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ITスタートアップ、この夏“資金尽きる”企業が続出か「承認欲求より“商人魂”がある企業は生き残る」

エンジニアtype

ITスタートアップ、この夏“資金尽きる”企業が続出か「承認欲求より“商人魂”がある企業は生き残る」

最近HOTな「あの話」の実態

「あと3か月で資金が尽きる」―― つい数年前まで、大型の資金調達で界隈を湧かせていたスタートアップの多くが、実は黒字化できておらず、この夏、資金的“タイムリミット”を迎える企業がバラバラと出てきそうです。

熱狂から一転、なぜこんな事態に?
スタートアップに身を置くエンジニアはもちろん、
今後スタートアップへ転身したい人はどう判断すべきなのか?

冬の時代でも強いスタートアップの見極め方なども含め、考察してみたいと思います。

博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(

@makaibito

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる

まず「スタートアップの定義」をおさらい

前提として、今回お話する「スタートアップ」の定義は、エクイティファイナンスありきのビジネスモデルを展開する企業を指します。

エクイティファイナンスとは、優れたコンセプトを基に投資家から資金を調達し、その対価として株式を提供する仕組みのこと。

万が一、事業が破綻しても借入金ではないため、起業家が抱えるリスクは少ないことが特徴です。J字カーブと言われますが、最初の段階で赤字を掘ってでも投資をし、良いスタッフを集めてPMFを実現し、うなぎ登りの事業成長をするというやり方です。

逆に、投資家から資金調達などはせず、自分たちのお金や銀行からの借り入れ(デットファイナンス)を中心にして、利益は少なくとも着実に売上を積み重ねていく、いわゆるスモールビジネス型の経営手法と比較すると違いが分かりやすいかもしれません。

そのスタートアップへの投資がピークに達したのは2021年でした。コロナ禍の金余り現象という追い風を受け、代替投資先としてスタートアップ投資が、世界的にも活況を呈していたのです。このブームの最中には、もはや「なんとなく」資金調達している企業も見受けられるほど、比較的容易に潤沢な資金を調達できていた印象さえあります。大学発ベンチャーでも数千万円の資金を得ることは珍しくありませんでした。

特に、東京や福岡では、根回しの上手い元CFOなどが資金調達の主導権を握るのが王道として確立し、まとまった資金が気軽に動く時代でもありました。スタートアップ投資が最も盛んだった2021年には、「どんどんお金を使って社員を採用しなさい。そして事業を加速させなさい。足りなくなったら追加するので言ってください」と豪語する投資家も見られたほどです。

黒字化できている企業は「ごくわずか」

そんなブームから数年。熱狂は終焉を迎え、現在は静かな淘汰が始まっています。潮が引いたように資金調達の勢いが鈍化し、選別マシーンにかけられたかのように、投資家の目が厳しくなっているのです。

2023年にSVB(シリコンバレーバンク)が破綻する頃には「赤字があると怖くて投資ができない。固定費を減らして黒字化したら投資を検討します」と180度言うことが変わりました。ここで言う固定費の削減は人件費の削減がいの一番に上がります。これを受けて社員数を減らすスタートアップは多数ありました。

米国も日本も、投資額の水準こそ2019〜20年レベルに戻ったものの、件数は明らかに減少。AIなど、一部の有望分野に光が当たる一方で、かつてもてはやされたSaaSなどの分野では、投資機会が急激に縮小しているのが現状です。

エクイティファイナンス、すなわち株式投資を主な資金源とするスタートアップにとって、投資を受けた後のサバイバル期間は、およそ12〜18ヶ月とされます。その間に目に見える成果を出し、次なる資金調達に繋げなければ、たちまち資金ショートという事態が現実味を帯びてきます。

ご存じない方も多いかもしれませんが、実は、あのスタートアップブーム期に資金調達を実現した企業のうち、黒字化を達成できている企業はごくわずかなのです。それは一体なぜなのか? それは、本来であれば収益化が見込めない事業にまで資金が流入したことが主な要因と考えられます。

そして今、2025年の夏を目前に控え、多くのスタートアップが文字通りの「正念場」、資金的な存続の瀬戸際に立たされているのです。

逆風!「上場基準の引き下げ」の衝撃

そんな中、追い打ちをかけるように報じられたのが、「東証グロース市場の再編案」のニュースです。

上場後5年経過後から時価総額が100億円未満の企業は上場廃止となる新基準(現行は上場10年経過後から時価総額40億円以上)が示され、企業、そして従業員にとってさらに厳しい環境となることが予想されます。

東京証券取引所 上場部「グロース市場における今後の対応」参照

特に、手掛ける事業の市場規模そのものが「100億規模もない」未上場企業はまさに崖っぷちに立たされたと言っても過言ではないでしょう。

実際、40億円規模の市場はあっても、その倍以上の規模がない業界は決して珍しくありません。これから上場を目指す企業の中には「ストーリーだけで時価総額を100億円にして欲しい」と高年収提示でCFOスカウトをしているところもあるほどです。

ましてや、ニッチな領域に特化している場合などは、構造的に大きな利益を出すこと自体が至難の業であり、ビジネスモデルの根幹からの見直しが必要なケースも多いでしょう。そうなると「自力での成長」という選択肢は狭まり、必然的にM&Aによる資本提携しか選択肢がなくなってきます。

それが今増えている、スタートアップとナショナルクライアントとの資本提携(による資金確保)です。

「最近のスタートアップのEXIT手段としてM&Aが圧倒的多数を占めており、今後もこの傾向は強まるでしょう」(久松さん)

とはいえ、M&Aは必ずしも未来を約束するものではありません。というのも、買収後の「ロックアップ期間」は、社長は在籍していても実質的な権限を失い、社員は「誰の指示に従えばよいのか」という混乱に陥ることが往々にしてあります。そのロックアップ期間終了後も、会社がどんな方向に舵を切るのか、不透明なままであることが多いからです。

ポストスタートアップや時価総額40億円以下の企業で働くエンジニア、中でも現在の働き方にこだわりをもつ人などは、このような環境変化への適応を迫られることになるでしょう。

事実、待遇面でも、スタートアップの冷え込みが見て取れます。現在の市場環境において、給与の上昇が見込みにくい状況なのです。特に2021年のスタートアップバブル期に好条件で迎え入れられたエンジニアたちは、今、待遇見直しの圧力が高まっています。

個人にせよ、組織にせよ、掲げている目標を達成できない場合、「バリュー不足」と評価され、給与が大幅にカットされるケースが増えているのです。特に数字として現れやすい営業職ではこうした歪が見られます。

ただし、今スタートアップに身を置く人が「転職時に不利に働く」わけではありません。今回の事態は、会社そのものが破綻したわけではなく、あくまで上場廃止という形なので、それ自体はマイナス要因とはなりません。これまでの経験を適切に整理して説明できれば、十分に評価されるでしょう。

冬の時代に生き残るスタートアップの条件

スタートアップには「冬の時代」ともいえる状況ですが、その中でも成長を続けているスタートアップは存在します。彼らに共通する特徴は、大きく二つです。

一つは、「エクイティファイナンスに依存しない経営方針」です。スタートアップ企業の中では少数派で、ともすると薄利多売になりがちな「労働集約型」のビジネスモデルを採用している企業は着実に成長を続けている印象です。資金調達に頼るのではなく、必要な時は銀行から融資を得ることで、安定した事業運営を実現しています。

中には上場を視野に入れる企業も出てきており、地に足のついた経営方針と環境変化への柔軟な対応力をもつことで、持続的な成長が期待できるのです。

二つ目は、「商人(あきんど)魂」です。模範的なJ字カーブによる事業成長よりも「儲かりまっか?」感覚が強く、実直な商いを展開していく経営層がいる会社は、財政面も盤石なところが多いようです。利益に対する執念が、この厳しい市況感を生き抜く鍵になる場面は案外少なくないからです。

例えば、エンジニア出身かどうかに関わらず、柔軟な働き方を重視するあまり、会社の収益性がおろそかになってしまうケースがあります。プロジェクトが遅延していても残業しなかったり、売上は未達にも関わらずCTOは定時退社で副業に勤しむような状況はよく見かけます。

エンジニアにとって働きやすい環境を整えることは重要ですが、会社や事業の成長のためには、フルリモートワークの見直しなど、時にはエンジニアからの反発を恐れずに厳しい決断を下せるリーダーシップこそが、安定した事業運営には必要だったりするからです。

「迷ったら大手を選択」が賢明

「なんとなくイケてる気がする」という甘い期待だけで足を踏み入れるにはスタートアップという選択肢はあまりにも危険です。入社からわずか1〜2年、あるいは数カ月で事業が終了するケースもない話ではありません。

「それでもスタートアップへの入社を検討したいんです」と私が相談されたならば、30代前半で3年以上の社会人経験がある人が「自己責任で挑戦するなら」GOサインを出すでしょう。

しかし、体力的な限界も近づく40代には厳しい道です。先日も4月頭に「入社したら事業がなくなったので転職先を探してあげたい」という第三者の経営者によるX投稿がありましたが、新卒の方にはおすすめできません。

社会人としての基本やビジネスの基礎を学ぶべき時期に、いきなり敗戦処理に直面したり、「教育体制が整っていない」という状況に陥ったりするのはあまりに酷だからです。内定から入社までのタイムラグが大きい新卒では、事業変化に遭うリスクが中途よりも高いことに注意が必要です。

ほぼ100%の確率で「最後から大手を選んでおけば……」という後悔が生まれるため、迷った場合は大手企業を選択するのが賢明だと思います。もちろん、堅実な経営や教育体制で、実績を出しているSIやSESでも良いでしょう。

中途の場合、スタートアップの掲げる「ストックオプション」も魅力的に映るかもしれませんが、創業メンバー以外にとってはそれほどの価値がないため、過度な期待は禁物です。

例えば、創業メンバーが数百億円規模の利益を得る一方で、途中参画したCTOは体を壊すほど働いても3,000万円程度、一般社員では数十万円程度にとどまるケースもありました。

それにストックオプションは、M&A時に買い取られるタイプのものと、ただの紙切れになるタイプのものがあります。一般的にM&Aは完了してプレスリリースが打たれるまで経営層以外はM&Aされること自体が伏せられるため、面接の場で知らされることはまずありません。

現在のようにM&Aの可能性が高まっている状況では、ストックオプションが紙切れになるリスクにより一層の注意が必要といえるでしょう。

そもそもスタートアップは本質的にハイリスク・ハイリターンな博打的要素が高いものです。現在成功している企業でさえ、1000社中3社が成功すれば良いという考えで10年以上前から挑戦を続けてきたりしていることも理解しておく必要があります。

それでもスタートアップに転職したいなら

スタートアップに転職するならば、このような状況を十分理解した上で、他人の評価や著名人の推薦に流されることなく、自分自身の意志で「これは成功する可能性が高い」と確信して入社するのが理想でしょう。

というのも、会社説明の段階では、輝かしい売上やシェアの数字が強調されがちだからです。「右肩上がりで成長している」と説明されても、実際は赤字を垂れ流していたり、粗利が極めて低かったり、ターゲット市場にお金がなかったりする企業も少なくありません。

スタートアップへの入社を考えるなら、公告を元に財務3表を理解できる程度の知識を身につけること。そして、口先だけの「将来性がある」という主張に対して、その真偽を見極められる知識や洞察力を磨くことが必要不可欠です。

ビジネスモデルについても、新しいと謳っていても実は類似モデルが存在していたり、事業の核となるはずのデータが他社からの借りものだったりするケースもあります。事業への感度を高めるために経済ニュースへの関心も必要となります。

選考段階では業績、事業戦略、成長戦略などについて十分な説明を受けるのは当然のこと。それに満足せず、納得いくまで質問し、必要であれば秘密保持契(NDA)を結んだ上で詳細を確認し、「これは成功する」と確信がもてた場合のみ、入社を決断すべきだと思います。

スタートアップの成功を見抜くのは、専門家でも困難ですが、徹底的な分析と、“万が一”をも恐れない覚悟。それを持てる人こそ、大きなチャンスをモノにできるのでしょう。

“引っ張りだこ”になる可能性、なきにしもあらず?

もし仮に、入社したスタートアップの経営が思わしくない結果となっても、その経験は決してムダにはなりません。

0から1、または1から10へのフェーズを経験できることは、運用保守フェーズや成熟した大企業では得られない貴重な機会だからです。そこでむしゃらに取り組んだ経験は、新規サービスの立ち上げや事業拡大など、正解のない状況下で解決策を見出す際に大いに活きるでしょう。

さらに、もしあなたが特定業界の専門知識や、単なるITスキルを超えた付加価値を持っているのであれば、市場から強く求められる人材になれるチャンスでもあります。

結局のところ、スタートアップという荒波を乗りこなすのは、一朝一夕にできることではありません。しかし、そこで揉まれ、不確実性の高い状況を突破した経験やスキルを築いたのならば、もはや大手・スタートアップ問わず、どんな企業であれ「喉から手が出るほど欲しい」、文字通り引っ張りだこな人材になるでしょう。

ここまでの話を踏まえた上でもチャレンジしたい!と強く思えるなら、紛れもなく、スタートアップと相性の良いエンジニアです。さあ、あなたなら挑みますか?

文/福永太郎 編集/玉城智子(編集部)

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