「自分のスキルは将来に通用するか分からない」―― リスキリング意識は高まるも、不安の背景にAI時代の変化|求人ボックス 「仕事と暮らしの実態白書2025」
働き方やキャリアの形が急速に変化する中、「今のスキルが将来も通用するのか」と感じる人が増えている。
月間1,200万人が利用する求人情報の一括検索サービス【求人ボックス】では、全国の働く人を対象に「仕事と暮らしの実態調査」を実施。第一弾では「働く人々の職場満足度や仕事選びの動機、今後の働き方への意識」、第二弾では「キャリアの価値観と不安感」にフォーカスし、解説をした。今回は、働く人々が感じているスキルへの不安について調査。
その結果、 半数以上が自分のスキルの将来性に確信を持てていない ことが明らかになった。
本稿では、“スキル不安”の実態について、リスキリング状況やAI活用意向をデータから読み解く。
半数が「自分のスキルが将来の仕事に通用するか分からない」―― リスキリング意識は高まるも、見通しに不安
現在働いている人に、「自分のスキルが将来の仕事に通用すると思うか」を尋ねたところ、 「通用する」と答えた人は全体の35.1%にとどまり、最も多かったのは「わからない」(50.1%) だった。
一方、「通用しない」と回答した人も14.9%に上り、 過半数以上が自分のスキルの将来性に確信を持てていない 実態が明らかとなった。
年代別にみると、 最も「通用しない」と感じている割合が高かったのは25〜29歳(23.1%) 、次いで30〜34歳(20.0%)だった。 「わからない」と答えた割合が高かったのは35〜44歳(59.45%) 、次いで30〜34歳(56.9%)。
各年代、「スキルが通用する」と答えた割合を大きく上回っており、 キャリア初期〜中盤において「スキルの方向性や将来価値」に確信が持てない 傾向が強い。
シニア層では相対的に“自信層”が増加。 45〜54歳(42.5%)、55〜64歳(40.3%)はいずれも「通用する」が4割を超え 、他の世代より高い結果となった。 長年の経験や専門領域での積み重ねが、一定の自信につながっている とみられる。
雇用形態別では「アルバイト・パート」「契約・派遣」でスキル不安が顕著
雇用形態別に見ると、 正社員(40.4%)とフリーランス(42.9%)では「通用する」と回答した割合が4割を超えた のに対し、 アルバイト・パート(27.9%)や契約・派遣社員(31.9%) では3割前後にとどまった。
特に 「通用しない」と回答した割合は、アルバイト・パート(18.3%)、契約・派遣社員(17.5%) で高く、 スキルに自信が持てない傾向 が見られた。
また、正社員でも、「わからない」と回答した層が半数近くおり、安定的な働き方や専門職であっても、将来にわたるスキルの有効性について確信を持てない人が多い現状が浮き彫りになった。
スキルの将来性に自信がない人ほどキャリア不安が強い
スキルの将来性別にキャリア不安スコア(10点満点)※1をみると、「通用しない」と答えた層が 7.74 と最も高く、「わからない」層が 7.40 、「通用する」層でも 6.91 だった。 スキルに自信がない層ほど不安が強く 、スコア7以上の高不安層(かなり・非常に不安)が半数を超えた。
一方で「通用する」と感じている層でも不安は解消されておらず、外部環境の変化やAIの進展など、個人の努力では制御しにくい要因が不安の背景にあるとみられる。
※1キャリアに関する不安の強さを10点満点で評価。不安レベルを「非常に不安に感じる(9〜10点)」、「かなり不安を感じている(7〜8点)」、「不安を感じている(5〜6点)」「多少の不安を感じている(3〜4点)」、「特に不安は感じていない(1〜2点)」に分類する。
年代別に見る「スキル不安」のリアルな声
スキルの将来性に不安を抱える理由は、世代によって大きく異なる。以下では、自由記述から、スキルに関する特徴的な声を紹介する。
20〜24歳
「 年齢が上がるにつれ転職が難しそう 」(契約・嘱託・派遣社員/通用するかわからない)
「 AIに仕事を奪われてしまう のではないかという点が不安」(契約・嘱託・派遣社員/通用しない)
「 資格をもっているが経験が少ない ため、年齢が上がるにつれて資格を活かすことは不可能になるのではないか、という点が不安」(アルバイト・パート/通用するかわからない)
25〜29歳
「給与が少ないことと スキルが身につかず転職が不利 という将来性」(正社員/通用するかわからない)
「 教育制度がない 」(正社員/通用する)
「Webデザイナーとして働いていて、 AI技術の台頭によって求められる職能が変わってきている と感じます。今の仕事を続けたいと思っていますが、職務内容が変わっていかざるを得ないことが不安です」(正社員/通用するかわからない)
30〜34歳
「キャリアアップしたいが、 勉強の時間が取れない 」(アルバイト・パート/通用するかわからない)
「 医療事務をやりたいが、病院は18時定時がほとんどなので働きづらい。 保育園へのお迎えがあるので、17:30定時、残業少なめ、日祝休みの働き方が理想だ」(正社員/通用するかわからない)
「 40歳をすぎると転職先がみつかりにくくなる のでは、と思うと暮らしていけるのか不安」(契約・嘱託・派遣社員/通用するかわからない)
35〜44歳
「将来的に スキルを向上できるのかどうか 不安」(正社員/通用しない)
「子どもの英語に関わる仕事がしたいが今、 勉強する時間や労力がない 」(正社員/通用するかわからない)
「契約社員のままでは 給料も上がらない、スキルも身につかない 」(契約・嘱託・派遣社員/通用しない)
45〜54歳
「 スキルの時代遅れ を感じている」(アルバイト・パート/通用しない)
「短期離職が多く、 売りにするスキルや役職を今まで得られていない 」(アルバイト・パート/通用しない)
「会社に スキルアップ制度があっても正しく活用できない 。資格を取得できても、実際にその業務に付ける可能性は低く、結局会社が求めるように動ける人が評価される環境だった」(正社員/通用する)
55〜64歳
「働きたいが、スキルがなくて事務職しか望めない。しかし、事務職では 転職先がない 」(正社員/通用するかわからない)
「希望するエリアで、 スキルを活かせる職種の求人がほぼない 」(正社員/通用するかわからない)
「年齢、体力、介護などの事情で残業などないところを探しているが、 スキル的に行けるところは基本残業があるため、働けるところが限られる 」(契約・嘱託・派遣社員/通用するかわからない)
若年層では「経験不足」や「AIによる職域変化」、中堅層では「家庭や働き方との両立」、ミドルシニア層では「年齢・体力・再就職の壁」など、それぞれのライフステージ特有の課題が浮かび上がった。
こうしたコメントからは、単なるスキル不足というよりも、「時代変化と働く環境のズレ」や「学び直しの難しさ」が不安の根底にあるといえる。
スキルに不安を抱える人でも4割が学び直しに挑戦 ― 資格・英語・AIスキルが人気上位
リスキリング(スキルアップ活動)の有無をみると、 「していない」人が53.3% だった。
「自分のスキルが将来の仕事に通用すると思うか」別で見ると、 「通用する」と感じている層の67.2%が取り組んでいる のに対し、 「わからない」「通用しない」と回答した層では約45% にとどまった。
つまり、 スキルに自信がある人ほど、学びを継続している 傾向が見られる。
年代別の人気スキル ― 英語・IT・AIが三世代共通の関心領域
年代別の人気スキルをみると、いずれの世代でも「英語(TOEIC/英検など)」が最も多かった。
若年層(20〜29歳) では、「簿記」「デザイン」「プログラミング」など基礎スキルの取得志向が強く、社会人基盤づくりの段階にある。 中堅層(30〜44歳) では、「AI・機械学習」「IT系資格」「動画編集」など、実務に直結するスキルへの関心が高い。 ミドルシニア層(45〜64歳) では、「データ分析」「コーチング・カウンセリング」「宅建」など、経験を活かしながら新分野に適応する動きがみられる。
コスト・時間ともに「無理のない自己投資」が主流
リスキリングにかける月間コストは、「0円」(39.2%)が最多で、「〜5,000円」(35.2%)、「〜1万円」(16.0%)が続いた。 約9割が月1万円以内 に収めており、手軽に続けられる学び方を選ぶ傾向が強い。
学習時間も「月5時間以内」が中心で、仕事の合間に少しずつ学ぶスタイルが一般的だ。オンライン講座や独学を活用し、 生活と両立できるペースで継続的にスキルを磨く 姿勢が定着している。
AIスキルへの関心、約6割が「学びたい」─ 一方で4割はAIツール未使用
AIツール(ChatGPTや画像生成AIなど)を仕事や自己学習でどの程度活用しているかを尋ねたところ、「全く使わない」が 42.6%と最も多く、「あまり使わない」(15.2%)を合わせると約6割がAI未活用層 となった。
一方で、「ときどき使う」(28.4%)、「日常的に使う」(13.8%)と回答した層も一定数おり、AIを使いこなす人とそうでない人の間で明確な二極化が進んでいる。
リスキリング実施の有無で比較すると、 リスキリングをしている人の約5人に1人(19.6%)がAIを日常的に使用 しているのに対し、リスキリングをしていない人ではわずか7.2%。
AIツールの活用は、「学び続ける層」に偏在していることがうかがえる。
AIスキルに「関心あり」は約6割 行動意欲も高まる傾向
AIに関するスキルを身につけたいかを尋ねると、「すぐにでも学びたい」15.8%、「近い将来(1〜2年以内)に学びたい」16.9%、「興味はあるが、今は予定なし」31.6%と、 全体の6割超がAIスキルへの関心を示した。
すでにAIスキルを学んでいる人も7.3%存在しており、AIリテラシーは一部で実践段階に入っている。
スキルの将来性認識別にみると、「自分のスキルは通用する」と考える層でAIスキルを「すでに学んでいる」「すぐに学びたい」と答えた割合が高く、 スキル自信層ほどAI学習への行動意欲が強い ことが分かった。
一方、「通用しない」と感じている層では「興味なし」(あまり興味がない・21.0%、全く興味がない・18.5%)が約4割を占めていた。
「AIに置き換わる」と感じる業務は“定型業務”が中心
AIによって「置き換わる可能性がある」と思う業務を尋ねたところ、最も多かったのは 「事務系(データ入力・書類作成・定型レポート作成など)」561票 と、67%の人が選択した。次いで「バックオフィス系(経費精算・請求処理など)」326票、「顧客対応系(コールセンター・問い合わせ対応など)」282票が続いた。
上位には、いずれも 定型的で反復性の高い業務 が並び、AI自動化への現実的な懸念が集まっている。
一方、「企画系」「制作系」「技術系」など創造性や判断力を要する分野も上位に入り、 AIとの協働が避けられない領域 として意識されつつある。
学び直しの姿勢が「キャリア不安」を解消するカギに
今回の調査では、働く人の半数以上が「自分のスキルが将来の仕事に通用するか分からない」と回答し、世代を問わずスキルの将来性への不安が広がっている実態が明らかとなった。
特に20〜30代では、 AIの進化や業務変化に対する危機感 が強く、キャリア初期から 「将来への見通しが立たない」傾向 が見られる。一方で、経験を重ねた ミドルシニア層では一定のスキル自信 を持ちながらも、再就職や体力、環境制約に起因する不安を抱える姿が浮き彫りとなった。
スキルに自信のある層ほど、リスキリングへの取り組み率が高く、リスキリングは単なるスキルアップにとどまらず、「変化に適応できる自分」という心理的な安心感にもつながっているともいえる。
また、AI時代の到来を目前に、AIリテラシーや新しいツールを学ぶ姿勢が今後のキャリア形成において重要な要素となるだろう。今回の調査でも、AIツールを積極的に活用している人は、学びに対しても前向きな傾向を示した。
キャリア不安の時代において求められるのは、「今のスキルを守る」ことではなく、「変化に対応し続ける力」を育てること。働き方や環境の違いを超えて、誰もが自らの強みを更新していける学びの循環が求められている。
「仕事と暮らしの実態白書2025」概要
■調査主体:株式会社カカクコム
■調査対象:求人ボックス会員のうち、「正社員」に関する検索履歴がある人に調査を実施。現在、「正社員」「契約社員」「派遣社員」「パート・アルバイト」として働く20歳〜64歳の男女835名の回答を抽出。
■調査方法:インターネット調査
■調査期間:2025年10月1日(水)~10月19日(日)
※構成比(%)、差分(pt)は小数第2位以下を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合や、少数第1位までの計算とは数値が異なる場合があります。