「地域のつなぎ役」クリーニング店が閉店へ 感謝の59年 伊賀
森口さん夫妻が二人三脚で切り盛り
三重県伊賀市阿保のスーパーに店舗を構える「もりぐちクリーニング」が、12月15日で59年の歴史に幕を下ろす。店主の森口猛さん(84)と妻恵子さん(72)が夫婦二人三脚で切り盛りしてきた店で、利用客から惜しむ声が上がっている。11月22日は「いい夫婦の日」。
森口さんはクリーニングの資格を取るため、学校を卒業後に旧上野市(現伊賀市)の専門店で学び、25歳の時に自宅(伊勢路)の一角に工場を設けて開業。31歳の時に12歳下の恵子さんと結婚し、一緒に働いた。
結婚3年目、森口さんの身を突然の病魔が襲った。当時、恵子さんは次男を妊娠しており、同居する高齢の姑の世話もあった。落ち込む森口さんを恵子さんは支え、夜遅くまで働いて夫不在の店をなんとか守った。
2か月間の入院生活を経て退院した森口さんは、気持ちを新たに仕事にまい進。従来の配達中心から、近鉄青山町駅前に出店した取次店を窓口にした営業形態に転換した。地域では珍しかった前金制やコインランドリー事業も率先して導入した。
62歳の時には、国道沿いのAコープ三重青山店内に移転し、現在の形になった。森口さんは、大型店にまねできない職人らしい丁寧な仕事を心掛け、利用客のニーズに応えた。店には買い物や通勤がてら洗濯物を受け渡しする人が立ち寄り、地域の世間話も飛び交った。
2人の息子は別の業界に送り出しており、店は1代限りと決めていた。2年ほど前からは、事業の幕引きに向けた準備を進めてきた。
12月の閉店を前に恵子さんは「たくさんのお客さまとの出会いは、私たち夫婦にとって宝物。お客さまへの感謝の気持ち、支えてくれた息子たち家族への感謝の気持ちで胸がいっぱい」、森口さんは「ここまで続けることができたのは皆さまのおかげ。本当に感謝の言葉しかない」と話した。閉店後は健康を第一に、夫婦でのんびり過ごす予定だという。
客から惜しむ声
40年以上利用してきたという同市桐ケ丘の70代女性は「ワイシャツを持ち込んだ時には『ご主人は元気?』と気に掛けてくれて、その数年後に喪服を持ち込んだ時は、夫が亡くなったことを一緒に悲しんでくれた」と振り返る。「一人ひとりを大切にし、地域のつなぎ役だった。本当にご苦労さまでした」と話した。