Yahoo! JAPAN

新浦安駅から埋め立ての歴史をたどって。住宅地、大規模遊園地、鋼鉄流通基地が生まれた背景とは?【「水と歩く」を歩く】

さんたつ

IMG_2056

前回は東京メトロ東西線浦安駅から出発して浦安市内の境川、旧江戸川沿いを歩いた。浦安市の中でも埋め立てが行われる前からにぎわっていた旧市街「元町」と呼ばれるエリアだ。今回はJR京葉線新浦安駅を起点に、埋め立てで新たに造成された新市街「中町」と「新町」エリアを歩いてみようと思う。

この記事に関連する書籍

散歩の達人 2025年11月号

大特集は「池袋ルネサンス」。大塚や目白、副都心線、西武池袋線沿線まで池袋エリアを徹底取材。佐野史郎さん、金魚番長・古市勇介さんのスペシャルインタビューもお見逃しなく!特別付録「Beach V SMA芸人大集合カレンダー2026」付き。新連載「手塚理美のガチロケハン」もスタート!

大きなホテルと集合住宅が出迎える新浦安駅周辺

京葉線新浦安駅の北口に出ると、目の前に大きなホテルが見える。『オリエンタルホテル東京ベイ』、『浦安ブライトンホテル東京ベイ』という、「東京ベイ」の名を付した2つのホテルだ。駅北口にはこれらのホテルの他に、美浜東エステート、エルシティ新浦安、美浜西エステートといった集合住宅が並ぶ。

京葉線新浦安駅は1999年に開設された、比較的新しい駅だ。2024年度の1日平均乗車人員は5万1604人で、東西線浦安駅(2023年度1日平均3万8062人)よりも多い。

『浦安ブライトンホテル東京ベイ』。その奥に『オリエンタルホテル東京ベイ』が見える。

この辺りは「中町」と呼ばれる1964年から始まった海面埋め立て事業によって誕生した地域で、集合住宅、戸建住宅、小中学校、商業施設などが計画的に整備されている。美浜西エステート敷地内の児童公園には中央に赤いブランコが設置されていて、背景の団地との組み合わせに思わず大友克洋の漫画『童夢』を連想してしまう。

浦安市自治会連合会のウェブサイトにある美浜西エステート自治会のページを見ると「昭和54年に入居が開始され、3年後の昭和57年に自治会が発足しました」とある。現在でも毎年夏祭りを行うなど自治会の活動も盛んなようだ。「高齢化と若年化の両方を抱えている集合住宅」と書かれており、新浦安駅前という好立地もあってか、新しい住民も増えているのだろう。

「美浜西エステート」。団地とブランコといえば『童夢』。

境川沿いには大きな築山が目印となる若潮公園があり、園内には「浦安町漁業記念碑」が立つ。漁業が町に残した業績を伝えるために1976年に設置されたそうだ。碑には以下のような銘文が記されている。

「この浦は四季折々魚介の産豊かにして自然の恵み絶ゆることなく伝えられて八百有余年、その漁業盛んなる時、漁家千八百戸を数え境川、船圦川に漁船溢れ、漁民斉しく潤い、町大いに賑い、漁業の町浦安の名は青ベカの物語と共に広く天下津々浦々に及びしものなり。時遷り、この浦も邦家発展子孫繁栄の為、国土の一端と変貌す。無為に非ざれど憶いは残り胸熱し。ここに碑を建て、この浦を恵みし自然を謝し、幾多先人先輩漁民が営々の私財を顧みず漁業の為に生命を捧げ、研鑽努力惜しまざりし偉業を顕彰し、永き水産の歴史と伝統に培われし在りし日の漁業の記念として、後世に伝うるものなり。
昭和五十一年十二月吉日
浦安町長 熊川好生」

800年の漁業の歴史とともに「青ベカの物語」と書かれるとは、山本周五郎の小説『青べか物語』が浦安(作品内では「浦粕」)を広めたことは、当時の浦安町にとって碑に刻むほど大きな出来事だったのだろう。

若潮公園の築山。
浦安町漁業記念碑。
若潮公園にあった魚の形のオブジェ。

シンボルロードを歩き、かつての堤防跡へ

公園から再び新浦安駅に戻る。ホテルと団地が立ち並び、人の流れもそれほど多くなかった北口と異なり、駅南口にはロータリーや駅前広場が整備されていて、「MONA新浦安」と「イオン新浦安」という大きな商業施設もあるため、地元住民、通勤通学で駅を利用する人たちでにぎわっている。

ロータリーの向こうには大規模マンション・入船東エステートが見え、北口と同様にいかにも計画的に作られた街だという印象を受ける。前回歩いた浦安駅周辺の旧市街と異なり、こうした近代的で画一的な街並みには面白みを感じない人もいるかもしれないが、集合住宅で育った私にとってはどこか親しみを覚える風景でもある(なんとなく葛飾区の金町駅前団地を思い出した)。先ほどの美浜西エステートの自治会活動のように、集合住宅にも近所づきあいやコミュニティは存在する。

新浦安駅南口。
駅前広場。
「イオン新浦安」。

ロータリーと入船東エステートの間を通る大通り「シンボルロード」に沿って、海岸を目指して歩くことにする。通り沿いの緑道は歩行者と自転車の動線も分けられていて、歩きやすい。この先にある明海大学に通う留学生だろうか、通り過ぎる若者たちからさまざまな言語が聞こえてくる。

しばらく進むと目の前に大きな塀のような構造物が現れる。構造物に沿った一帯は第二堤防緑道と呼ばれており、この第二堤防が第1期埋め立て事業によって造成された中町地域と第2期埋め立て事業によって造られた新町地域の境を成している。

第二堤防緑道。
およそ3キロにわたって堤防跡が続いている。
中央が第二堤防緑道。左が中町、右が新町地域。左と右で埋め立てられた時期が異なる。

リゾート地を思わせる新町地域

第二堤防を越えると、市内でいちばん新しい埋め立て地、新町地域が広がる。新町には大学キャンパス、マンション、リゾートホテルなど一層新しい街並みが続き、街路樹としてヤシの木が植えられていることもあって、先ほどの中町地域と比べるとリゾート地を思わせる要素が色濃くなってくる。

明海大学キャンパス。
『ホテルエミオン東京ベイ』。

新町地域では商業施設やホテルだけでなく、マンションにも浦安マリナイースト21フォーラム、セレナヴィータ新浦安、パークシティ東京ベイ新浦安など、住宅でありながらリゾート地や海沿いを連想させるネーミングが多い。一見しただけではホテルなのかマンションなのか区別がつかないくらい、新町地域ではホテルと住宅が混在している。

浦安マリナイースト21フォーラム海風の街。
商業施設「ニューコースト新浦安」(右手前)と、パークシティ東京ベイ新浦安(中央〜左奥)。

新町地域にいくつかある「浦安マリナイースト21」は旧住宅・都市整備公団(現・UR都市機構)によって造成された地区の総称で、京葉線新浦安駅開業と同じ1988年に第1期の「フォーラム海風の街」への入居が始まった。その後90年代にかけて「潮音の街」「望海の街」「夢海の街」「海園の街」への入居が続く。おそらく当時は東京湾を望むおしゃれなリゾートマンションとして売り出されたのだろう。埋め立て地に出現した一見歴史を感じさせない名前の街にも、30年以上の時間が経過している。リゾート感漂う街並みにもかかわらず、あまり浮ついた感じがしないのは、この土地で着実に積み重ねられた生活のせいかもしれない。

バス停「海風の街」。

とはいえ、さらに海岸沿いに至ると街の風景はリゾート感どころか、もはやリゾート地そのものになる。『東京ディズニーセレブレーションホテル:ウィッシュ』と『東京ディズニーセレブレーションホテル:ディスカバー』が両サイドに並ぶさまは、その外観も相まって日本国内とは思えないくらいだ。

シンボルロードの交差点の向こうに見えるリゾートホテル。
『東京ディズニーセレブレーションホテル:ウィッシュ』。
『東京ディズニーセレブレーションホテル:ディスカバー』。

シンボルロードの先はあまりにも海だった

シンボルロードの終点はロータリーになっていて、その先に海岸がある。スロープを下りると海岸沿いの遊歩道がどこまでも真っ直ぐ続いていて、気持ちいい。この真っ直ぐな海岸線がいかにも埋め立て地といった感じだ。周りにはランニングや釣りをしている人をちらほら見かける。

いよいよ海岸。
スロープを下りて海岸に出る。
まっすぐ続く海岸沿いの遊歩道。

再びスロープを上り、今度は緑道沿いに境川の方へ歩いてみる。シンボルロードの終点から境川の間は浦安市総合公園として整備されていて、海岸のすぐそばに広大な芝生が広がる。

浦安市総合公園の海岸沿い緑道。

緑道をしばらく歩くと、境川の河口付近が見えてくる。あずまやもあり、休憩も可能だ。先ほどの海沿いの遊歩道も境川の河口でいったん途切れる。その角に立つと足元を除いて視界いっぱいに海が広がり、あまりに海すぎて少し不安になる。

方向的にはこの先はおそらく房総の袖ヶ浦・木更津あたりなのだが、天候の加減か視界の先に陸地は見えず、そのまま太平洋が広がっているように感じてしまう。太平洋の向こうだからこの先はアメリカかと一瞬思ったものの、南を向いているのでずっと先にあるのはおそらくニューギニア島だ。

海岸沿い遊歩道の端。右側が境川の河口。
視界が海すぎて怖くなる。

浦安市教育委員会発行の『浦安 文化財めぐり』「海のおもかげ 埋め立て前の浦安」には埋め立て前の浦安市の漁場のマップが掲載されていて、それを見ると今自分が立っている浦安市総合公園の境川河口付近は「浅蜊養殖」と書かれている。そのほかにも埋め立てられた中町・新町地区一帯はもともと蛤や海苔の養殖場が多かったようだ。

かつての漁場の上に立って東京湾をしばらく眺めたのち、境川を河口から遡って新浦安駅方面まで歩くことにした。

境川河口から埋め立ての歴史を遡(さかのぼ)る

境川の向こうに見える高洲地区の集合住宅。
海を背にして境川沿いを歩く。
高洲の集合住宅。
高洲の住宅地。

途中、明海橋の下をくぐるあたりで自転車に乗った地元の小学生集団とすれ違った。境川を北上し、入船橋の東詰めから明海鉄鋼通り線を東に進み、新浦安駅を目指す。明海鉄鋼通り線とは変わった名前の通りだが、これは東京の八丁堀や本所深川にあった鋼材業者が集団移転してできた浦安鉄鋼団地に由来している。

市役所通りの浜土堤。
明海鉄鋼通り線。左に見えるのは『ホテルエミオン東京ベイ』。

1950年代後半、工場汚水放流事件などによって東京湾沿岸の漁場環境が悪化し、浦安の漁業は衰退し始めていた。そのような状況のなか、1957年に日本プラスチック社から浦安町の海面下土地(大三角)を埋め立てて東洋一の大遊園地を造りたいと申し入れがあり、町は議会・漁業共同組合とともに協議を進め、県に対して大規模遊園地建設を主体とした埋め立て事業の促進を要望する。そこで「住宅地の造成」「大規模遊園地の誘致」「鋼鉄流通基地の形成」の3つを基本方針とした海面埋め立て事業が実施されることになる。

1962年に漁業権の一部が放棄され、1965年から第1期埋め立て土地造成事業が始まる(埋め立て完了は1975年)。1971年に漁業権の全面放棄がなされ、1972年から第2期埋め立て土地造成事業が開始される(埋め立て完了は1980年)。こうして浦安の行政面積は4倍近く拡大した。

浦安は漁業に代わる産業として公害の恐れがない鉄鋼業を誘致し、倉庫や工場が手狭になり移転先を探していた東京の鋼材業社が浦安に集団移転してくることになる。そうしてできたのが浦安鉄鋼団地だ。

計画的な街にふと現れた、隙間のような場所。
生い茂る緑。

前回訪れた『浦安市郷土博物館』の展示で知って驚いたのは、埋め立て地造成による町域拡大が計画された時点で、基本方針の1つに「大規模遊園地の誘致」があったことだ。今回歩いた新浦安駅から海岸までの街並みに漂うリゾート感は、市内にたまたま大規模遊園地ができたからそれにあやかったというわけではなく、当初から計画に組み込まれていた大規模遊園地と住宅地造成が実現された風景だった。

住所は明海(あけみ)、大学名は明海(めいかい)大学。

明海鉄鋼通り線から再びシンボルロードに出て、新浦安駅を目指す。ちょうど授業が終わる時間帯なのか、駅へ向かう学生が多い。駅前のイオンに寄ると、夏祭りを意識してか、提灯の飾り付けがしてあった。よく見ると提灯が中華風だ。ヤシの木も中華風提灯もそれほど違和感なく存在しているのは、埋め立て地の寛容さによるものだろうか。

イオンの提灯。

取材・文・撮影=かつしかけいた

【参考文献・URLなど】

JR東日本,「駅の乗車人員 2024年度ベスト100」(2025年10月17日参照).
https://www.jreast.co.jp/company/data/passenger/

千葉県,「民鉄等駅別1日平均運輸状況」,千葉県統計年鑑(令和6年)(2025年10月17日参照).
https://www.pref.chiba.lg.jp/toukei/toukeidata/nenkan/nenkan-r06/documents/111n.xlsx

浦安市自治会連合会, 「浦安市自治会連合会」(2025年10月17日参照).
https://www.urayasu-jichikai.net/section/34-%E7%BE%8E%E6%B5%9C%E8%A5%BF%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%88%E8%87%AA%E6%B2%BB%E4%BC%9A/

海風の街 公式ホームページ(2025年10月17日参照).
https://umikaze-town.com/

浦安市郷土博物館, 「浦安漁業記念碑」, 浦安市郷土博物館収蔵品データベース(2025年10月17日参照).
https://jmapps.ne.jp/urayasufkm/det.html?referer_id=10641&data_id=58727&data_idx=0

浦安市公式サイト, 「浦安市の海面理め立て」(2025年10月17日参照).
https://www.city.urayasu.lg.jp/shisei/profile/profile/1000020.html

浦安市公式サイト, 「海面埋立事業」(2025年10月17日参照).
https://www.city.urayasu.lg.jp/shisei/profile/rekishi/1001471.html

浦安市史編さん委員会 編『浦安市史』「第二章 開発と再開発 第二節 海面埋め立て」,浦安市,1985.3. 国立国会図書館デジタルコレクション(2025年10月14日参照).
https://dl.ndl.go.jp/pid/9643508/1/51

浦安市教育委員会生涯学習課 編 , 2001年3月,『浦安 文化財めぐり』,浦安市教育委員会.

植草昭教, 2018年, 浦安鉄鋼団地の立地理由と形成過程 鉄鋼卸売・加工業の集積地に関する考察」.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2018s/0/2018s_000192/_article/-char/ja/

鉄鋼流通4団体合同ホームページ(2025年10月17日参照).
https://tekkoo.jp/utd_history/

浦安鉄鋼団地,「浦安鉄鋼団地紹介ビデオ」(2025年10月17日参照).
https://youtu.be/odumZtwn6uc?si=W90jf2xTACtVgV4s

藤澤鐵雄,「【千葉県浦安市】浦安鐵鋼団地の過去・現在・未来」, 「商工金融」2019年1月号(2025年10月17日参照).
https://shokosoken.or.jp/shokokinyuu/2019/01/201901_2.pdf

かつしかけいた
漫画家・イラストレーター
葛飾区出身・在住の漫画家・イラストレーター。2010年代より同人誌などに漫画を発表。イラストレーターとしても雑誌や書籍の装画などを制作する。漫画『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』1巻が発売中。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 「武田砂鉄 ラジオマガジン」ゲストコーナーに花澤香菜さんが出演!【注目トレンド】

    アニメイトタイムズ
  2. 九州大学が学園祭を同日開催!『九大祭』×『芸工祭』で秋の一大イベントを満喫しよう

    meets糸島
  3. 「こういうの良い」動物園に設置されたどんぐりポストがかわいすぎる!「おやつになるの素敵」

    Domingo
  4. <しごできのイライラ>効率アップを期待してアシスタント募集「時給高いのに…ミス?」【まんが】

    ママスタセレクト
  5. テラス席にいるパパ→どうしても構ってほしい『小型犬と赤ちゃん』が…まるで『フェス状態』になる光景に36万再生「可愛いw」「混ざりたい」

    わんちゃんホンポ
  6. 【J3残留へ】アスルクラロ沼津、残り6戦に懸ける!FW川又堅碁「エゴを捨て勝ち点を」

    アットエス
  7. カインズの便利すぎキッチン雑貨がスゴい!料理の常識を変える「コレな~んだ?」クイズ

    SODANE
  8. 持ち込んだパソコンの重さで駅弁が割引に JR東京駅に「#パソコンで買える駅弁屋さん」登場

    おたくま経済新聞
  9. 大型犬にタックルする子犬→パパが見かねて助けた結果…予想してなかった『まさかの悲劇』が57万再生「おしりがww」「可愛いのでヨシ」と反響

    わんちゃんホンポ
  10. 保田圭、ニッチェ江上らとの“ケイの会”を報告「ただただ楽しい1日でした」

    Ameba News