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ファルコンだったサム、キャプテン・アメリカになったサム。最新作はMCUシリーズの新たなる基盤に

SASARU

『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(25)が公開され、3週間が経過した。日米同時公開した本作は、日本国内の興行収入が10億円突破し、ハリウッド大作の動員が不振の昨今、外国映画の盛り上がりを牽引している作品のひとつだ。
マーベル実写映画の中で『キャプテン・アメリカ』シリーズは比較的リアリズムなトーンである。今作も政治サスペンスが軸かつアクションが痛快で、誕生してまもないサムのキャプテン・アメリカが活躍するメインストーリー。登場するメインヴィランはレッド・ハルク。本編尺が2時間を切るなど作品全体のプロットは極めてシンプルで、マーベル・シネマティック・ユニバー ス(以下「MCU」と表記)シリーズの復習をしなくても参加しやすい映画に仕上がっている。一方、冒頭のマーベルのロゴモーションやエンドクレジットのおまけ映像など、いつものファンサービスが控えめな一面も。なお、本作はIMAX®認証デジタルカメラで撮影されているため、IMAX®シアターで鑑賞することをオススメ!!

ファルコンだったサム

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』 ディズニープラスで配信中 (C)2025 MARVEL

サムは常に他者を助けようとする強さがあるキャラクター。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14)で初登場したときは、既に除隊後で退役軍人省で働き、PTSDなどに苦しむ退役軍人たちの支援をしていた。朝のランニング中、初代キャプテン・アメリカこと「スティーブ」と出会い、ファルコンとして、良き友人として関係していく。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)のラストでは、過去に戻り、自分の人生を謳歌したスティーブから、キャプテン・アメリカの象徴である盾を託され、「借り物みたいだ」と言いつつも受け取る。一方、テレビドラマ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(21)では、米国における人種差別の歴史を考え、アフリカ系アメリカ人である自身が星条旗を纏うヒーローを背負っていいのか葛藤する姿もあった。キャプテン・アメリカというのはある意味国家の象徴。今作でも重要なキ ーパーソンの1人「イザイア」が受けた差別的な境遇を踏まえても、アメリカという社会が「黒人のキャプテン・アメリカ」を受け入れるのか不安になっていた。

しかし、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(25)は、これらの葛藤を乗り越えたサムが“真の2代目”キャプテン・アメリカとして生きていくことを決意した後の物語である。『スパイダーマン:ホームカミング』(17)のピーター・パーカーのようなヒーロー誕生を描いている。そういう意味では濃厚なMCUシリーズにおいて「新しい基盤」「次のフェーズの原点」という名にふさわしい一作。ココから観始めても大丈夫な映画になっていたと思う。

キャプテン・アメリカになったサム

(C) 2025 MARVEL.

MCUはほぼ超人ばかりだが、サムは超人血清を打っておらず、スーパーヒーローと共に戦ってきた常人(私たちと同じ普通の人間)である。魔法が使えたり、皮膚が強固だったりと特殊な能力があるわけではないので、自分の身を守りながら脅威と向き合わなければならない。その中で鍛え抜いた肉体と頭脳戦で、スーパーヒーローですら苦戦するハルクへ挑む姿は勇敢であった。
『ブラックパンサー』(18~)の故郷・ワカンダ共和国[※1]で産出される“超絶頑丈な”金属 「ヴィブラニウム[※1]」製の翼で空を舞い、時には同性能の盾で身を覆いながら、多くの者・事を守る空中戦は、轟くサラウンドと大きなスクリーン映えする時間だった。

以前は、初代キャプテン・アメリカやアイアンマンといったスーパーヒーローのリーダー格がいたが、今は違う。次の危機に備えて、新しいチームを結成しなければならない。サムは、MCUシリーズを牽引していく新しいヒーローであり、新しいリーダーになっていくのであろう。これは新しい「アベンジャーズ」への布石。26年公開予定の『アベンジャーズ ドゥームズデイ』 が楽しみだ。

新しい資源をめぐる国際規模の政治サスペンス

(C)2025 MARVEL.

『エターナルズ』(21)[※2]の終盤で出現した巨大なティアマット(某作品の巨人兵みたいなヤツ)。その頭部と左手が“島”としてインド洋で凍結・露出したままで、MCU内では暫く触れられてこなかったネタだったが、この度本編冒頭から登場する。しかも、島内から超金属「アダマンチウム[※1]」が初めて発見されたというのだ!!
この金属は前述した「ヴィブラニウム」よりも強固で破壊不可能な物質。実は『X-MEN』シリー ズ(00~)のウルヴァリンの爪・骨格と同じ金属である。ロス米国大統領は、「科学」「医療」「防衛」に応用できると言及している。MCUの世界に突如現れたこのネタも今後のシリーズ展開の伴になる可能性が高い。

そして、この金属をめぐり、国際問題の中心で描かれるのが日本国である。あまりにも米国に対して強気な尾崎総理の姿にSNSを見ると戸惑った方も多いらしいが、映画の世界は、宇宙の半分が消滅したサノスの“指パッチン”を経験した世界だ。現実世界とは違う世界情勢があったのかもしれない。どちらにせよ、「アダマンチウム」がインド洋に現れた以上、この資源に絡んだ日本国の存在が、以後のMCUで強く絡んでいると期待したい。
きっかけこそファンタジーだが、地球や銀河の終わりを解決するガーディアンズやソーと違い、このような政治的なテイストは現実的に存在していそうな課題へ直面しているキャプテン・アメリカらしいエンターテイメント性である。

※1:「ヴィブラニウム」「アダマンチウム」は作品中の架空の金属。「ワカンダ共和国」は作品中の架空の国家。
※2:『エターナルズ』(21)は 7000 年も前より宇宙的規模の脅威から地球を見守ってきた10人の守護者たちの話。監督は第93回アカデミー賞に作品賞など受賞した『ノマドランド』(21)のクロエ・ジャオ。

サムのまわりのキャラクター

(C)2025 MARVEL.

「サディアス・ロス」
今作で存在感があるキャラクターは、ロス米国大統領だ。彼は、『インクレディブル・ハルク』(08)から米国陸軍将軍(兼バナー/ハルクの恋人?・ベティの父親)として登場し、その後は国務長官になり、アベンジャーズを国連の管理下にする「ソコヴィア協定」を通達しにきたりと保守的なキャラクターだった。しかし、大統領選に伴い、髭を剃り、ス ーパーヒーローの1人であるサムへ友好的な雰囲気を出すなど、すっかり政治家に。だが、根は軍人かつ現場主義のままのようで、護衛官が止めても戦闘地域や相手国へ外交下手でも出向く。案の定、良いことは起こらない。そして、皮肉にも自らも超人(レッドハルク)になってしまう。

「イザイア・ブラッドリー」
米ソ冷戦時代、米軍が黒人兵士数名に試作段階の超人血清を投与し、唯一、十分な効果が現れた1人。しかし、命令違反をしたことを理由に30年間、身柄を拘束され、人体実験をされ、孫と隠遁生活を送る。政府への不信感からサムへ忠告するが最終的には彼の決意を認める。
その後、サムはキャプテン・アメリカの展示にイザイアの銅像を加え、貢献を歴史の表舞台に戻した。そして、本作では笑顔のイザイアが登場する。亡き愛する妻がくれたスーツでオシャレし、招待された大統領のサミットへリムジンで向かう姿だ。どうやら、スマートフォンは苦手なようだが…。そして、会場で事件が起き、状況は一変する。

キャプテン・アメリカは名誉と勇気と犠牲の物語、悲劇は繰り返されてしまうのだろうか?

『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』の基本情報

(C)2025 MARVEL.

■監督:ジュリアス・オナー

■製作:ケヴィン・ファイギ

■出演:アンソニー・マッキー/ダニー・ラミレス/リヴ・タイラー
ジャンカルロ・エスポジート/ハリソン・フォード 他

■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

■公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/captain-america-bnw

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