タレがない焼肉屋さん【焼肉きんたろう】和牛にこだわる80歳の熱血店主がつきっきりで焼き方指導する富山・高岡の焼肉店
富山県高岡市の本丸町。その名の通り、かつて高岡城があった古城公園に隣接し、古くから高岡の中心地として栄えた町の一角に、知る人ぞ知る焼肉店があります。
店があるのは、路面電車の万葉線が走る広小路交差点から古城公園側へ入った裏の路地。
一方通行の狭い道路沿いで、ただでさえ目立たない立地ですが、さらに店の入り口は道路から見て裏手側。高層のビルやアパートに囲まれてひっそり佇むように建っています。
「焼肉きんたろう」。
敷地内にぐるりと周り込むと、ようやく看板と入り口が見えてきます。
初めての一見客を寄せ付けない雰囲気ですが、実はこの「きんたろう」、とにかく「肉」と「焼き」にこだわった“焼肉の神様”と呼ばれる店主がいる焼肉店です。
肉ひとすじ半世紀。メニューは肉だけの4コース
創業51年の「焼肉きんたろう」。扱うのは肉のみで、サラダなどのサイドメニューはありません。
そして、注文できるのはコースのみ。A~Cと特の4つのコースで、どれも和牛にこだわったシンプルな内容です。
もうこの時点ですでに店主の並々ならない肉へのこだわりを感じますよね?
でも、最大のこだわりはーー
塩のみで食べること。
一般的な焼肉店には欠かせない“タレ”が、「焼肉きんたろう」にはないのです。
余計な味付けは一切なし。塩のみで味わう厳選和牛
「肉がよければ、塩だけでいいんだ」
そう言い切るのは、店のファンから“焼肉の神様”と呼ばれる店主の本田義継さん。
提供する肉は近江牛と飛騨牛のみで、味つけはシンプルに塩のみで勝負しています。
4つのコースもシンプルで潔い価格設定。内容はその日の仕入れ状況によって変わります。
特コース 10000円
Aコース 7000円
Bコース 6000円
Cコース 5000円
取材に訪れた日は、Cコースを頼むと飛騨牛のタンとイチボのセットが出てきました。
分厚い肉がたっぷり、これで1人前です。
さっそく網にのせて焼こうとすると、すかさず本田さんからアドバイスが。
「どっちから食べるとおいしいかわかる? タンだ」
タンとイチボなら、タンから先に食べるのがいいのだそう。そして、焼き方にもきっちりルールがあります。それがーー
「和牛タンの焼き方は、表6秒。裏6秒。これだけは守ってくれ」
店内には、こうして本田さんが自ら焼き方を指南した達筆の貼り紙がびっしりと貼られています。
本田さんに言われる通り、網にタンをのせて表6秒、裏6秒。
ほんのりピンク色が残る焼き加減は、少し短い気もしますが、実際に食べてみると…
レアな極厚のタンから濃い肉汁がぎゅーっとあふれ出し、とってもジューシー。
噛んでいる歯を押し戻すような、なめらかで弾力ある食感も、レアな焼き加減ならではです。
これも本田さんが選び抜いた肉だからこそ出せる味。「表6秒、裏6秒」は、長年、肉と向き合い続けた本田さんがたどり着いた理想の焼き時間です。
「(タンに)レモンもネギも必要ない。なぜかける?」
本田さんに問われると、一瞬戸惑いますが、強い口調の根拠はそれだけの自信があるから。短い焼き時間と塩だけで、和牛タンのうまさをガツンと感じられます。
イチボは脂だけ先に火を通すべし!
焦がし醤油でさらにおいしく
続いてイチボ。尻の先の希少部位で、甘い脂が特徴です。このイチボの焼き方にも、当然、本田さんから細かいアドバイスが入ります。
まずは、肉の赤身の下に玉ねぎを敷き、火の通りにくい脂身だけを網にあてて先に焼くのがポイントなんだそう。
こうして焼き加減を調節すると、肉がよりおいしく感じられるのだとか。イチボだけじゃなく、ほかの部位を焼く時にも使えそうなテクニックです。
さらに、もうひと工夫。このイチボを食べるときに、鉄板に直接、1~2滴の醤油を落とします。鉄板の熱でじゅわっと蒸発する直前の醤油を、サッと肉にまとわせます。
焦がし醤油の風味だけがイチボに移り、甘い肉汁にふわっと香ばしさが加わってさらにおいしく食べられます。
オススメのシメは「桜モツキムチ鍋」
メニューは肉だけというこだわりの「きんたろう」ですが、肉だけでは物足りないという方のためにシメのメニューが用意されています。
そのなかで定番なのが、馬肉モツを使ったキムチ鍋。
ぷりっぷりで上品な甘みのある馬のモツと、キムチの辛みの相性が抜群。すべてのうまみを吸った麺が最高のシメになります。
こだわりは強いけど、アドバイスに従えば間違いなくウマい。80歳熱血店主の信念とは…
客席のすぐそばで焼き加減を見守ったり、大きなステーキ肉の切り方や食べ方もアドバイスしながら店を回す“焼肉の神様”こと、店主の本田さん。
こだわりは強いですが、本田さんを慕う客からは
「肉ってこんなにうまいんだ!と思わせてくれる」
「店主の言うことを聞いていれば、間違いない!」
と絶賛の声が並びます。
普段からおいしい肉を食べているからなのか、80歳とは思えないほどの力強い声と凛とした姿勢に「スーパーおじいちゃん」との呼ぶ声も。
「親のためにも、絶対に店はつぶしちゃいかん。生きてる限りは続ける。その一心でここまできた」(本田さん)
肉ひとすじで店を続ける本田さんの決意は、店内に貼られた多くの貼り紙にもにじみます。
親が亡くなってから「ああしたい、こうしたい」と思うことが多かった本田さん、それを我が身に言い聞かせるような「親孝行しろよ・・・」の貼り紙も。
この言葉に心を動かされ、「きんたろう」の肉を両親へ贈った客もいたのだとか。
肉への情熱だけでなく、心まで熱くなる「きんたろう」。そのこだわりの焼肉を味わってみてください。
出典:KNBテレビ「いっちゃんKNB」
2024年8月29日放送
記事編集:nan-nan編集部
【焼肉きんたろう】
住所 富山県高岡市本丸町13-47
営業時間 10:00~21:00
定休日 月曜