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【あんぱん】1週目にして"アンパンマンイズム"を感じる描写も。ヒロインたちが遊ぶ「シーソー」が示す意味を考察

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【あんぱん】1週目にして"アンパンマンイズム"を感じる描写も。ヒロインたちが遊ぶ「シーソー」が示す意味を考察

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「作中に登場するシーソー」について。あなたはどのように観ましたか?



※本記事にはネタバレが含まれています。



中園ミホが脚本を、今田美桜が主演を務める第112作目のNHK連続テレビ小説『あんぱん』第1週が放送された。本作は、国民的アニメ『アンパンマン』の原作者で漫画家・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとした物語。ちなみに、第1週のサブタイトル「人間なんてさみしいね」(原題は「人間なんてさびしいね」)はやなせたかしが1976年に発表した詩集のタイトルだ。



第1話冒頭では、無心で絵を描く嵩(北村匠海)と声をかける主人公・のぶ(今田)の晩年の姿が描かれ、嵩のモノローグが重なる。



「正義は逆転する。信じられないことだけど、正義は簡単にひっくり返ってしまうことがある。じゃあ、決してひっくり返らない正義ってなんだろう。おなかをすかして困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」



嵩が熱心に描いている絵を見て、のぶは「ちっとも強そうじゃなくて、カッコ悪いけど、そこがいい」と評する。そこから、1970年に登場した「アンパンマン」の前身となる短編集のキャラがモノクロのアニメーションとなって飛んでいく映像が登場する。冒頭から視聴者の心をつかむ演出が巧い。



そこから時代はさかのぼり、舞台は高知県長岡郡御免与町。「ハチキン(土佐言葉で、男勝りの女性を指す)・おのぶ」と呼ばれる8歳の朝田のぶ(永瀬ゆずな)が父・結太郎(加瀬亮)を迎えに駅に一目散に走っていくと、改札から出てきた少年・柳井嵩(木村優来)にぶつかり、嵩は尻餅をついてしまう。



「気をつけや! ぼけ!」と暴言を吐くのぶ。しかし翌日、嵩が転校生として現れ、都会育ちのために浮いてしまい、クラスメイトの男の子達から弁当を奪われてしまう。それを見かねたのぶが助けると、嵩に「本当はいい人なんですね」言われ、気まずくなったのぶはへなちょこと言い、「しゃんしゃん(さっさと)東京にいね!」と言い捨てる。



ところが、母・羽多子(江口のりこ)から、嵩が父・清(二宮和也)を亡くして母・登美子(松嶋菜々子)に連れられて柳井医院を営む伯父・寛(竹野内豊)のもとにやってきたことを聞くと、「ひどいこと言うてしもうた」とすぐに母に打ち明け、反省する。そして、「大好きなお父ちゃんにもう会えないなんて、どんな気持ちがやろ」と思いを馳せ、さらに嵩が後に実母にも置き去りにされたことを知ると、「嵩はうちが守っちゃる!」と宣言するのだ。



この変化を「シーソー」になぞらえているのが実に巧みだ。



嵩と千尋(平山正剛)がシーソーで遊ぶところにのぶも加わると、登美子が現れ、「大切なお坊ちゃんにケガでもさせたらどうするの」と嵩を注意、もっと遊びたいと抗う千尋を家に帰すシーンがあった。のぶは登美子を怖いと言い、嵩には「あんなちんまい子とシーソー遊びするなんて、アホか」と言い捨てるが、嵩は千尋が実の弟であること、千尋が登美子を「おばちゃん」と呼ぶのも千尋が幼い頃に養子に行ったため覚えていないせいだと明かすと、嵩を自分が守ると宣言する。



振り返ると、第1話で自分からぶつかっておきながら、嵩に罵声を浴びせたのぶは、結太郎と連れ立って嬉しそうに帰宅、祖父・釜次(吉田鋼太郎)に「(結太郎が)もんてきたで(戻ってきたで)」と言い、釜次が「そりゃあ行ったらもんてくるじやろう」と返すシーンがあった。これが朝田家の当たり前の日常だ。



しかし、商社勤務の結太郎が次に海のむこうに旅立つ際、「はようもんてきてよ」とのぶは言い、父のことが世界一好きだというのぶに別れ際、結太郎は自分のソフト帽をかぶせてあげる。それがまさか永遠の別れになるとも思わずに......。



父の葬儀を終えても涙ひとつこぼさなかったのぶは、いつものように駅の改札に結太郎を迎えに行く。しかし、結太郎の姿はない。そこで、駅でスケッチをしていた嵩が、のぶが結太郎に甘える様子を描いた絵を見せると、のぶは初めて声をあげて泣くことができた。



最初はハチキン・のぶが嵩をリードしていく関係性に見えた。しかし、ここで逆転が起きている。それはのぶ自身の内面の変化にも投影されている。



時代的に祖母・くら(浅田美代子)には「女の子らしく」「ニコニコと」と言われ、クラスメイトの男子には「ハチキン」とからかわれ、嵩を「男のくせに」「へなちょこ」と言ったのぶが、やがて「ちっとも強そうじゃなくて、カッコ悪い」ヒーローを肯定する冒頭の価値観に至った変化が第1週の中でしっかり描かれているのだ。



そして、そんなのぶを照らすのは、亡き父が語った、海のむこうでは女性がたくさん活躍していること、日本にも時期にそういう時代が来ること、そして「おなごも遠慮せんと大志を抱きや」という言葉であることも。



1週目にしてすでに、嵩が朝食をとっていないいじめっ子に自分の弁当をあげてしまう描写に、アンパンマンイズムが登場。ジャムおじさんそっくり(口が悪くて優しいところはばいきんまん的でもある)のパン職人「ヤムおんちゃん」屋村草吉(阿部サダヲ)がメンター的に登場し、「たった1人で生まれてきてたった1人で死んでいく、人間なんてそんなもんだ」とやなせたかしの死生観も代弁していた。



ところで、第1週には「ギッコンバッタン(シーソー)」が幾度も登場するが、それは『やなせたかし おとうとものがたり』の詩「シーソー」を下敷きにしたものだろう。



「シーソーというかなしいあそびがある 一方があがれば一方がさがる 水平になることは一度もない」という書き出しで始まる詩には、幼い頃に伯父の家に養子として引き取られた弟と自身の関係が綴られている。



幼い頃は病気がちで成績も悪かった弟に対し、自分は健康で成績が良かったが、中学に入ると立場が逆転、弟は柔道二段で優等生、自分は無段で劣等生になったと、「水平になることが一度もない」と言いつつ、「それでもぼくらは仲良しだった」と振り返る。



これは兄弟の話だが、おそらく『あんぱん』では嵩とのぶの関係性や人生、人々の価値観、世の中が幾度も「シーソー」を繰り返していくことになるのだろう。そして、水平にならななくても、人はきっと仲良くなれる――そんな希望を感じる第1週だった。


文/田幸和歌子

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