【高校授業料の無償化】自民、公明、日本維新の会の3党合意で、国の支援制度が拡充する方向になった。公立離れなどが想定される無償化を、どう考えるべきなのか!?
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「高校授業料の無償化」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2025年3月25日放送)
(山田)高校授業料の無償化と聞いた時、「とてもいい話じゃん」と思ったんですが。
(川内)もちろん利点もありますが、3党の合意の過程や中身を見ると、課題は多いと言わざるを得ません。
(山田)そうなんですか。
(川内)制度がどう変わるか見てみましょう。現行の就学支援金制度は公私を問わず、世帯年収910万円未満で、年間11万8800円が支給されます。これは全国一律の公立高の授業料相当額です。私立の場合、年収590万円未満なら加算され、年間39万6千円を上限に支給される仕組みになっています。
まず、2025年度に910万円の所得制限を撤廃します。これで公立は所得に関係なく完全無償となります。私立については26年度から、所得制限を撤廃し、支給上限を直近の全国平均授業料45万7千円に引き上げる予定です。必要な予算は25年度が約1千億円。私立の所得制限撤廃と支給上限の引き上げが始まる26年度からは、5千億円超と試算されています。
(山田)無償化に多くの税金が使われるわけですね。
3党合意のプロセスは
(川内)中身を考える前に、決まった経過を検証したいと思います。3党の協議は高校無償化を看板に掲げる維新が、予算成立への協力と引き換えに支援額の上積みなど、昨秋の衆院選で過半数割れした少数与党の自公に譲歩を迫る形で進みました。
維新は看板政策を強調し、少数与党は政権維持のために無理を受け入れた形です。教育の質を高めることにつながるのかという、本質論に欠けていました。政権維持や今夏に予定される参院選を意識した選挙対策のために、子どもたちの未来や国の根幹にかかわる教育政策が利用されたようにも見えます。
(山田)政党間の思惑で決まったということか。
(川内)与党にとって予算案を通せないのは致命的です。野党のどこかを仲間に引き入れて過半数を確保しようと、維新の掲げる高校無償化に着目したと言えます。
無償化の中身は課題が多い
(山田)合意した中身について、どんな課題があるのでしょうか。
(川内)教育への家計負担を減らす方向性は間違っていないと思います。日本は公的支出のうち、教育費の占める割合が経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準という実態もあります。つまり、家庭の出費に頼っているということです。
財政力を後ろ盾に、国より手厚い支援をする大阪府や東京都と、その他の地域との格差を埋める側面もあるでしょう。親の所得に関係なく、子どもたちの選択肢が広がるメリットもあります。それでもなお、教育をライフワークで取材している私の目から見て、所得制限の撤廃が本当の教育の機会均等につながるかという点で、課題は多いと感じています。
公立離れの可能性
(山田)具体的にはどんなことが起きそうなんですか。
(川内)いくつか指摘したいと思います。新たに支援対象となる高所得層が浮いた費用を塾などに回すようになれば、教育格差が拡大しかねません。幅広く習い事などに回したら、体験格差にもつながるでしょう。
(山田)受験競争が一層、激しくなるかもしれない。
(川内)公私一律の無償化によって、私立高が多い都市部では公立離れを招く可能性があります。私立の支給上限を63万円とした大阪府では、府立高の約半数が定員割れとなりました。統廃合の検討対象も増えそうです。48万円を上限に支給するようになった東京都でも、公立離れが進んでいます。
この点について、維新の幹部や専門家からは、少子化が進み、すべての高校の維持が難しくなる中で、「公私を問わず『選ばれる学校』への努力を促す正常な競争」という声もあります。
(山田)公立離れか。僕自身、高校入試では親から「頼むから授業料の安い公立に行ってくれ」と言われました。
(川内)無償化に伴い、公立について「私立より授業料が安い」というメリットが無くなるわけです。
(山田)今、リスナーからメッセージが届きました。「私立は授業料以外にもお金がかかります。無償化の恩恵はあっても、全体の出費を考えれば大変」とのこと。
(川内)無償化はあくまでも授業料のことであって、ほかにもたくさんのお金がかかるという視点は重要です。
(山田)そうですね。「施設整備費」などもある。
地方と都市部の違い
(川内)地方と都市部という点で話を進めます。文部科学省の24年度の全国調査によれば、公立高3438校に対し、私立高は1321校。約3対4の比率で私立が多い東京都などは例外的で、徳島県は全36校中、私立は3校に過ぎません。先ほど都市部の公立離れの懸念を話しましたが、恩恵も都市部に偏る恐れがあります。
(山田)地域差が大きいんですね。
(川内)公立の「地盤沈下」という点では、人口減少が進む地域では、そもそも高校の存続が難しくなっています、文科省の23年度調査では。公立高が0校か1校という地方自治体は全体の63.6%に上ります。0校は28.8%。15歳人口の減少を考えれば、高校の統廃合は加速し、「公立高ゼロ」の自治体はさらに増えるでしょう。私立の所得制限なしの無償化が、拍車を掛けることも想定されます。
高校がなくなることは、人口流出につながります。高校に通いやすい地域や選択肢が多い都市部に、家族全体で転居することも予想されます。私立の無償化で、工業や農業、商業など公立の専門高校から私立の普通科に流れることも考えられ、地域産業への影響も懸念されます。
(山田)子どもがいれば、教育環境は住む所を決める大きな要素になる。
(川内)ここで静岡県の高校の状況を見てみましょう。全日制と定時制を合わせ、公立は分校を含めて93校。私立は全て全日制で43校です。私立高の年間授業料の平均は直近の数字で約44万6千円で、全国平均よりやや低い水準。ちなみに東京は約48万6千円、大阪は約60万5千円です。
県内の自治体で公立高が1校か0校だったのは、23年度調査で51.4%と約半数でした。無償化の制度が拡充する25年度以降、受験志願者や最終的な選択がどう動くかなどに注目したいと思います。県内でも公立高の統廃合の議論が進んでいて、そこにも影響する可能性があります。
(山田)公立の統廃合については、僕も聞いたことがある。
私立の便乗値上げへの懸念
(川内)懸念材料の1つが、私立高の授業料の便乗値上げです。知人の私学関係者は多くの私立高が、物価や人件費の高騰などから授業料の値上げを望んでいて、今回の無償化はそのきっかけになるのではと話していました。
(山田)ここでメッセージが届いています。「私立の無償化はそもそもおかしい。公立は勉強の機会均等のために必要です。公立支援に集中するべき」とのことです。
(川内)税金の使い道の話であり、そういう声は当然あるでしょう。公立の存在意義にかかわる部分です。
(山田)それぞれの立場によって、考え方の違いもありそうだ。
財源は依然、不透明
(川内)さらに指摘したいのが、財源の確保策がいまだに不透明という点です。石破茂首相は「安定的かつ恒常的な財源を見いだすことは政府の責務だ」と明言しています。ならば、議論を尽くし見通しを明確に示すべきです。自民、公明、日本維新の会の3党は、課題を整理して夏に策定する経済財政運営の指針、いわゆる「骨太方針」に反映させること確認しました。与党のみならず、3党に責任があります。
共同通信が3月下旬に実施した全国電話世論調査では、高校無償化に関し、私立高も所得制限なしに支援する方針に反対は56.5%で、賛成の39.2%を上回りました。注目すべきは、維新支持層でも60.8%が反対だった点です。
(山田)維新の看板政策なのに、そういう状況なんだ。
(川内)教育現場は不登校やいじめの増加、教員の疲弊など課題が山積しています。2人に1人が何らかの奨学金を利用する大学進学への支援も優先度は高いと感じます。そのような状況の中で巨額の予算を投じて高校無償化に踏み切る責任の大きさを、3党はしっかり認識する必要があります。
(山田)大学の授業料も上がっていますね。
(川内)同時に、進学率が約99%で「ほぼ義務化」といわれる高校教育とは一体どういう意味を持つのかという点を、改めて考え直す契機にしなければなりません。
(山田)コーナーの冒頭で僕は単純に「いい政策」だと言ったんですが、掘り下げてみると課題も多いことが分かりました。今日の勉強はこれでおしまい!