本気で悩んだ発達障害息子のゲーム問題。「学びの多様化学校」受験で変化した価値観
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
「依存症になるのでは……?」と本気で悩んだ小学生時代のゲームとの付き合い方
コチ丸は一人っ子だったので、きょうだいの影響で早くからゲームやタブレットの味をしめる経験もなく、さらに普段の生活でも私が仕事で朝から晩まで働いていたため、保育園にいる時間が長く、幼児期はゲームとは無縁の生活でした。
家にいる時には戦隊物の人形で遊んだり、絵本を読んだり……。とっても健全な(?)遊びで毎日を過ごしていました。
そんな生活から一転。コチ丸が小学生になると、友だちとの付き合いもあるだろうと思い、親の私が自らゲーム機を買い与えました。コチ丸の入学した小学校は1学年が20人にも満たない小さな学校だったので、みんなが持っているものを持っていないのは仲間外れの要因にもなりかねない……と思ったのが理由でした。
ただし、厳格な(笑)管理の元。「1日1時間だけ」、「勉強をちゃんとやった後で遊ぶ」など、ありがちな約束つきでした。とはいえ、友だちと公園に行っても遊具で遊ばずゲームをやっている時代。1日1時間、なんていうのは子どもにとって難しいことです。1時間経てば自動的に電源が切れる設定にしておいても、あっという間に解除キーを解読して、コソコソ隠れて数時間やっているなんて日常茶飯事でした。その度に声を荒げて怒り、コチ丸も不貞腐れながら受け入れるのですが、また数日経てば同じことの繰り返し……。
ゲームにどっぷりのめり込む頃には、コチ丸は小学校に行かなくなっていました。学校に行かない日には「ここまで勉強をしてからしかゲームはやっちゃダメだからね」という約束をして仕事に出ても、会社にいる私のスマートフォンに何度となく入ってくるゲームの解除通知。嘘をついてまでゲームをやっているコチ丸を見ていると「このままゲーム依存になってしまうんではないんだろうか……」と度々不安になりました。
中学受験に突入してもやめられないゲームの時間……。息子の気持ちを信じるしかない……か?
私はフルタイムの正社員だったので、休むこともできず、コチ丸を監視していることもできません。信じてはうまく行かずな日々でした。あの頃の私のイライラの原因の多くは「ゲームを持たせることによってできた約束を守らない」という悪循環から来るものでした。そして、いい加減に同じやりとりに嫌気がさしていた私は「今度やったら真っ二つに折るからね!」というある日の宣言通り、半分に割って敢えなくゲーム機は最期の時を迎えました……。
コチ丸も流石にこれは堪えたのか、しばらくはゲームの話もしなくなりました。が、ちょうどタイミング悪く(笑)クリスマスの前に人気のゲーム機が発売され、周りのお友だちが次々に新しいゲーム機を手に入れていくことに……。記念日にほしいと言われたものはなるべくプレゼントするようにしていたこともあり、再びわが家にゲームブームはやってくるのでした。もちろん、その後も結局、この約束を守らない論争はずっと続いたわけですが、特にハラハラしたのは中学受験の頃でした。
さすがに受験勉強は覚悟を決めて真剣にやっていたコチ丸ですが、どうしても集中しきれず、小一時間もするとゲーム開始。「頼むから勉強してくれ……」と何度となく思いました。しかし、口うるさく言うとせっかくやる気になっている勉強にも影響が出てしまいかねないと、コチ丸の「勉強はもうやったよ」を半信半疑ながらも受け入れるしかない日々が続きました。
付き合い方を変えたら約束が守れるように!私立中学のルールで変わったゲームへの価値観
無事に中学に受かってからは、ゲームとの付き合い方は一変しました。田舎の自宅から中学へ通うには、バスと電車を乗り継ぎ、片道2時間ほどかかります。登下校は一人のため、時間を潰せるものが必要だったこと、さらにコチ丸の選んだ学びの多様化学校は、ルールを守ればゲームの持ち込みがOKだったことで、ゲームの時間を一気に解禁することにしました。
学びの多様化学校は、さまざまな理由で学校に通えなくなった子どもたちを受け入れている学校です。子どもたちの個性・特性を尊重した独自の学習カリキュラムのため、基本的に宿題もなく、帰ってきてから寝るまでコチ丸はずっとゲームをやっていました。学校では、文化祭や学校の行事としてゲーム大会も開催されており、たくさんの生徒が参加していました。家に帰ってきてからも友だちとオンラインゲームを通して通信でしゃべりながら遊ぶため、友だちとのコミュニケーションにもゲームは必要不可欠だったのです。
小学校時代の厳しいルールから一転、「ごはんの時間はやらない」「夜は10時まで」と言う2つの約束だけになったことで、コチ丸は約束を守ってくれるようになりました。私もまた、ガミガミ言う必要もなくストレスも減り、喧嘩もなくなりました。
また、ゲームをやっていくうちに探究心の強いコチ丸は自分もゲームをつくりたいと思うようになり、ゲーム制作を学べる学校を進路に決めました。3Dも習い始め、自分で3Dのキャラクターもつくれるようになり、ゲーム業界に自分の進路を考えるようになりました。
以前に読書を通して、実際に経験してみたいという思いになり、多くのことを体験できたという話を書かせていただきましたが、興味が多いコチ丸が、自分のやりたいこと、行きたい世界に行けるゲームはとても楽しいツールだったと思います。異世界で戦ったり、車の運転・整備をしたり、船に乗ったり動物を育てたり……自分の視野が大きく広がったのもまたゲームがあったからでした。
上手に付き合えばゲームも子どもを大きく成長させるツールに。でもやっぱり限度を決めるのは難しい……
コチ丸は最近、帰省するとカーレースを見に行ったり、自分も実際にカートに乗ってみたり……。なんで突然そんなことをしはじめたのかと思ったら、ゲームでずっと車の改造などをやっていたからでした。
発達障害の特性でもある、興味のあることにのめりこむ姿勢はここでも活かされ、ゲームをするだけでなく、この車を改造するためにはどんな道具が必要だとか、なんでこんなに早く走れるのか、とか自分で研究してきたようです。また、最近のゲームはとてもリアルなので、そういう細かいところまで緻密につくられていて、調べたことを実践する探究心を満たしてくれるものも多いようです。そう思うと、全てを否定するのはもったいないなと私は思っています。
車のゲームにハマって実際にプロのレーサーになった方もいるそうなので、ほどほどに、も大切ですが、「これをやったら伸びるかも」と思ったら、気が済むまでやってみるのも良いのではないかなと思ったりします。
また、学びの多様化学校では、文化祭で自分のつくったものを展示するスペースに、子どもの作品とは思えないほど見事なテレビゲームをつくってしまう生徒さんをみる機会もあり、年齢関係なく、「好きなことを極めることは大事」で、大人は、その子に向いていると思ったら、徹底的に与えてあげる環境をつくることも大事なのだなと感じました。もちろん見極めも覚悟を決めるのも難しいですが……。
結局、コチ丸はゲームを学ぶ学校へは進みませんでした。馬を育てたいと言い出し、突然の進路変更(笑)。ですがなんとなく、ゲームをやったり、実際につくってみたり、ゲームを学ぶ学校へ体験入学に行った時間は無駄ではなかったと思っています。どの道へいくにせよ、そういったプロセスが必ず役に立っていて、巡り巡っていつか思いもよらなかった仕事に結びつく……なんてこともあるかもしれないと思うと、「選択肢はたくさんあったほうが良い」と私は思っています。
執筆/あき
(監修:初川先生より)
コチ丸くんとゲームの付き合い方の歴史についてのエピソードありがとうございます。ゲームとどう付き合っていくか、悩ましく思っている保護者の方は多いですね。さて、コチ丸くんは小学生の頃、ゲームの使い方をめぐってあきさんと揉めてきたとのこと。本当に真っ二つにゲーム機を割られたのですね(びっくりしましたが、大げさに言うのではなく大人の本気が伝わった面はありますね)。
発達的な特性の強めの子は、何かにのめりこんだ際に「おしまい」にするのが苦手なことが多いです。そういう意味では、幼児期の頃から、時間を決めてゲームを認め、時間が来たら「おしまい」にする練習をしたほうがよいとも言われています。小学生ともなると、友だちとの関係や勉強に対するわずらわしさなども相まって、より一層ゲームにのめりこみやすくなる状況が生じることが多いようにも感じます(多くの子にとって家庭での学習はのめりこむほどのものではないため)。ゲーム機側の時間制限などを使い、そうした制限の壁をときどき突破する子もいるので、折々にパスワードなどを更新しながら親子で攻防戦を続けてどうにか対応されているご家庭が実際のところは多いのではと感じます。
コチ丸くんの場合には中学校に入ってゲームとの付き合い方が変わったようですね。学びの多様化学校(不登校特例校)に入学したことで、その学校でのゲーム使用ルールがゆるやか(というか、子どもを信頼した形)だったというのもありますし、ゲームを楽しめる仲間たちにも囲まれて、日常生活が豊かになるというゲームの側面が色濃く出てきたことがよかったように感じます。ゲームといえば遊び道具で怠けにつながる悪の物としてとらえる大人はまだ多いですが、ゲームによって得られるものもあるわけで、そちらがコチ丸くんの中学生活では発揮されたようですね。家庭での学習を前提としない枠組み自体もご本人に合っていたのかもしれませんが、そもそもベースとして充実した生活の中で、ゲーム時間を細かく決めずともやっていける土台ができたようにも感じました。
高校以降にゲームを学ぶ・プログラミングを学ぶ学校やコースを選択したり、実際にそうした大会に出て見事な成績を収める子もいます。ゲームだからと侮らず、本人が飽きることなくのめりこめるだけのものであれば、何かしら本人の強みと合致している面がある可能性もあります。ただ、負けた際に荒れる・暴れる、あるいは寝食を忘れてのめりこみ健康面が心配等あれば、ぜひ相談機関や医療機関にご相談していただければと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。