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「彼女の父はソ連で処刑された」名匠メーサーロシュ・マールタの息子が語る『日記』三部作【特集第2弾上映中】

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「彼女の父はソ連で処刑された」名匠メーサーロシュ・マールタの息子が語る『日記』三部作【特集第2弾上映中】

<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章>開催中

1975年、『アダプション/ある⺟と娘の記録』で⼥性監督として初めてベルリン国際映画祭の最⾼賞<⾦熊賞>を受賞、アニエス・ヴァルダ、アンナ・カリーナ、イザベル・ユペールら錚々たる映画⼈らからも熱い注⽬を集めるメーサーロシュ・マールタ

2023年に開催され好評を博した第⼀弾特集上映に続き、⽇本で劇場初公開となる全7作品を新たにレストア/HDデジタルリマスターした珠⽟の作品群を⼀挙上映する<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章>が11⽉14⽇(⾦)より開催中だ。

「マールタの⽗ラースローは、ソ連で処刑されました」

――マールタの実の⽗であるメーサーロシュ・ラースローは彫刻家で、いわばマールタは「芸術家の⾎を引いている」ともいえます。彼⼥の映画のスタイルは、⽗の影響下にあるのでしょうか。

それは違うと思います。マールタの⽗ラースローは、ソ連で処刑されました。マールタの映画制作においては、この事実だけが、彼⼥を突き動かしていた。かといって、復讐のために「⽇記」三部作を撮っていたとも思えない。マールタの⽗はたしかにソ連で処刑されましたが、彼⼥⾃⾝、 同地で過ごしていた時期もあったわけですから、ソ連の⼈々の気持ちもきっと分かっていたと思います。

――「⽇記」三部作の第二部『⽇記 愛する⼈たちへ』は、そんな⽗ラースローに対する判決書ではじまります。

あれは実際の判決書です。この判決書がマールタ本⼈に⼿渡されたとき、私もその場にいました。「⽇記」三部作では、社会主義体制下のハンガリーが⾵刺されています。制作当時、このような表現を成⽴させるためには多くの障壁があったと思います。第⼀部の『⽇記 ⼦供たちへ』の制作時は、なんでも作れた時代ではありませんでした。実際、完成した後も⼀般公開はできず、仲間内だけで⾒られていました。カンヌから声がかかってようやく、⽇の⽬を⾒たわけです。

「撮影のためにスターリン像を⽤意しなければならなかった」

――第⼆部、第三部の制作時には変化がありましたか?

時代が変わり、いくらか作りたいものを作れるようになりました。第三部『⽇記 ⽗と⺟へ』の制作がはじまる1987年頃から、ハンガリーが⺠主化を果たす1989年にかけての約2年間は、本当に不思議な時代でした。1956年のハンガリー事件に対する評価も変化するなかで、このような表現ができたのだと思います。撮影のためにスターリン像を⽤意しなければならないなど、⼤変な⾯はたくさんありましたが。

――<⽇記シリーズ>での政治的な抑圧や個⼈の⾃由というテーマは、いま⾒てもとても普遍的です。現代の観客に、どんな点を感じ取ってほしいですか︖

個⼈の⾃由に対する抑圧と侵害は、永遠に私たちに付きまといます。マールタの映画が傑出しているのは、政治と歴史と個⼈の物語を融合させていること。彼⼥の作品を観れば、そのことをよく思い出すことができます。

🎥<メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章>上映 ラインナップ🎞️

『エルジ』

児童養護施設で育ったエルジは、24 年ぶりに⼩村で暮らす実の⺟を訪ねる。再婚していた⺟は、娘の来訪に⼾惑い、彼⼥を姪と偽って新しい家族に引き合わせた。家族関係の修復も曖昧なまま街へ戻ったエルジは、⾏きずりの男と交際しながら、鬱々と⽇々を過ごす。ある⽇、素性の知れぬ中年男性がエルジの前に現れ、「君の両親は死んだ」と告げる。

⻑編デビュー作であり、のちに繰り返し描かれる“養⼦”をテーマとした⾃伝的作品。

『エルジ』©National Film Institute Hungary – Film Archive

英題:The Girl原題 Eltávozott nap
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ソムロー・タマーシュ
出演:コヴァーチュ・カティ
1968年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/84分/HD デジタルリマスター/G
字幕翻訳:森彩⼦
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

『⽉が沈むとき』

政治家の夫に先⽴たれたエディトは、保険⾦や邸宅の相続を頑なに拒む。⽗の名声が汚されることを恐れた息⼦は、⺟エディトを別荘に軟禁した。息⼦の婚約者も「看守」として⼿を貸すが、壊れていくエディトを⾒るうち、結婚という結び付きに違和感を募らせていく。「家」に囚われた⼥性の苦しみと、彼⼥に寄り添う⼥性の交流が描かれたシスターフッド映画。

『月が沈むとき』©National Film Institute Hungary – Film Archive

英題:Binding Sentiments
原題:Holdudvar
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ケンデ・ヤーノシュ
出演:トゥルーチク・マリ、コヴァーチュ・カティ、バラージョヴィチ・ラヨシュ
1968年/ハンガリー/シネマスコープ/モノクロ/86分/2K レストア/G
字幕翻訳︓森彩⼦
字幕監修︓コロンツァイ・バーバラ

『リダンス』

⼯場勤務のユトゥカは、ダンスパーティーで出会った⼤学⽣アンドラーシュと恋に落ちる。彼に拒絶されることを恐れたユトゥカは、⾃分も学⽣であることを装い、名前も偽る。やがてアンドラーシュはユトゥカの素性を知るが、両親には真実を告げられずにいる。両家合同の⾷事会。アンドラーシュ家の階級意識が剥き出しになっていく。

アニエス・ヴァルダがそのシャワーシーンに強く魅了されたという、労働者階級とインテリの格差を背景に⼥性の選択を描く静かな⼒作。撮影はジュゼッペ・トルナトーレ作品で知られるコルタイ・ラヨシュ。

『リダンス』©National Film Institute Hungary – Film Archive

英題:Riddance
原題:Szabad lélegzet
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:コルタイ・ラヨシュ
出演:クートヴェルジ・エルジェーベトゥ
1973年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/81分/4K レストア/PG-12
字幕翻訳:⾼橋⽂⼦
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

『ジャスト・ライク・アット・ホーム』

アメリカからハンガリーへ帰国したアンドラーシュ。根無し草状態の彼は、放し飼いにされていた⽝に惚れ込み、飼い主の少⼥から強引に買い取った。わだかまりを残したふたりは、やがて親⼦とも⾔い切れぬ親密な関係を育んでいく。アンドラーシュのかつての恋⼈アンナも、そんなふたりを気に掛けている。彼⼥はアンドラーシュに、愛を告⽩するが……。

⽗への献辞で始まる本作は、メーサーロシュにとって⾮常に個⼈的な⽗との物語だといえる。アンナ・カリーナがふたりの関係に揺らぎを与える⼈物を好演。

『ジャスト・ライク・アット・ホーム』©︎ National Film Institute Hungary – Film Archive

英題:Just Like at Home
原題:Olyan, mint otthon
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:コーローディ・イルディコー
撮影:コルタイ・ラヨシュ
出演:ヤン・ノヴィツキ、ツィンコーツィ・ジュジャ、アンナ・カリーナ、サボー・ラースロー(ラズロ・サボ)
1978年/ハンガリー/ビスタ/カラー/109分/4K レストア/PG-12
字幕翻訳:⾼橋⽂⼦
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

『⽇記 ⼦供たちへ』

1947年、ソ連からハンガリーへ帰国したユリは、共産党員の養⺟マグダの保護下で育つ。⽗は秘密警察に捕らわれ、⺟はこの世を去っていた。恐怖政治が布かれるこの国で、ユリは不安定な⽣活を強いられる。ある⽇、ユリはヤーノシュと名乗る男と出会う。彼は⽗と⽠⼆つの⼈物だった。

「⽇記」三部作の第⼀部。冷戦下の⾃⾝の苦難を描き、1984 年のカンヌで審査員グランプリを受賞。撮影は義理の息⼦ヤンチョー・ニカが担当した。

『日記 子供たちへ』©National Film Institute Hungary – Film Archive

英題:Diary for My Children
原題:Napló gyermekeimnek
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ
1980-83年/ハンガリー/スタンダード/モノクロ/108分/4K レストア/G
字幕翻訳:森彩⼦
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋⼭晋吾

『⽇記 愛する⼈たちへ』

マグダの元を離れたユリは、織物⼯場で働いている。映画監督を志すユリは、モスクワの⼤学で映画制作を学ぶことになった。スターリンの死後、ユリは卒業制作として、労働者の実情を捉えたドキュメンタリー映画を完成させたものの、反-社会主義リアリズム的な内容から、再編集を命じられた。そしてユリは⽗がすでに死去したことを知らされる。

「⽇記」三部作の第⼆部で1987年のベルリンで銀熊賞を受賞。モスクワ留学から1956年のハンガリー事件前夜までを描く。ユリが⽗と⽠⼆つの男に抱く愛情は複雑になり、ふたりの関係は次第にメロドラマ性を帯び始めていく。

『日記 愛する人たちへ』©National Film Institute Hungary – Film Archive

英題:Diary for My Loves
原題:Napló szerelmeimnek
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ
1987年/ハンガリー/スタンダード/カラー・モノクロ/132分/2K レストア/G
字幕翻訳:森彩⼦
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋⼭晋吾

『⽇記 ⽗と⺟へ』

1956 年10 ⽉23 ⽇、ブダペシュトで⺠衆が蜂起する。モスクワで⾜⽌めを⾷っていたユリは、12 ⽉に⼊りようやくハンガリーへの帰国を許された。ユリはカメラを⼿に、荒廃した街並みや犠牲者を⾒つめていく。その年の⼤晦⽇、ユリたちは⼀堂に会する。政治的⽴場を異にする者たちも、仮装や⾳楽、ダンスに耽る。しかし反動分⼦の弾圧はとどまるところを知らず……。

「⽇記」三部作の最終作。1956年のハンガリー事件から⺠主化運動の挫折までを描き、戦争の余波と闘いの⾏⽅を問う。

『日記 父と母へ』©︎National Film Institute Hungary – Film Archive

英題:Diary for My Father and Mother
原題:Napló apámnak, anyámnak
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ、トゥルーチク・マリ
1990年/ハンガリー/スタンダード/カラー・モノクロ/117分/2K レストア/G
字幕翻訳:森彩⼦
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋⼭晋吾

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