【「MUNA-POCKET COFFEEHOUSE」の「紙」】 継ぎ目のない物語で何度も「脱皮」する役者たち。演劇の見方を問う作品
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は浜松市中央区のクリエート浜松で11月16日夜に行われた、同市内を中心に演劇公演などを行う「MUNA-POCKET COFFEEHOUSE」の第26回プロデュース公演「紙」。作品は17日にも同じ会場で3回上演する。同日からスタートした「はままつ演劇フェスティバル2024『激突』」(浜松市文化振興財団主催)の構成演目。
写真撮影OKの「プレ公演」と位置づけられた上演回。奥行きがある舞台の背後にスクリーンを据え、演じ手は全員白の衣装をまとう。開演直後は全体的に統合的なあるいは秘密結社的な雰囲気を醸しているが、物語が進むにつれてその印象がじわじわと崩されていく。その過程が非常にスリリングだ。
どこかの会社組織の一員だったはずの人々が、互いの関係性とは無関係に立場を変え、人格を変え、物語からもどんどん逸脱していく。商品とサービスのありようについて議論していた会社の仲間たちが、いつの間にか選挙戦で対立する2陣営に変化し、最終的に舞台は「チュウトウ」に移る。壁の中と外。分断される人々。
継ぎ目のない物語の中で、役者たちが何度も「脱皮」をしているかのようだ。それが不自然に感じない。台本の力と演じ手の力、双方が高次元で結びついている。その一方で、「言葉遊び」「だじゃれ」に近い言い換え、言い間違い、聞き違いによる小さな混沌があちこちにちりばめられている。中には相当くだらないものも。およそ10分に1回、笑わされた。
見えているもの、見えないもの、どちらを信頼する? 対立する2軸を巡る問いかけが何度もある。まるで演劇の見方そのものを問われているようだ。「劇作家」を名乗る人物が、「目に見えないバナナの皮」を設定するメタ的な場面が印象的。会話していた役者は、お約束どおりすっころぶ。演劇にしかできない表現を、実に分かりやすく提示していた。(は)
<DATA>
■はままつ演劇フェスティバル2024「激突」 ※今後の演目
◎MUNA-POCKET COFFEEHOUSE「紙」
日時:11月17日(日)午前11時、午後2時、午後5時開演
会場:クリエート浜松(2階ホール)
◎劇団からっかぜ「切り子たちの秋」
日時:12月1日(日)午後2時開演
会場:浜松市勤労会館
◎演劇ユニットFOX WORKS「MAGICIAN'S WORTH」
日時:12月8日(日)午前11時半、午後3時開演
会場:浜松市勤労会館
◎シニア劇団浪漫座「翔んで浜松」
日時:12月15日(日)午前11時、午後2時開演
会場:なゆた浜北(3階なゆたホール)
◎静岡県西部高等学校演劇協議会「高校演劇選抜公演」
日時:12月21日(土)午後3時、22日(日)午後1時開演
会場:なゆた浜北(3階なゆたホール)
◎オムニバス公演
日時:2025年1月19日(日)
会場:鴨江アートセンター301
出演団体:演劇ユニットデッグデッグアー、おはなつみっこ、会心之一撃団、試験管ベビー、といしば企画、Moipa Mira、容原静、流体プリズム
◎演劇ワークショップ
日時:2025年2月9日(日)
会場:曳馬協働センター
※詳細未定