ゴールデンウィークに観たい特撮「仮面ライダー」最初は “帰ってきたウルトラマン” に惨敗
「ウルトラシリーズ」と「仮面ライダーシリーズ」
先ごろ、2つの世界線が交わるビッグカップルが誕生した。
『ウルトラセブン』でアンヌ隊員を演じたひし美ゆり子サンと、『仮面ライダーアマゾン』で主人公・山本大介を演じた岡崎徹サンが結婚したニュースである。2つの世界線とは “ウルトラシリーズ” と “仮面ライダーシリーズ” のコト。僕の知る限り、過去にその2つが交わったケースは、初代『ウルトラマン』で科学特捜隊のムラマツ隊長に扮し、その4年後に『仮面ライダー』で立花レーシングクラブの “おやっさん” こと立花藤兵衛を演じた小林昭二サンしかいない。
ちなみに、岡崎徹サンってどんな方だっけと、昨日『仮面ライダーアマゾン』の1話を見返したら(おそらく本放送以来だから50年ぶりだ)、主人公がアマゾンで育った野生児で日本語が喋れなかったり、従来のライダーの派手な立ち回りやキックではなく、敵の怪人の腕をもぎ取り、噛みつくなどの地味な戦い方だったり、何より普段着が上半身裸に腰みのという、あられもない姿だったり、何もかもが斬新だった。岡崎サンが『仮面ライダーアマゾン』の2年後に俳優業を引退したのも、もしかしたら、その辺りの斬新すぎる設定が影響したのかもしれない。
ただ、『仮面ライダーアマゾン』のデザインのベースは従来のバッタではなく、アマゾンに生息するマダラオオトカゲやピラニアとも言われ、そのグロテスクな風貌から、どちらかと言うと、スパイダーマンやハエ男の世界観に近い。今、リメイクしたら、案外イケるかもしれない―― と思っていたら、既に2016年に “リブート” されていました。テヘッ。
1号だけじゃない、仮面ライダーシリーズの原点
そんな次第で、今回のテーマは “仮面ライダーシリーズ” の原点、第1作の『仮面ライダー』(NET系 / 現:テレビ朝日系)である。誤解されがちだが、同作品は “仮面ライダー1号” だけの話じゃない。“2号” も含んで、オリジナルの『仮面ライダー』となっている。庵野秀明監督の映画『シン・仮面ライダー』が、主人公・本郷猛(池松壮亮)の1号の話だけじゃなく、一文字隼人(柄本佑)の2号まで含んでいるのは、オリジナルへのオマージュである。
とはいえ、普通、主人公が代われば、タイトルや主題歌も一新され、新番組として再スタートするもの。なぜ、そのまま進んだかというと、有名な話だけど、撮影中に本郷猛を演じる藤岡弘(現:藤岡弘、)サンがバイク事故を起こして、入院したからなんですね。それが第9〜10話の撮影中。仕方なく、11〜13話は使用済みの藤岡サンのカットに、納谷六朗サンがアフレコで対応。藤岡サンは1クール(13話)で降板となり、急遽、佐々木剛サン扮する一文字隼人の “2号” にバトンタッチされたんです。
その後、藤岡サンは懸命なリハビリもあって、半年ほどでケガが完治。そこで “お試し期間” として、ゲスト出演するWライダー編を何話か挟み、晴れて第5クール(53話)から “新1号” として復帰。そのまま98話の最終回までやりきったというワケ。
整理すると――
▶ 01話~13話:旧1号ライダー編
▶ 14話~52話:2号ライダー編
▶ 53話~98話:新1号ライダー編
―― となる。で、興味深いコトに、この『仮面ライダー』全98話のうち、視聴率も安定して高く、世に “変身ブーム” を巻き起こし、オープニングもエンディングも皆の記憶に強烈に残っているのが、急場しのぎで作った一文字隼人の “2号ライダー” 編なんですね。実際、僕自身もリアルタイムで記憶にあるのが2号ライダーから。保育園時代、変身ポーズも散々真似したし、ライダーの似顔絵もよく描いた。ちなみに、当時よく一緒に砂場で絵を描いていたのが親友の奥浩哉くん。後の漫画家――『GANTZ』の奥浩哉先生だ。
主人公はオートバイに乗るヒーロー
ここで、『仮面ライダー』の成り立ちの話を少し。面白いコトに、その建て付けは、ライバルである『ウルトラマン』とは対照的である。あちらは、民放の雄と呼ばれたTBSと映画界の王道を行く東宝が出資する円谷プロのペアに対し、こちらは関西の毎日放送と任侠路線の東映が組み、全国ネットは民放4番手、当時のNET(現:テレビ朝日)という座組。あちらが高度経済成長期真っただ中に企画され、夢のあるSF作品だったのに対し、こちらは公害問題などで高度経済成長に陰りが見えた時期に企画され、当時流行りの “スポ根” の要素が取り入れられたという。
同作品の生みの親のひとり、東映テレビ部の平山亨プロデューサーは、『柔道一直線』(TBS系)のヒットで知られる御仁である。昭和45年秋、毎日放送から発注された翌年スタートの子供番組の企画を練るため、ウルトラシリーズを書いた市川森一と上原正三の両人を呼ぶ。そして、市川サンから出たアイデアが、主人公は “逃亡者” というものだった。
さらに、原作者として石森章太郎(当時)も招聘し、石森自身の発案で、彼のライフワークである『サイボーグ009』の設定が一部流用される。いわく、主人公は悪の組織によって改造人間になるが、正義のために組織から逃亡。以後、組織から放たれる敵役と戦う―― プロットが完成する。よく『仮面ライダー』は『タイガーマスク』を参考にしたと言われるが、正しくは『タイガーマスク』の前から存在した『サイボーグ009』の流用、いわばセルフカバーである。
その後、市川・上原両人が同じ時期(昭和46年4月)に始まる『帰ってきたウルトラマン』(TBS系)に参加するために脚本チームを抜けたり、毎日放送から “主人公はオートバイに乗るヒーロー” という条件が付加されたり、主人公は “仮面” を被るアイデアが生まれるも、そのデザインが二転三転したり――と紆余曲折あるが、最終的に石森先生が描いたバッタをモチーフにした、ややグロテスクなデザインで決定する。
ちなみに、今でこそ原作漫画をドラマ化(アニメ化)する流れは当たり前だけど、かつてはドラマ化(アニメ化)と同時に、原作漫画を描き始めるケースも割とあって(『宇宙戦艦ヤマト』もこのパターン)、石森先生はそのパターンが多かった。彼が “漫画家でありながら、プロデューサー的視点も持っている” と評されるのは、そういうコトである。
初回の視聴率は「帰ってきたウルトラマン」に惨敗
昭和46年4月3日、土曜日19時半―― 原作:石森章太郎、制作:毎日放送 / 東映で、『仮面ライダー』(NET系)が始まった。ちなみに、前日にスタートしたのが、TBS系の『帰ってきたウルトラマン』である。主人公のライダー役には、アクションもできる藤岡弘が起用され、彼は自らスーツアクターもこなし、主題歌も歌った。
迫るショッカー 地獄の軍団
我らをねらう 黒い影
世界の平和を守るため
ゴーゴー・レッツゴー 輝くマシン
主題歌「レッツゴー!! ライダーキック」は作詞:石森章太郎、作曲:菊池俊輔。お世辞にも藤岡サンの歌は上手いとは言えなかったが、なんとも味があった。主人公・本郷猛は城南大学に所属する優秀な科学者で、一流のオートレーサーでもある。ある日、世界征服を企む悪の組織 “ショッカー” に拉致され、改造人間にされてしまうが、脳を改造される寸前に脱出。以後、正義のためにショッカーと戦うことを決意する。
記念すべき第1回の怪人は蜘蛛男。ライバルの『ウルトラマン』とは違う、等身大のヒーローと怪人の戦いは、リアリティにあふれ、見応えがあった。しかし、肝心の仮面ライダーのややグロテスクな風貌や、世相を反映した暗めな作風は、子どもたちの支持を得るまでには至らなかった。関東地区の初回視聴率は8.1%。ライバル『帰ってきたウルトラマン』の初回視聴率26.4%の3分の1以下と惨敗だった。
令和まで続く仮面ライダーシリーズが生まれた瞬間
だが、世の中、何が起きるか分からない。前述の通り、藤岡弘サンが撮影中に事故に遭い、急遽、2クール目から一文字隼人の2号ライダーに改変される。その際、東映の平山亨プロデューサーは、毎日放送の幹部や脚本家陣の “1号は殺してしまってもよいのではないか” といった意見に “子どもたちの夢を潰すのはよくない” と強硬に反対。本郷は海外のショッカーを追い、緑川ルリ子と共に海外へ赴任した設定にして、“1号復帰” の余地を残した。この瞬間、令和まで続く仮面ライダーシリーズが生まれたのである。
2号ライダーになった第2クールから『仮面ライダー』はいくつかの修正が図られた。
① ライダーの視認性を上げるために、明るい色調のデザインに変更する。
② 女性レギュラー陣を増やし(それまでの島田陽子に加え、山本リンダらがココから加入)、コメディタッチの明るい作風に。
③ 相棒役の滝和也をレギュラーに定着させ、彼が得意とするアクションシーンを増やす。演ずる千葉治郎は、あの千葉真一の実弟である。
④ 立花藤兵衛をスナックの経営者から立花レーシングクラブのオーナーに変更。ライダーをサポートする彼の立ち位置を明確に。
⑤ ライダーの変身シーンをそれまでのバイクでの走行中から、変身ポーズに変更する。
⑥ 主題歌の歌唱を藤浩一(後の子門真人)に。
―― 結果、これらの改変効果もあり、視聴率は関東地区で15%前後に跳ね上がり、3クール目には20%の大台に乗る。子どもたちの間でライダーの変身ポーズが流行り、ライダーベルトやソフビ人形など、関連グッズも爆売れした。主題歌のレコードは130万枚のミリオンセラーとなった。気が付けば、世間は『仮面ライダー』を『帰ってきたウルトラマン』のライバルと呼んでいた。
2つの世界線が生まれた瞬間である。