「優勝!」と監督が即答した歌詞とは? 芦名みのる×ヒゲドライバーが語る『いせかる3』音楽の核心【インタビュー】
TVアニメ第1期、第2期、そして劇場版と続いてきた『異世界かるてっと』シリーズの第3期『異世界かるてっと3』が好評放送中! 今期から新たにクラスに加わったのは、『陰の実力者になりたくて!』のシド/シャドウと七陰の面々。
この度、『異世界かるてっと3』の監督・シリーズ構成・脚本の芦名みのるさんと、EDテーマ「君色、僕色」の楽曲制作を担当しているヒゲドライバーさんとの対談が実現。以前からヒゲドライバーさんのファンだったという芦名監督がCDを持参して、それについて熱く語るところから、対談はスタートした。
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映画の作業をしながら、ずっと聴いていた「メロディックロードムービー」
──監督がヒゲドライバーさんに楽曲の依頼をしたのが、2022年に公開された劇場版『異世界かるてっと~あなざーわーるど~』の主題歌でしたが、それ以前に面識はあったのでしょうか?
芦名みのるさん(以下、芦名):実は僕が一方的にヒゲドライバーさんを存じ上げていたんです。というのも、ヒゲドライバーさんはインディーズのころからのファンでして……(と、2009年リリースされたCD『ヒゲドライバー2UP』を取り出す)。
ヒゲドライバーさん(以下、ヒゲドライバー):とっくに廃盤になっている、だいぶレアなCDですよね!(笑)。
芦名:僕は、2007年にスタジオを作ったのですが、当時、お金も仕事もない中でネットを見ていて、ヒゲドライバーさんの曲を聴いて「すごく良い!」と思って買ったCDなんです。
──ヒゲドライバーさんといえば『リゼロ』でも楽曲を作られていますよね?
ヒゲドライバー:レム「Wishing」と、エミリアの「Stay Alive」ですね。
芦名:そうそう。で、エンディングクレジットにヒゲドライバーさんの名前を見つけて、「今、そういう仕事をしてたの!?」となったんですよ(笑)。それで『リゼロ』第1期の打ち上げのときにご挨拶させていただいて。ヒゲドライバーさんからしたら「誰だよ」ってびっくりされたかと思います。それが最初のリアルな出会いですね。
──インディーズ時代の作品から好きだったのですね。
芦名:そうなんです。当時、「ukigumo」という曲がネットで大人気だったんですけど、それ以上に僕は「SAMURAI BEAT」がすごく好きで!
ヒゲドライバー:ニコニコ動画時代、なんならフラッシュ時代ですね。
※macromedia社のアニメーションツール「Flash(現Adobe Animate)」を用いて作られた動画の当時の総称
芦名:僕はフラッシュ出身の人間ですからね。当時、「SAMURAI BEAT」を聴いて、どうにかしてこれを映像化できないかなと思ったりしていました。当時曲に対してPVを作るみたいな文化があったんですけど、僕はこの「SAMURAI BEAT」に、歌詞を付けるべきだと思っていたんです。完全にファン心理ですね(笑)。
ヒゲドライバー:当時、僕の音楽を聴いていた人みんなに言われたんですよ。「勝手に詞を付けました」って。
芦名:歌詞を付けたほうがいい音楽を作っているなとずっと思っていたから、『リゼロ』で知った時は、「付けてるじゃん!」と思ってしまって(笑)。
ヒゲドライバー:もともと歌モノが好きでやっていたので、ピコピコ音楽を作っていたけど、実際は歌モノだったんでしょうね。
芦名:そうなんでしょうね。だから今、いろんな歌を作られている。
──芦名監督の映像制作にヒゲドライバーさんが影響を与えたと聞きましたが?
芦名:実は『異世界かるてっと』の第1期と第2期のEDアニメーションがドットキャラクターのアニメーションなのは、ヒゲドライバーさんの影響ですね。
ヒゲドライバー:そうなんですか!?
芦名:ヒゲドライバーさんのPVのイメージがとても強くて、過去に制作したアニメ『怪獣娘~ウルトラ怪獣擬人化計画~』などでもドットキャラクターを使ったりしていました。これ、考えてみるとヒゲドライバーさんの映像にめちゃめちゃ影響を受けていたんだなと(笑)。
ヒゲドライバー:まさかの(笑)。
芦名:本当は初めてお会いした時にその話をしたかったんですけど、初対面でそんな話をする人気持ち悪いじゃないですか。僕、見た目はいかついですから(笑)。そんな人が早口で喋ってきたら、ヒゲドライバーさんみたいな真面目な方は戸惑うだろうなと(笑)。
ヒゲドライバー:(笑)
──二人は結構、インディーズの時期から年齢からと共通するところが多いですよね。
芦名:そうですね、ちなみに2010年あたりまでのフラッシュやニコニコ動画界隈って、結構企業に安値で搾取されまくっていたんですよ。ヒゲドライバーさんもきっとそれは経験しているはずなんですけど……。
ヒゲドライバー:ネット界隈全体がそういう感じでしたね。混沌としていたので。ボカロPもいろいろ問題がありながら、今の形に落ち着いていく、という流れがあったと思います。
──ちょうど過渡期ではありましたよね。
芦名:僕はフラッシュを使っていたけど、30分のアニメを、音楽など全部含めて、これでやるの?っていうくらいの価格で作っていましたから。
──そんな時代をくぐり抜けてきたお二人なんですね。
芦名:そうなんです! だからその時代を越えて、今残っている人に出会えると嬉しくなっちゃって(笑)。
ヒゲドライバー:確かに、あの頃を生き延びてきたというのはありますよね。いなくなっちゃう人も多かったですから。
──同志なんですね。
芦名:遠くにはいながらも、ちゃんと同志だったと思います。だからお会いはしていなかったけど、今、同窓会のような気分ですね。
──では、いつかはヒゲドライバーさんに曲を書いてもらおうと思っていたのですね。
芦名:めっちゃ思っていました。だから劇場版『異世界かるてっと~あなざーわーるど~』のときに、作曲家さんの候補としてヒゲドライバーさんを挙げたんです。
劇場版『異世界かるてっと~あなざーわーるど~』の主題歌に関しては、まず男女混成ボーカルがいいと思ったんですよ。TVアニメ『異世界かるてっと』の企画がが始まった時、頭の中に鈴木このみさんの声が響いていたので、何かのときに鈴木このみさんに歌ってもらえたらと思ってました。そこで、「鈴木このみと誰かのデュエットはどうですか?」と提案してみたんです。そこで伊東歌詞太郎さんを紹介していただいて、2人で歌うことが決まったんです。
そこから曲を誰にお願いしましょうかとなった時、疾走感があるけど、エモい感じが良いなと思って「ヒゲドライバーさんはどうですか?」と聞いたところ、「頼めますよ」と当時の音楽プロデューサーが言うので、お願いすることになりました。
──オファーがあった時は、どう思いましたか?
ヒゲドライバー:もちろん、すごくありがたかったんですけど、監督にそこまでの想いがあってお願いしてくれたというのは、今初めて知りました(笑)。
──ヒゲドライバーさんは、そんな監督の熱い想いを知らずに「メロディックロードムービー」を完成させていたのですね。
ヒゲドライバー:とはいえ鈴木このみさんとは、これまでもやらせていただいていますし、その上、歌詞太郎さんだったので、すごく楽しみではありました。歌が上手い人に曲を書くのってすごく嬉しいんですよ。歌手でやっています!という方の表現力や歌に対する想いってすごいので。
芦名:僕は、鈴木このみはトップ・オブ・トップのアニソンシンガーだと思っていて、正しいアニソンシンガーなんですよね。そして2人とも芯がある、背中に力が入って歌える方なので、これは絶対に良い!と思ってお願いしたんです。
──歌も、当然難易度が高くなるわけですね。
ヒゲドライバー:難易度は高いですね。
芦名:作品タイアップの曲の歌詞って僕は、細かくすり合わせてほしい派ではあるんですよ。でも「メロディックロードムービー」は、ほとんど直さなかった気がするんです。
ヒゲドライバー:確かに、あまり言われずに、そのまま使ってもらった感じでした。
芦名:僕はここの歌詞が分かりづらいなぁとか、気にするタイプなんですけど、それもなかったですね。それは今回の「君色、僕色」もそうでした。歌詞を見た瞬間、「優勝!」って(笑)。「メロディックロードムービー」なんて、映画の作業をしながら、ず――っと聴いていましたから(笑)。
──曲を発注する時に、こういう曲にしてくださいという指示は出しているのですか?
芦名:出しています。どこまで伝わっているかわからないですけど、好きなバンドのリファレンスも送ったと思うんですけど、イメージ通りの曲でした。別に、そのリファレンスをなぞっているわけでもないし、ピコピコではないけど、ヒゲドライバー感があったので、めちゃめちゃエモかったです!
ヒゲドライバー:ありがとうございます。
──「メロディックロードムービー」は、ピアノが印象的なロックでしたけど、ヒゲドライバーさんは、どうやって作っていったのかを覚えていますか?
ヒゲドライバー:あまり2人のボーカルが、コラボして合わせていくという形にはしなかった気がします。『異世界かるてっと』の世界って、集まりたくて集まっている人たちではなく、偶然その場に居合わせて、そこで頑張っていたら、一緒に協力をして盛り上がっていたという感じなので、曲もそういう感じにしてほしいということは言われていたと思うんです。
芦名:映画のテーマが、違う世界に行って出会ってしまったけれど、最後は必ず別れるというものだったので。別れをいくつかのパターンの組み合わせで入れていたんですけど、曲をお願いした時は、まだ映画は完成していなかったんです。それなのに、すごく映画のテーマを捉えていたんですよね。
ヒゲドライバー:ただ、絵コンテはいただいていたと思います。
芦名:『異世界かるてっと』って、出さなければいけないキャラクターが多いから難しいんですよ(笑)。その上、映画限定のキャラクターも登場するから、物語も削っていったのに、この曲はすごくマッチしていたんですよね。
あと、アニソンではないようにしてほしいというお願いもしていたんです。友達のような盟友のような……そこは聴く人によって解釈が違うかもしれないけど、そういう男女の別れを前向きに描くみたいな感じにしたかったので、普通のラブソングとしても成り立つような曲にしてほしかったんですけど、そういう意味でもすごく良かったんです。実はこの曲は劇場版の最後の場面で流れるんですが、あまりにイメージと合致しすぎて個人的にこの曲のフル・バージョンMVを作っちゃいました(笑)。
ヒゲドライバー:そうなんすか!?
芦名:あとで送りますね(笑)。もう好き過ぎて、映画のシーンを切り取って作っちゃったの。
ヒゲドライバー:それが世に出てないの、もったいなくないですか?
芦名:出したいねとは話していたので、もし出るのだったら、どこかにアドレスを貼っておきます(笑)。
──本当に芦名監督は「メロディックロードムービー」が大好きなんですね
芦名:めちゃくちゃ好きですよ。ちなみにカラオケに行った時、『リゼロ』の(ナツキ・スバル役の)小林裕介さんとデュエットしたこともあるくらいです。ちなみに僕が鈴木このみパートです(笑)。
ヒゲドライバー:すごっ(笑)。
──それにしても監督自身が非公式MVを作られるなんて、すごくいいですね。
芦名:監督だし、自分で100回200回は観ているのに、MVを観て、うるっときちゃいましたから(笑)。
ヒゲドライバー:僕は、映画の最後に流れた時も感動しましたけどね。
芦名:本当ですか? すごく嬉しい!
ヒゲドライバー:入り方も、使われ方がすごく良くて、嬉しかったです。
芦名:ちっこいキャラクターなのに泣かせやがって!って思うでしょ(笑)。
── 一度映画を観たことがある人が、そのMVを観たら、行間も補完できるし、もう一度映画を観た気になるでしょうね。
芦名:確かに、そう! 観た方は確実に、映画をいっぱい思い出せると思います。
ヒゲドライバー:楽しみです。
〈「自分って何なんだろう?」〉という歌詞が「君色、僕色」のテーマ
──劇場版の主題歌に続き、『異世界かるてっと3』のEDテーマをお願いすることになった経緯を教えてください。
芦名:『異世界かるてっと』のEDテーマって、もともとはヒロインたちが歌う流れがあったんですけど、第1期と第2期で一部作品の女性キャラクターを出し切ってしまったたという事情があったので、僕としては、劇場版の3人にまた頼もうと、こっそり考えていたんです。
ヒゲドライバー:それは、ありがたい。
芦名:なので『いせかる』 ✕ ヒゲドライバーの続編として、ご相談しました。
──続編という感じなのですね。ヒゲドライバーさんには、どんな発注があったのですか?
ヒゲドライバー:今回は、個々にフィーチャーしているというか。「私は私、あなたはあなた」じゃないけど、個を大事にした歌にしてくださいという依頼でした。「メロディックロードムービー」はサビで一緒になって盛り上がっていくんですけど、今回は個々で、自分の中で問いかけていくように歌う感じがあったんです。
芦名:僕的には、この2曲は繋がっているイメージですね。「メロディックロードムービー」は、別れが来ると知っているけど、一緒に……という歌で、今回はそこから、それぞれが別の道を、依存せずに進んでいこうという曲になるので、曲として対になればいいなというイメージでした。
──だから、「君色、僕色」のサビはユニゾンというよりは、個々で盛り上がっていく作りになっているんですね。
ヒゲドライバー:バラバラで歌っていきながら、最後の最後は一緒になるという構成になっています。
芦名:『異世界かるてっと3』の第1話で、映画を踏まえてのこの世界の根幹の話が出てくるんです。要するに、『いせかる』のキャラクターってコピー品なんですよね。ボタンを押して転送されるのではなく、転写されているんです。
ヒゲドライバー:それって、今まで出ていなかったですよね?
芦名:第3期の第1話でそれをやります(※インタビューは、アニメ放送前に実施)。映画は転移なんです。映画の中で読んでいた博士の日記によって、結論的に、これはコピーなんだとわかる。アインズたちは、その世界からコピーされて来ているから、オリジナルは向こうで勝手に生きているわけです。ただ、オリジナルの影響をコピーは受けているから、元作品のクールが進むたびに、キャラの関係値が変わってくるんです。
ヒゲドライバー:へぇ〜〜。なるほど!
芦名:アニメ『オーバーロード』シリーズのアインズは、どんどん人の心をなくしていっているけど、『異世界かるてっと3』のアインズは、人の心を大事にして生きようと思うようになっている。それはなぜかというと、オリジナルの、おそらく人の心を失っていっている自分に、こっちからアプローチができるのかもしれないと思っているからなんですね。ちなみに『リゼロ』だと、『いせかる』でちょっとやっていたことが、『リゼロ』の第2期、第3期、第4期に出てくるみたいな伏線が仕込まれていたりもします。
ヒゲドライバー:お互いが影響されているのかもしれないという見方をすると、面白いですね。
──「君色、僕色」の話に戻しますが、ジャケットのビジュアルが制服を着たお二人のドット絵になっていて、素敵ですよね
芦名:色んな経験や出会いとか別れが自分を作っていくという意味で「君色、僕色」は、中高生の青春の曲としても伝わるようにできているんです。そういう意味で、ジャケットもすごくいいなと思っています。
ヒゲドライバー:作っている時に言われていたことですが、若者が今思い悩んでいるような「何者にもなれない感じ」「自分って何なんだろう?」というところをちゃんと捉えながら、それでも頑張っていこうという内容にしているんです。なので、若者に寄り添う楽曲になっていると思います。
──アニメのEDテーマでありながら、色んな人に聴いてもらいたい曲になっていますよね。
芦名:今の曲って歌詞が多いじゃないですか。でもヒゲドライバーさんって言葉が少ないのにちゃんと染みるから、わかりやすいんですよ。
──でも、詰め込む曲も多いですよね?
ヒゲドライバー:詰め込む時は、容赦なく詰め込みますね(笑)。
芦名:「メロディックロードムービー」もそうだけど、今回も歌詞は少ないから、だからこそ実力ある2人が歌ってくれて良かったなと思います。骨太な、しっかりとした音楽という意味で、この2曲はすごく好きな曲なので、たくさんの方に聴いてもらいたいです。
──シンプルに、メロディが良いですからね。
ヒゲドライバー:ありがとうございます。
芦名:でもすごくキーが高いんですよ。確か、高いキーで作ってほしいというお願いはしたと思うんですけど、届いてました?
ヒゲドライバー:いや、それは聞いていないですけど、もともとお二人とも高いから、自然と高くなっちゃうんです。
芦名:だからカラオケで歌ってくれる人が少なくなっちゃうかもしれないと思うんだけど、キーを下げて歌ってほしい(笑)。
──バンドサウンドが印象的でしたが、サウンド的には、イントロから前向きで明るいイメージでした。
ヒゲドライバー:歌詞では、ずーっと悩んでいるんですけどね。〈「自分って何なんだろう?」〉という2行目の歌詞がこの曲のテーマになっていて、思い悩みながら、自分は自分でいいよねという曲なので。そういう内向的な歌詞ですけど、おっしゃる通り、曲自体は暗くさせないというか、それを爽やかに前向きに歌っている感じにしました。
芦名:EDテーマでよくある、ゆったり終わっていく感じの方向性にはしないで、ということもお願いしていたんです。ダブルA面みたいな感じにしてほしいと。ただフルで聴くと、2番のAメロがちょっとラインが違うので、これをすると歌えない人が出てくるよなぁって思いながら聴いていました(笑)。あと1番の最後に〈僕だけの色になるのかな〉と歌っているところから、最後に〈少しずつ 君色に変わるよ〉と歌っているのも、ちゃんと物語になっているんですよね。ヒゲドライバーさんの歌詞って、ちゃんとストーリーがあるるんですよ。だから映像が浮かびやすい、映像にしたくなる音楽なんです。
──EDのアニメーションは、どんなことを考えながら作っていったのでしょうか。
芦名:エンディングは、いろんな学校の中で撮った写真をいっぱい出す感じにしました。転写のキャラクター達、たとえ彼ら存在が本物でなかったとしても、ここであった思い出は本物なんだよっていう。この曲を聴いて、そんな演出にしました。
──それは、すごくグッと来ますね。それと、レコーディングでの思い出はありますか?
ヒゲドライバー:歌が上手いのはもちろんなのですが、鈴木このみさんは、わりと挑戦をしていましたね。今までにない鈴木このみを出したい!というところで、Aメロの歌いまわしは、普段はない、ちょっとしたアンニュイさを出してもらいました。
芦名:感情を重く乗せながら、はっきり歌うって難しいですからね。
ヒゲドライバー:歌詞的なところもあるんですけど、鈴木このみさんは歌詞の内容的にも憂いを帯びていた歌い方にして欲しかったんです。もちろん歌詞太郎さんにも同じようにやってもらいました。この曲、入りが歌詞太郎さんからなんですけど、その入りのニュアンスがすごく良かったんですよね。アンニュイさがありながら、しっかりと芯の強さもあって、素晴らしかったです!
──交互に歌うけど、1番と2番で順番が入れ替わっている感じでしたね。
芦名:「メロディックロードムービー」の時もそうだったけど、覚えるためには、結局全部歌えるようならないといけないんですよ。
ヒゲドライバー:でも、なんか入れ替えたくなっちゃうんですよね(笑)。
芦名:わかる!(笑)。入れ替えたいよね。
ヒゲドライバー:「この人の声で、このメロディを聴きたい」という感情ってないかな?と思っちゃって。自分だけですかね?
──いや、わかります!
芦名:それも、2人とも歌える幅があるからできることなんだよね。それがないと、高いところは、この人だけってことになるから。
──しかも前回は“鈴木このみ feat. 伊東歌詞太郎”でしたけど、今回は2人の名前が並んでいますしね。
ヒゲドライバー:確か前回は、鈴木このみさんのアルバムに入れるというのが最初にあったからなんですよね。
芦名:鈴木さんは、「ライブで早く歌いたい」と言っていたから、来年の1月のライブ『鈴木このみ Live 2026 ~Anison Collection~』が楽しみですね。ライブで歌詞太郎と歌っている感じが想像できるので。
──今回話を伺っていて、アニメーションの監督とアーティストが共鳴しながら作る曲って良いなと思いました。
芦名:自分が音楽をやっていたからというのもあるけど、音楽をやっている方が大好きで、尊敬しているんです。
ヒゲドライバー:それはすごくありがたいですけど、実際、映像をやられている方が、僕ら音楽をやっている人を「尊敬している」と言ってくださることが多いんですよ。
芦名:自分で作る大変さがわかるじゃないですか。同じような苦労がある別ジャンルの人って、すごいと思うんですよね。
ヒゲドライバー:そういう意味で、僕は映像をやっている方こそすごいと思っているし、自分では絶対にできないなと思うんです。それこそ、このシリーズに関しては、脚本もやられているじゃないですか。
芦名:僕はもともと文字を書く側の人間なので。
ヒゲドライバー:それぞれに大きなストーリーがある物語を、それぞれからピックアップしてまとめているのが、すごいです。
芦名:原作者が作品ごとにいるし、原作ファンとアニメのファンが別かもしれないし、アニメの制作もいるし、色んな事情がある。ファンの方は「これをもっとこうしろ!」と言うんですけど、それをしたらこの作品ではない、とかもあるので、確かに難しいです(笑)。
でも、僕は自分をクリエイティブな人間だとは思っていなくて、アレンジャーだと思っているんです。だから、「SAMURAI BEAT」を聴いた時に、この曲ありきで、何かをやれるなって思ったし、そういうことを考えるのが得意なんです。何かの映像を見た時も、これはこうしたほうがいいんじゃないの?とか。そういうのはすぐできるけど、ゼロから作れるかと言われたら、自分は作れない人間だと思っています。だから自分は絵が上手い仲間たちとアニメを作っているんです。
ヒゲドライバー:なるほど。それでも僕はすごいと思います。
芦名:毎回吐きそうになりながらやっています(笑)。
──音楽は、ゼロからイチにするから、すごいと感じているんですか?
芦名:それもあるし、単純に自分が歌うのがめちゃくちゃ好きだったので、憧れもあるかもしれないですね。昔は、アーティストで活躍するには顔が良くなくちゃダメみたいなところがあったじゃないですか。歌が上手い芸人がCDを出したりすることもあったから、別ジャンルで有名になったら「歌っていいよ」と言われるかもしれない。だからこの仕事をしているのかもしれないですね。実際、別作品で歌ったりもしましたし(笑)。
──たくさんの面白いお話をありがとうございます。では最後に、ファンへメッセージをお願いします。
ヒゲドライバー:「君色、僕色」で歌われているのは、色んな人に共通する悩みだと思うので、聴いて思いを馳せてもらえたら嬉しいです。
芦名:アニメ関係なく聴いてほしい楽曲ですけど、『異世界かるてっと3』を観た上で聴くと、好きな作品や好きなキャラクターたちが学園の中で織りなすワンシーンが自然と浮かんでくると思うんです。EDのイラストに、それは入っていないかもしれないですが、浮かんだシーンを思い浮かべながら聴いていただけると、ますますこの曲の良さが引き立つのかなと思います。そしてカラオケで歌っていただければ、1円くらいみんなに入ると思うので(笑)、いっぱい歌ってほしいです。そこで「良い曲じゃん」って友達に言われたら、「『異世界かるてっと3』のEDテーマで、ヒゲドライバーさんが作った、鈴木このみと伊東歌詞太郎の歌だよ」とワンブレスで教えてあげてください(笑)。
[文・塚越淳一]