江川萌恵さん 0.03ミリで描く世界観 年内最後の創作佳境
極細の水性ペンで、独自の世界観をモノクロで表現するアーティストが大和にいる。「萌木さく」の名で活動する江川萌恵さん(22・深見西在住)は、このほど行われた県主催の第1回「かながわともいきアート展〜生きること、表現すること〜」の公募展で最高位となる「大賞」を受賞するなど、注目を集めている。
「こんにちは」。今月13日、深見西の自宅で出迎えてくれた萌恵さんは、障害のある芸術家による国際コンクールに出す作品の制作に励んでいた。
純白のオーバーオール姿で水彩紙に向き合う瞳は、0・03ミリのペン先を見つめる。やり直しがきかない作業は多大な集中力を要するが、表情は穏やかだ。「作品の中身はまだお伝えできません」が「テーマはすぐに決められた。その後は勢いに任せて、一気に」
1日に3時間ほど制作を進めている。今月末に迫った応募の締め切りを前に、年内最後の創作活動もいよいよ佳境を迎えた。「思い描いた世界観をしっかり形にしたい」と意気込む。
母の京子さん(45)によると、萌恵さんは生まれつき脳幹に障害があり、人とのコミュニケーションが苦手。適応障害や自閉症がある。幼稚園児のころから手先が器用だった。小学校高学年になると京子さんは萌恵さんに画材を買い与えた。
2019年に「コピックアワード」の次世代アーティスト賞を受賞すると、その後も全国規模のコンペで入賞を重ねていった萌恵さん。今年11月に表彰式が行われた「かながわともいきアート展」では、傷ついた蝶に舞い降りる鳳凰を描いた「不滅の国」が大賞に。動物や自然、架空の生き物が共存する世界観は、高く評価された。
「ベストアーティスト」
「こんなにたくさんあります」。萌恵さんはインク切れのペンが大量に入った箱を見せてくれた。1枚の作品を描くのに1カ月〜半年。ペンは3〜10本以上消費する。
「ペン画家」として活動する萌恵さんは今年11月、横浜市で初の個展を開いた。9日間でおよそ400人が来場し、8枚の作品が売れた。「2度目の個展を開くことが来年の目標」と萌恵さんは笑顔で明かす。
そんな愛娘には「自立し、羽ばたいてほしい。それまでできる限りのサポートをしたい」と京子さん。小学校卒業時の寄せ書きに「ベストアーティスト」とつづった萌恵さんの夢は、始まったばかりだ。