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「殺人も怪しい宗教もやりたい放題」な無法ネトゲ世界に潜入した衝撃映像!『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

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「殺人も怪しい宗教もやりたい放題」な無法ネトゲ世界に潜入した衝撃映像!『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

それはゲームか現実か

マンガやアニメだけでなく、近年はビデオゲームのドラマ・映画化も珍しくなくなったが、実際にプレイヤーとしてゲームに参加した様子を丸っと映画にしてしまったという例はあまり聞いたことがない。11月30日(金)より公開中の『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』は、いわゆるオープンワールドのオンラインゲームに963時間にわたって“潜入”した撮影クルーが、そこで目にした様々をレポートするドキュメンタリー映画だ。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

狂った“島”にようこそ~仮想世界に潜入インタビュー~

オンライン上の架空の島で繰り広げられるサバイバル・ゲームの世界に潜入インタビューを敢行したエキエム、ギレム、カンタンのフランス人クルー。3人はそれぞれインタビュアー、技師、カメラマンの役割を担い、自らもサバイバルしながらアバターたちに遭遇を試み取材を重ねていく。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

仲間の〈死〉を悼む人、純粋に〈殺人〉を楽しむグループ、コミュニティをつくり定住しているグループ、現実逃避のために毎晩やって来る人、アバターたちの信仰の拠点となっている教会……。多様な人やコミュニティを目撃し、ネトゲの世界の奥深くへと入っていく3人。ある時、ゲームの“バグ”とも言える光景を目にした彼らは、やがて出会ったアバターたちとともに、この架空の“島”の果てを探す旅へと繰り出す――。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

小学生からお年寄りまで? 現代ゲームカルチャーの本流

本作の舞台となるゲームは、2013年にリリースされたチェコ発のゾンビサバイバルアクション「DayZ(デイジー)」。架空のNIS(元ソ連構成国)を舞台に、武器や食料などを手に入れつつ、謎のウイルスにより増殖したゾンビと戦いながら生き延びる……というのが基本設定だ。もちろんプレイヤー同士で協力することもあれば敵対することもあるのだが、そのへんはこの手のゲームに触れたことがあれば馴染み深いものだろう。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

最近では“なろう系”小説などでもネトゲに端を発する物語が少なくなく、実際世界中のプレイヤーが広大なフィールドとリアルなディテール、どこまでも自由な世界観に魅了され、文字通り寝食を忘れて没入している。それらは一昔前のオタク的嗜好とかネトゲ廃人といったイメージからは逸れ、いまやゲームカルチャーの本流と言っても過言ではないほど幅広い層のユーザーが沼に誘われている。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

オープンワールドとはなんぞや

ゲーム自体に興味がなくても、無法地帯となっている仮想世界に撮影クルーが潜入して……という本作の建付けそのものに惹かれる人は多いだろう。ゲームに長らく触れていないとオープンワールドそのものへの理解が追いつかないかもしれないが、本作を観ればとりあえず、なんとなく把握できてしまうはずだ。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

本作の制作陣は、人気オンラインゲーム「GTA(グランド・セフト・オート)」シリーズを舞台にしたショートフィルム『Marlow Drive』も手掛けている。とはいえ基本的に主人公キャラを操ってミッションをクリアしていくタイプの「GTA」よりも、プレイヤー同士がアバターを通して交流できる「DayZ」のほうが自由度が高く、それゆえにフィールド上では様々な事態が日々発生していたりする。

2022年には“メディアゲリラ”を名乗る<Total Refusal>が、「GTA」の米ロックスター・ゲームによる「レッド・デッド・リデンプション2」の中でNPC(プレイヤー操作対象外のモブキャラ)の挙動をひたすら追ったショートフィルム『Hardly Working』を発表し、いくつかの映画祭で話題になった。細部の作り込みが異常なロックスター作品だから成り立つ作品ではあるが、ネトゲ門外漢が最新ゲームのリアル度を把握するのに分かりやすい題材だろう。

ちょっとヘルツォーク風味? 淡々シュールな仮想空間ドキュメンタリー

そもそもオープンワールドは“何でもできるし、何もしなくてもいい”というのが最大の魅力だった。「DayZ」もゾンビ退治は基本設定の一つでしかなく、エキエムら撮影クルーも“撮影を目的とする人たち”としてゲームに参加している。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

クルーが雄大な風景のなかで個性的なアバターたちをせっせと取材する様子は、どこか“ヴェルナー・ヘルツォークみ”がある。デジタルアバター独特の唐突なモーションなんかも、ヘルツォークの『世界の果ての出会い』(2007年)で見た、“なぜか山に向かって走り出す奇妙なペンギン”のようだ。

ゲーム内で接触するプレイヤーたちは、それぞれ自由な世界を満喫している。<深夜の闇(Dark as Midnight)>というコミュニティを率いるアイリスは、「殺しは私たちの日課」と嘯く快楽殺人集団。カウボーイハットがトレードマークのストーン牧師は、オオカミのような神<ダゴス(Dagoth)>を信仰、布教しているらしい。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

ダゴスといえば、神話アクション映画『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2』(1984年)や、マーベル・コミックではドクター・ストレンジの敵として登場する怪人堕ちした古代神の名だ。もちろんH・P・ラヴクラフト作品の<ダゴン>も想起させるが、人気ゲーム「サイレントヒル」のアメコミ版に登場する同名の牧師との関係は不明。ともあれゲーム内にはそうした共同体が現実さながらに存在し、日夜せっせと活動している。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

私たちはこういったゲーム世界を便宜上“仮想現実”と呼んではいるものの、当然ながらプレイヤーたちの背景はそれぞれで、アバター同士とはいえ交流するうちに個々の抱える現実がじわりと滲み出ることもある。なかにはゾンビと戦うゲームよりも、むしろ現実世界のほうが“サバイバル”に近いと感じている人もいるだろう。まさに虚実皮膜というか、仮初めの自由を得た人々による本音の社会を取材という建前を通して覗き見るような、なかなか得難い体験をさせてくれるドキュメンタリー作品だ。

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』

『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』は2024年11月30日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開中

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