暴言で子どもの脳が萎縮する? サッカーにも学力にも悪影響しかない理由
好ましくないことだとはわかるものの、子どもたちに酷い怒声を浴びせる指導者は今もいるのが悩ましいところです。とはいえ、暴力や暴言が具体的にどうよくないのか、科学的な根拠はわからない人は多いはず。
子どもに与える悪影響は脳科学的にどのようなことがあるのか、東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授にお話を伺いました。
(取材・文:小林博子)
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■暴言は暴力と同じ「凶器」になる
日本サッカー協会(JFA)が掲げる「リスペクト宣言」の中には、暴力や暴言を根絶する事項が盛り込まれ、今から11年前の2013年に暴力等根絶相談窓口を設置するなど、子どもたちの健やかな成長のため取り組んでいます。
サカイクが以前、日本サッカー協会(以下JFA)リスペクト・フェアプレー委員会に取材させていただいた際には「受ける側からすると暴力も暴言も同じこと。特に年齢が低いお子さんにはダメージが大きいです。暴言は暴力と同等、もしくはそれ以上の凶器になってしまう」という、とても気になるお言葉も......。
子どもたちが受ける「凶器」はどのようなものになるのかについて、瀧教授に伺いました。
関連記事:サッカー界の暴力・暴言指導・ハラスメントの現状とこれから。選手の笑顔を守るためのJFAの取り組み
■「暴言で脳が萎縮する」は本当だった
コーチや保護者から「暴言」と思えるような言葉と態度を向けられることが、子どもの心に大きなストレスを与えることは、いわずもがなです。
そのストレスにより、実際に体の中でどのような変化が起きているかを瀧先生が脳科学的なエビデンスを基に解説してくださいました。
その変化はずばり「海馬の萎縮」です。海馬とは、脳の中で記憶に関わる部分のことで、大きく分けると2つの機能があります。
①記憶
新しい知識やスキルを得たり、短期記憶を長期記憶につなげて、過去の記憶をもとに判断したりする。
②感情のコントロール
感情を記憶として記録し、起こったことに対する感情を理性的にコントロールする。
つまり、その海馬が萎縮すると、記憶力、とくに新しいことを覚えることが難しくなり得るほか、感情のコントロールがうまくできなくなりイライラや不安が大きくなりがちになってしまいます。ちなみに、加齢に伴い海馬は自然に萎縮していきますが、それは30〜40代以降のことと言われています。
■海馬が萎縮すると起こること
なお、海馬の萎縮は1度の暴言で起こるというよりは、慢性的にストレスにさらされていると次第に萎縮していく......というイメージが正解です。
それにより起こる怖いことは、例えば以下のことが考えられます。どちらもそうなってほしくないことですね。
・覚えることが苦手になり、学業成績が下がる
・サッカーで新しい技術を覚えることが難しくなる
■海馬の隣にある「扁桃体」にも影響が
脳の中で海馬がある部分の隣には、「扁桃体」という部分もあります。海馬と密接な関係があり、海馬の萎縮により扁桃体が過活動してしまうという相関性があります。
そうなると、不安が高まる傾向にあることがわかっています。
本来であれば扁桃体が得た不安を海馬が沈めてくれる関係性でもあるのですが、海馬が萎縮して働きが鈍くなるとそれができなくなることが原因です。
不安は誰しもが持つ感情ですが、鎮めるものがないとどんどん膨らんでいく傾向にあるため、海馬の役割は大切なのです。
■「サッカーが嫌いになる」→上達しないという負のループに
ここまでは、脳科学的に暴言をはじめとする慢性的なストレスが子どもの脳に与える事象について解説していただきました。
それらをふまえ、瀧先生がサッカー少年少女に懸念する暴言の影響は「サッカーが嫌いになる」ことだと話します。
サッカーをプレーするには技術はもちろん頭もかなり使うので、覚えられない、イライラする、不安になる、そしていつも怒られる......。
これらが常に起こっていたら楽しくサッカーなんてできません。ストレスを受けることはその原因を避けたいと思うようになるという脳の仕組みも影響があり、結果的に「嫌だ」と思うようになります。
「運動も勉強も、楽しむことはとても大切です。ストレスによってネガティブな影響を大きく受けてしまうと楽しくなくなる。その結果、サッカーのさまざまなスキルの向上を妨げてしまいます。記憶と感情が密接に関わっているからこそ、"好きこそものの上手なれ"とは脳科学的にもはっきりとYESと言える」そうです。
■指導者の暴言やハラスメントに対して、親ができること
暴言などによるストレスが子どもの脳に与える影響は思ったより大きいものです。
とはいえ、指導者の暴言を指摘したり止めさせることは、現実的にはその関係性によるところが大きいでしょう。
瀧先生にそう相談したところ、家庭での暴言からの心のリカバリー方法をアドバイスしてくれました。
子どもがサッカーでストレスを受けて帰宅したら、保護者のみなさんはできる限りたくさん褒めてあげるといいのだとか。お子さんの練習や試合を見に行けたなら、プレーや態度、頑張っていたことを具体的に褒めることを意識してみてください。
褒めるポイントがわからないなら、1日頑張って帰宅した子どものその1日を労い、認めてあげるといいそうです。それにより、子どもが日中外で受けたストレスを家庭でリリースできるようになります。
でも、「褒める」って難しい......。そうお思いの方のために、上手な褒め方の心得も伺いました。後編で詳しく解説します。
瀧 靖之(たき やすゆき)教授
東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長および加齢医学研究所 臨床加齢医学研究分野 教授。医師。医学博士。東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳のMRI画像は、これまでに16万人に上る。10万部を超えたベストセラー『生涯健康脳』(ソレイユ出版)、『回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣』(青春出版社)など著書多数。
東北大学スマート・エイジング・カレッジ
https://www.sairct.idac.tohoku.ac.jp/prof-yasuyuki-taki/
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