日本人初所属「独立時計師」菊野昌宏さん(船橋市在住)、江戸時代の超絶技巧を現代へ
スイスにある独立時計師協会(AHCI)に所属する独立時計師は世界でも三十数名。
そのうち日本人は3名のみ。菊野昌宏さんは、日本人で初めて所属した独立時計師です。
手作業にこだわる意味とは
独立時計師とは、企業に属さず個人で時計製造を行う時計職人のこと。
チームで製作したり部品を外部に発注する時計師が多い中、菊野さんは歯車などの部品作りや組み立てを1人で行います。
チームの方が年間製作本数を増やせ、数が増えれば目にする機会も多くなり、認知度も向上、価格を下げることもできます。
それでも1人で作るのは「部品一つ一つにこだわって作っていることの貴重さを分かってくれる人がいるから」
時計は受注生産で、1年に1本のペースで作られています。
江戸のからくり時計に導かれ和の表現へ
菊野さんが作り出す時計の特徴は、和(日本)をテーマにしていること。
「日本人だからこそ作れる時計」を作りたいと考えたからです。
江戸時代の発明家・田中久重により作られた「万年時計」(万年自鳴鐘)に出合い、影響を受けました。
当時の日本は「不定時法」を使用。これは夜明けと日暮れを境に1日を昼と夜に分け、それぞれを6等分し、その一つを一刻(いっとき)とする情緒のある数え方でした。
「万年時計」の一部を構成する和時計は、季節により変わっていく不定時報法を表した複雑なからくり時計です。
その和時計を腕時計として作り変えたのが菊野さんの「和時計改」。
技術の粋を尽くした芸術的な作品です。
江戸時代に広く使われていた印籠を再現した「印籠時計」は、中に時計が入り、ベルトを付けると腕時計になり懐中時計にもなるもの。
菊野さんの時計には江戸小紋や折り鶴、日本家屋の欄間のような彫刻が施されたものなど、日本の美意識が感じられます。
今は新作発表のため作品を製作中とのこと。新作を携えてスイスに旅立ちます。
「ヨーロッパにはない独自の時計だと認知されてきています。私の時計を欲しいと願ってくれる人がいるので今までやってこられました」
時計を作っているのに、時間に縛られない生活をしていると思う、と笑っていました。(取材・執筆/平田 涼)