「人付き合いが苦手」な人が、うまく働くコツ【トップビジネスパーソンに聞く】
「人付き合いが苦手」な方は、きっと日々の仕事でもいろいろと悩まれているのではないでしょうか。
「何を話したらいいかわからない」
「同僚やクライアントと話した後は、どっと疲れてしまう」
「新しく人と知り合うことがストレス」
そう感じながら、なんとか頑張ってきた方も多いでしょう。
一説によれば、感受性が強く、職場で周りの人の言動にいちいち影響を受けてしまうと感じる方は、 人口のおよそ5人に1人いるともいわれています 。
HSP(Highly Sensitive Person)、つまり“超繊細な人”という概念です。これはアメリカの心理学者であるエレイン・アーロンの提唱によるもので、もともとの気質や過敏性が強いために、外部からの刺激を受け取りやすく、マインドリーディング(相手の心を先回りして読むような思考)をしてしまいやすいとされています。こうした特性をもつ人は、人間関係のストレスが激しくなりがちです。
かくいう私も、特に人付き合いが得意な方ではなく、人間関係でいつもストレスを貯めていました。 「コンサルタント」という仕事がこんなに人付き合いの重要な仕事だと知っていたら、決して選ばなかったに違いありません。
しかし、社会に出て何年か経つと、ある程度の「人付き合いの型」が見えてくるものです。しかも、コンサルタントという職業は、「人付き合い」に関しての訓練を徹底するため、そのおかげもあって、私は徐々に人付き合いを特別苦手だと感じなくなりました。
(ただし、いまでも別に好きではありません)
そこで今回は、「人付き合いが苦手」な人がうまく働くためのコツを、私の経験を踏まえながら書きたいと思います。
もしあなたが、「人と話すとどんどんMP(精神力)が減っていくほうだ」と感じているのなら、この先の話が少しはヒントになるかもしれません。
「人付き合い」=互いのニーズを満たし合うこと
まず、「どうしたら人付き合いが苦手ではなくなるか」を考える前に、「そもそも人付き合いとはなにか」について考えてみましょう。
敵を知ることは重要です。
辞書的には「他人との交わり」ですが、わたしが仕事を通じて得た、人付き合いの本質は何かといえば、突き詰めると 「互いのニーズを満たし合うこと」 だと定義できます。
仕事なら「この人と一緒に働くと成果が出る」というニーズ
仲間なら「一緒にいると楽しい、ラク、ホッとする」というニーズ
上司・部下なら「指示がわかりやすい・目標を達成しやすい」「サポートが得られる」など
こうして考えると、人付き合いは一方的では長続きしません。あなたが他者のニーズを満たし、相手もあなたのニーズを満たしてくれる。理想を言えば、そんな「Win-Win」の形がいいわけです。
ただ、「人付き合いが苦手」と思う方は、多くの場合、相手に合わせようとしすぎてしまいがちで、自分のニーズを後回しにして疲弊してしまうように感じます。
「気にしい」ゆえにMPが減っていく
なぜならば、「人付き合いが苦手」だと感じる方は、往々にして「気にしい」な方が多いからです。
「相手が今どう思っているんだろう?」
「ここでもっと気の利いた返答をしないと嫌われるかも」
「黙ってるけど、怒っているのかな?」
と、絶えず相手の心理を読み続けてしまう。これは決して悪いことではなく、配慮ができるとも言えます。
しかし、相手の顔色を読みすぎると、精神力(MP)がゴリゴリ減ってしまうのです。たとえばこんなシーンがありませんか?
会議での発言
上司に「意見ない?」と聞かれたとき、「変なこと言ったらどう思われるかな…」と頭がいっぱいになる。
発言の後も「変な空気にならなかったかな…」と気を揉む。
クライアントとの雑談
気まずくならないように一生懸命話題を探して、相手を退屈させないように頑張る。
ミーティング後はどっと疲れる。
社内イベントへの参加
「出たほうがいいのはわかるけど、大勢の場で何を話したらいいかわからない。皆どうせ仲良しグループで固まるし…」と苦痛に感じる。
こうしたシーンでは、どうしても「相手が自分をどう見ているか」が気になってしまい、MPが大量消費されてしまうのです。
会社のオフィス内で誰かがイライラしていると、それを自分への否定だと過剰に捉えてしまい、その後もずっと気持ちが落ち着かないといったケースがあります。
これは認知のゆがみが一因でもあり、相手の感情を“自分のせい”だと勝手に決めつけてしまう人がよく陥る罠です。
また、1対1の面談やチーム会議なども、多くの情報を一度に処理しようとして疲れるあまり、本来のパフォーマンスを出しづらくなってしまいがちです。
その結果、同僚とは良好な人間関係を築きたいのに、逆に会話がおっくうになりがちという矛盾が生まれる場合もあります。刺激過多の状況に身を置くと、さらにストレスが増幅されるからです。
「気にしい」は原則、キャラ変更できない
それゆえに、「人付き合いの苦手な人」は
「もっと人の目を気にしない性格になりたい」
「陽気な人になりたい」
「トークをうまくなりたい」
などと考えてしまうのです。
けれど、これは生まれ持った気質の部分も大きいので、そう簡単には変わりません。
「三つ子の魂百まで」と言われる通り、人の性質はDNAに刻み込まれていますから、
むしろ無理に矯正しようとすると、ストレスが倍増してしまいます。
ではどうすればいいか。
結論は「性格を変えるのではなく、MP(精神力)を管理して、うまく節約すること」 です。
つまり、「人付き合い」を戦略的に、できうる限り絞り込むのです。
具体的に言えば
自分にとってメリットのない人付き合いに、可能な限り時間も気力も割かない。
勝手に寄せられる相手の期待にこたえない。
嫌いな人と一緒にいない。極力時間を共有しない。
このように、相手の期待に応えるかどうかを、自分の中の“メリット・デメリット”でドライに仕分けるのです。
たとえば、こんな方法があります
必要最低限のコミュニケーションだけは確実におさえる
仕事上の連絡や報告はきちんとやる。返事を遅らせない、最低限の挨拶はする。
ただし、無駄に「いい人」を演出しすぎない。雑談を延々と続ける必要はない。
“一緒にいて楽な相手”を味方につける
仕事仲間でも、気疲れしにくい人は必ずいます。
雑談の相性がいい人や、仕事の得意分野を補い合える人、ちょっと愚痴を言っても受け止めてくれる人。こういう仲間を意識的に大事にする。
「嫌な相手」をむやみに相手にしない
一方的に要求ばかりしてくる上司や、傲慢な部下には、下手に愛想を振りまかない。
無駄に話を聞いたり、迎合したりする必要はない。自分がどこまで関わるか線引きする。
積極的に「断る」
飲み会やプライベートの誘いも、苦痛なら「行けません」「今日は都合が悪いんです」と言っていい。
特にあなたのMPが大事な局面(クライアント訪問前や大きなプレゼン前など)では、疲労をためないよう、上手にスケジュールを調整する。
ドライになることに罪悪感を持たない
このように書くと、「ちょっと冷たすぎない?」と思う方もいるかもしれません。でも、 人付き合いが苦手な人にとっては、むしろこれくらいドライなくらいがちょうどいい のです。
実は、経営者やリーダーにも「気にしい」の方は多く、ときには「独裁者」だと思われるほど好き嫌いをはっきり表に出す人もいます。そこまでいくと極端ですが、彼らは自分の性質をよく理解していて、 メリットがない人に無理に合わせないことで、精神的に消耗しないようにしている のです。
「気にしい」の強みを逆に生かす
ここまで読むと、「なんだかドライに振る舞う話ばかり」と思われるかもしれません。でも、本来は「気にしい」の人が持っている “相手の心理を読む力” は非常に貴重です。
相手が何を望んでいるのか察知しやすい
先回りして気を配れる
コミュニケーションの微妙なニュアンスをキャッチできる
こうした強みを最大限に発揮するためにも、「無駄な付き合い」や「理不尽な相手」に振り回されないようにする必要があります。
つまり、自分の持っているリソースをどこに振り分けるか、堅苦しい言葉で言えば 「人付き合い戦略」が重要 なのです。
自分が疲弊しすぎてしまうと、重要な人に向かって、本来の持ち味である“細やかな気配り”をする余裕もなくなってしまいますから。
まとめ:あなたのMPはあなた自身が守る
最後に、改めて「人付き合いが苦手」なあなたがうまく働くコツを整理すると、次のようになります。
気にしいは治らない前提で動く
むしろ、配慮ができる性格は武器だと思うこと
メリットがない人付き合いにはリソースを割かない
メリット・デメリットで人付き合いを判断し、無理に愛想を振りまく必要はありません。
積極的に断る
無駄なイベントや飲み会、ストレスだけを与えてくる相手は積極的に回避する。
集中すべき仕事や付き合うべき相手を明確にする
あなたが成果を出せそうな案件、居心地がいい仲間には積極的に関わる。
“気にしい”の強みを正しく使う
先読みや配慮で、ビジネスでもプラスに転じられる。
「ドライに割り切る」ことは、決して冷たい人間になることを意味しません。「大切な相手や大事な案件に、ちゃんとエネルギーを使うために」リソースを守る、ということです。
あなたのMPが有限である以上、自分を守れるのは自分だけ。周りにどう思われるかが気になるのは仕方ありませんが、結果的に成果を出していけば、周囲の目も変わってきます。
もし今、人付き合いが苦手で仕事がしんどいな…と感じているなら、ぜひ一度 「自分がどこでMPを消耗しているのか」を見直してみてください 。
プロフィール
安達裕哉
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。 品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。 大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」および生成AIコンサルティング会社「ワークワンダース」 の代表として、コンサルティング、webメディアの運営、記事執筆などを行う。
代表著書
『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること(日本実業出版社)』
『頭のいい人が話す前に考えていること(ダイヤモンド社)』
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安達裕哉