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「間接部門は単なるコスト」と考えて軽視していると、恐ろしいタタリがくると教わって育った。

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「間接部門は単なるコスト」と考えて軽視していると、恐ろしいタタリがくると教わって育った。

総務や経理、情シス、コンプラといった間接部門をコストと考え、必要最低限の人員・予算に済ませたいと考える経営者は少なからずいます。

特に中小企業ではその傾向が顕著です。


私は「中小企業専門」にコンサルティングを提供する会社に長く在籍していましたが、これらの部門に積極的な投資をしようとしない経営者を多く見てきました。


もちろん「間接部門に金をかけないのは、そら当然だろう」と言う方は多いと思います。

私もそれに対して反論はいたしません。まず、断っておきますと、「セオリー」から言えば、間接部門よりも、直接売上が上がる部門にお金をかけるべきです。

営業より総務にお金をかける経営者は会社を潰します。


しかし、です。

10億円、20億円と、ある程度売上の規模が大きくなったにも関わらず、依然として、「間接部門は最小限でいい」と言っている経営者がいたら、私は「ちょっとたちどまったほうがいい」と言うでしょう。
*


実は、私も駆け出しのコンサルタントのときは、「間接部門に金をかけるなんて、ダメな経営者のやること」と思っていました。

本当に恥ずかしい。

まあ、イケイケベンチャーやスタートアップ経営者の「間接部門軽視」の話を、間に受けすぎたんですね。身軽に、身軽に。間接部門はコスト。なんなら「働かないやつ」の温床だと。

そういうメッセージが、彼らから発信されていたわけです。


しかし、そんなことを信じていた私に、当時の上司はガッチリ釘を差してきました。

彼は、こう言ったのです。

「間接部門は単なるコスト」と考えて、軽視していると、恐ろしいタタリがくるよ、と。


私は「タタリ」という表現がピンとこず、「タタリってなんですか?」と、上司に聞きました。

すると彼はいいました。

「だいたい、経営者ってのはイケイケで、攻めが得意なタイプが多い。個人商店はそれでいい。でも、人が増えてくると、いろいろな事故が起きる。安達さんもそのうち分かるよ」と。


そして、その直後。私は知りました。「タタリ」の正体が。


ある会社が、情報漏洩を起こして、大変に糾弾されたのです。

上司は「ほらね」といいました。

いつかやると思っていたと。


私は様子を見に行きましたが、いつもカッコよくビジョンを語っていた、その会社の社長は、顧客へのお詫びまわりで、すっかり憔悴していました。

そして、私に言ったのです

「セキュリティ対策、甘く見ていたよ」と。


そして、それ以来、他にも様々な「タタリ」を見聞きしました。

ある会社では従業員が不正に売上を水増ししていました。

ある会社では、労務管理を「コスト」などと言って、何もしなかったため、辞めた従業員が労基署に訴え出ました。

ある会社では、知らないうちに「反社」まがいの人々に接近されました。


こうしたことの背景にあるのが、すべて社長の「守り軽視の姿勢」であることは、間違いありません。

情報漏洩で失った取引先は戻ってきませんし、労基署案件がニュースになれば求人広告を十倍に増やしても人は集まりません。売上の水増しが明るみに出れば、金融機関は融資を渋るでしょう。


結局、「タタリ」というのは、間接部門を軽視することで生まれる、さまざまな「属人化」「監視不足」から生まれる、組織の膿です。

もちろんそれは、それほど頻繁に起きるわけではありません。

もしかしたら、ずっと起きないこともあります。


しかし、一度それが発生したときのダメージは、経営者が想定していた「コスト削減効果」を軽々と吹き飛ばすほど高いのです。場合によっては取り返しがつかないことも。


*


ここで強調しておきたいのは、「間接部門=守り」ではない、という点です。むしろ会社が大きくなるためには避けて通れない、通過儀礼のようなものだと言えるでしょう。

昔はオフィスの中に「保険のおばちゃん」がいて「社会人になったんだから保険くらい入っておかなきゃ」と言いまわって営業をしていた時代がありました。

社会人の通過儀礼、という主張ですね。


そういう意味では、間接部門のコストは、「生命保険」と同じだと思うのが正しい態度です。


情シスが整えたセキュリティ基盤は、営業が大手企業に提案するときの信用の土台になります。

総務が作るガバナンスは、IPOや資金調達の審査を通すための通行証になります。

コンプラからのリスク報告は、意思決定の重要な材料になります。


攻めのスピードを上げるには、守りの厚みが不可欠であり、F1のマシンも、強力なブレーキがあるからこそコーナーぎりぎりまで加速できる。

中小企業の成長期ではどうしても売上ばかりに目が向きがちですが、「守り」がなければ、コーナーでクラッシュするのは、当たり前なのです。


では、どこから手をつければいいのか。経験上、次の三つを考慮に入れておくほうが良さそうです。


1.管理部長の早期登用

20億円を超えるあたりで、社長が数字と法規を兼務するのは限界です。外部出身でもいいので、財務や総務・法務、そしてセキュリティを束ねる“番頭役”を据えなければなりません。


2.インシデントを可視化

セキュリティインシデント、残業時間の急激な上昇、ルール違反 -異常値を可視化しておけば「タタリ」は事前に防げます。


3.外部リソースの活用

いきなり総務や情シスをフル内製化する必要はありません。低リスクでマネジメント可能な仕事は外部に委託し、社内は重要なリスク回避に集中します。


上司が言っていた「タタリ」は、オカルトではありません。タタリは、様々な不慮の事故と同じく、どの会社にも確率的に発生しうるものです。

「ハインリッヒの法則」をご存じでしょうか。1件の重大事故の背後には、29件の軽傷事故、300件のヒヤリ・ハットが存在しているという有名な法則です。


それと同じ。

売上が伸び、社員が増えれば、ヒヤリ・ハットの回数は膨れ上がり、経営者が「守り」を考慮しなければ、遅かれ早かれ1件の重大事故、つまり「タタリ」に吞まれてしまうのです。

***


【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」82万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

◯Twitter:安達裕哉

◯Facebook:安達裕哉

◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)

Photo:Mick Haupt

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