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若年層で「道迷い」減少も、転倒60代から40〜50代に広がる|国立登山研修所が遭難データ分析

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YAMAP Magazine | 若年層で「道迷い」減少も、転倒60代から40〜50代に広がる|国立登山研修所が遭難データ分析

2010年代から徐々に浸透してきた登山地図アプリ

独立行政法人日本スポーツ振興センター・国立登山研修所(富山県)の「専門調査委員会調査研究部会」は2025年9月、警察庁や長野県警察の山岳遭難データを比較・統計的に分析した結果を報道発表しました。

分析したのは、2021~23年の山岳遭難データ(警察庁提供の全国集計、長野県警察提供の北アルプスを中心とした県内の県内集計)と2012~13年の全国データ(村越真・静岡大教授、2016)です。

分析結果では、山岳遭難の中で「道迷い」遭難がこの10年間で他の遭難態様に比べて減少傾向がみられるという特色がありました。

これを踏まえ、国立登山研修所はスマートフォンで使える登山地図アプリなどデジタルツールの普及が「『道迷い』減少の要因のひとつとなっていることが推測」されると指摘しています。

国内でのスマートフォン使用は、2008年のiPhone発売、2009年のAndroidスマホ発売に始まりますが、当時はまだ3G(第3世代移動通信システム)時代で、スマホではウェブサイトを閲覧できる程度でした。

2010年代に入ると高速・大容量データ通信の4G(第4世代移動通信システム)対応のAndroidやiPhoneのスマホが発売・普及、GPS機能も付加して、スマホの画面上で現在地を確認できる登山地図アプリが次々と稼働、普及。

現在はYAMAP(2013年サービス開始)に代表される登山地図アプリを使う登山者が年々増え、今日に至っています。

山岳遭難事故の総数は高止まり、「道迷い」も高割合

統計分析の前提として、社会生活基本調査(総務省)による2011年と2021年の10年間の変化として、日本の総人口の減少割合を加味しても、登山者数はそれ以上に減少しています。

一方、コロナ禍(2020年初〜2021年9月)での「3密」を避けるためのアウトドアブームが影響し、1人当たりの登山回数はほぼ全年代で増加。

その結果、統計上の総登山回数はこの10年間ほとんど変わっておらず、山岳遭難事故の総数は高止まりになっています。

警察の山岳遭難集計は現在、道迷い、転倒、滑落、病気、疲労、転落、悪天候の7つの主要態様(2012~13年当時は悪天候を除く6つ)に区分されます。

山岳遭難は、登山のほか山菜・茸取り、観光、渓流釣りなども含めた総計です。登山に限定すると、2021~23年の全国の遭難のうち「道迷い」は36.1%と全体に占める割合は依然として高く、この3年間の「道迷い」の遭難数を年代別に見てみると年代が上がるとともに、漸増傾向がうかがえます。

10〜30代の男性に「道迷い」が少ない傾向

2012‐13年(当時の主要6態様)と2021~23年(現在の主要7態様)を比較すると、年代別の遭難数ではどの年代でも「道迷い」の遭難数は最多か最多近くになっています。

一方、遭難数全体における比率でみると、「10代~30代の『道迷い』の割合が減少」していることが、この調査分析で見えてきた新たな傾向といえます。

長野県の遭難データからは、男女別では男性の方が「道迷い」が少ない傾向が出ています。

「警察庁提供データ2021‐2023」から転載(「道迷い」遭難数は年代が上がるとともに増える)

【上記データから読み取れる特徴等】
・「道迷い」は年代が上がるとともに、漸増傾向となっています。
・「転倒」「滑落」「転落」は、40代以上から急激に増加しています。

次に、「転倒・転滑落」を「転倒」「滑落」「転落」に分けた上で、2012〜2013のデータと比較して分析を行いました(2021-2023のみ「悪天候」も記載・表示しています)。

「警察庁提供データ2021‐2023」から転載(2021―23年の「道迷い」遭難数は全体比で10代~30代の割合が減少している)

さらに、直近の2021年から2023年3年間の遭難態様の変化を見ると、「道迷い」は2021年の41.2%(939人)から2022年の36.6%(952人)、さらに2023年の32.3%(836人)と、全体比も遭難数も減少しており、とりわけ若年層(特に20代)の減少傾向が顕著になっています。

2021年は20代の「道迷い」遭難数が多くなり全体比も高いのですが、「コロナ禍における、(「3密」を避けて)登山初心者による大都市近郊での登山者増が影響していると推測」されると分析しています。

遭難割合はエリアや季節によっても異なる

「警察庁提供データ2021‐2023」から転載(この3年間、「道迷い」の遭難数も構成割合も減少、特に若年層の減少が顕著だ)

2021年~2023年の遭難の主要7態様ごとの発生月・季節による分析も行ったところ、「道迷い」は、黄金週間時期と10~12月に突出する傾向があることもわかりました。

2012~13年は同じデータはありませんが、遭難数の季節比較で「『道迷い』は「春と秋~初冬(11~12月)型の遭難態様」との分析結果が出ました。

「警察庁提供データ2021‐2023」から転載(「道迷い」は春と秋~初冬(11‐12月)型の遭難態様が明確だ)

また、都道府県を、以下の4区分にした分析では、「道迷い」遭難の比率は、「登山県」は24.3%だったのに対し、「大都市近郊県」が38.1%、「近郊・地方中核府県」が55.4%などと高くなっています。

①「登山県」(北海道、栃木県、群馬県、埼玉県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県、富山県、岐阜県の10道県)
②「大都市近郊都県」(東京都、神奈川県、兵庫県の3都県)
③「近郊・地方中核府県」(愛知県、三重県、滋賀県、京都府、奈良県、広島県、福岡県、大分県の8府県)
④「その他」

「登山県」ではルート標識などが整備され、GPSなど装備を整えた熟練登山者が多いことが影響していることが推察されます。

「警察庁提供データ2021‐2023」から転載(「道迷い」は登山県では総体比が低くなっている)

【上記データから読み取れる特徴等】
①「道迷い」の比率は、「全国」で30%台後半ですが、「登山県」(遭難数・登山者数が多い道県)では30%を切っています。

②一方、「大都市近郊都県」「近郊・地方中核府県」「その他」では、「道迷い」比率が高くなっています。

③(推測ですが)大都市近郊都県(東京、神奈川、兵庫)は、大都市近郊でありながら、本格的登山に近い山域/ルートが登山対象となっている一方、近郊の登山初心者が気軽に登山に訪れている可能性があります。

上記のことから、山域別・登山県別など、特徴の似たグループごとに遭難の特徴や要因を把握し、画一的でない、そのエリアに特に効果的な個別の遭難防止対策を講じていくことが重要と考えられます。

登山地図アプリと紙地図との併用が今後のカギ

国立登山研修所では、過去10年間の比較ができる警察庁提供の全国データに加え、長野県警の県内データも合わせて分析し、長野県データは、全国データが「より鮮明に」なる傾向を確認し、補足的に検討を加えて分析しました。

この2つのデータを総合的に分析した結果、年齢別で10代~30代、性別で男性に有意な「道迷い」遭難減少の要因がありました。

“スマートフォンが全国民の9割以上に普及し、山岳遭難数の多い60代でも9割以上、70歳台でも8割以上の普及となっています。

スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスも含め多くの機種でGPSセンサが搭載され、悪天候時でもある程度正確に素早く現在地や方位、標高がアプリ上で表示されるようになったことが『道迷い』減少の要因のひとつになっていることが推測されます”

このように、スマホで使える登山地図アプリやGPSの普及、浸透が効果を指摘しています。

その上で、スマホのバッテリー切れなどに伴うリスクも懸念されることから、登山地図アプリなどのデジタルツールと「広い範囲や大まかな地形を全体的にしやすい」紙地図との併用が「今後のカギ」との指摘も付け加えました。

村越教授は「紙の一覧性は、事前の地図読みによる全体像の把握には重要です。山でのナビゲーションの完遂には、①プランニング②ルート維持③現在地の把握──という3つの課題の解決が必要です。

紙地図と地図アプリではその得意な部分が違います。両者の良さ、限界をナビゲーションという課題への理解と合わせることで、よりよい使い方が導かれると思います」と述べています。

転倒が40〜50代に広がり|無理のない登山計画と日々の健康管理・トレーニングも忘れずに

「道迷い」以外の遭難態様では、全国のデータで、この10年間で以下の①〜③のような傾向がみられます。

①「転倒」の増加が顕著
②「転倒」の多い年代幅が中年(40~50代)に広がりつつある
③「病気」「疲労」が高齢者(60歳以上)を中心に増加

また、北アルプスなど険しい山岳地が多い長野県のデータでは、男女とも「転倒・転滑落」が多く、特に女性の中高年の「転倒」が突出しており、国立登山研修所は「転倒・転滑落」「病気・疲労」の増加に警鐘を鳴らしています。

その背景事情として、年代別で登山回数が最も多い年代が70代となり、加齢による行動体力(筋力、バランス能力、敏捷性など)や認知機能の低下が「転倒・転滑落」「病気・疲労」の増加を引き起こしているようです。

その上で国立登山研修所は、「自身の体力・技術・精神の限界を越えないような身の丈に合った山を選ぶなど、無理のない登山計画の作成と実行が必要」「登山に効果的なトレーニングの計画的な実施や、日々の運動習慣・健康・体調管理・疾患の治療などによる『ライフパフォーマンス』の維持・向上が今後のカギ」と呼び掛けています。

村越真教授 総括コメント

スマホと地図アプリの普及が道迷い遭難を減らしたという仮説が正しいかどうかを確認するため、スマホ利用率や地図アプリの習熟度をなんらかの形で調査する必要性があります。

習熟度に応じた道迷い率の低下が見られるか、習熟度による使い方の観察で、習熟度の低さが、地図アプリがあっても道迷い防止につながらない理由などがわかります。研究者としては、より実証的な調査がさらに行われることを期待したいと思います。

画像提供:PIXTA

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