な言い方ですけど、気になってますし、応援もしてます」と率直に語る。 盟友であるキングスの桶谷大HCとは普段から食事に行く深い仲であり、今回の連戦も「桶さんとの対戦をすごく楽しみにしていました」と言う。 同じくキングス時代に共闘した岸本は、35歳となった今もチームを先頭で引っ張る。岸本についての評価を聞かれると、どこか嬉しそうな笑みを浮かべながら賛辞を送った。 「彼にも、周りの人にも言ってますけど、年々うまくなっています。リーグを代表するいい選手になったと思います。もともとスキルはあったけど、歳を重ねるごとにメンタルが整ってきて、ブレない。本当に35歳ですかね。何かいい薬でも飲んでるのかなと思うぐらい動き回りますけど(笑)。素晴らしいパフォーマンスだと思います」 岸本や渡辺に加え、並里成(ファイティングイーグルス名古屋)や津山尚大(川崎ブレイブサンダース)など、自身と共に戦ったことのある沖縄出身選手がB1で活躍している。「彼らの活躍はすごく励みになっていますので、負けないように頑張りたいと思います」と力に変える。 2日間に渡って登壇した試合後会見の最後を締めくくったコメントも、印象的、かつ、力強かった。 「私は今京都にいるので、京都を盛り上げて、またこのキングスのアリーナで試合できるようにしたいです。一番は、ファイナルで戦えたら一番いい。京都と沖縄の両方が盛り上がればいいなと思います」 新天地での覚悟と、沖縄への変わらない愛情。その両方を胸に、挑戦を続ける「むーさん」。これからも、沖縄から熱いエールを送りたい。

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