介護施設で取り組む口腔ケア!|歯と口の健康週間で取り組むべきことや日常ケアの重要性
本日のお悩み:介護施設でできる口腔ケアとは?
6月は「歯と口の健康週間」があります。
介護施設でも「8020運動」などを行っていければと思うのですが、どのようなことを行えばいいでしょうか。日常的にできる口腔ケアがあれば教えてください。
介護施設における「歯と口の健康週間」の取り組みと日常ケアの重要性
執筆者/専門家
羽吹 さゆり
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/7
「歯と口の健康週間」とは?
毎年6月4日から10日までは「歯と口の健康週間」です。これは厚生労働省、文部科学省、日本歯科医師会、日本学校歯科医会などが主催し、国民の口腔衛生に対する理解と関心を深めるための啓発週間として、昭和63年から続いている取り組みです。
この期間中、学校や地域、医療機関などさまざまな場でイベントや講習会が行われますが、近年では介護施設でもこの機会を活かし、職員・利用者双方が「口腔ケアの大切さ」に改めて目を向ける動きが広がっています。
制度の変化と介護現場の対応
特に、令和6年度からは、利用者さん一人ひとりの口腔衛生管理に関する「個別計画書」の作成が義務化されるなど、制度としても口腔ケアの重要性が高まっています。
これは単なる「歯磨き」ではなく、利用者さんの健康維持、QOL(生活の質)の向上、そして命を守ることにもつながる極めて重要なケアであるという認識が、社会全体で広まりつつある結果といえるでしょう。
なぜ高齢者に口腔ケアが重要なのか?
高齢者にとって「歯と口の健康」は、全身の健康と直結しています。食べ物をしっかり噛むことで唾液が分泌され、消化を助けるほか、口腔内の細菌の増殖を抑える抗菌作用もあります。また、「噛む」「飲み込む」「話す」「笑う」といった、日常のあらゆる行動が口の機能に支えられており、歯や口腔の状態が衰えることで、食事が摂れなくなったり、人との会話が減ったりと、心身両面にさまざまな影響を及ぼします。
なかでも注意したいのが、「誤嚥性肺炎」のリスクです。厚生労働省の調査によると、日本人の死因の第6位に位置づけられるこの病気は、高齢者が罹患しやすく、場合によっては命に関わる重大な疾患です。食べ物や唾液に含まれる細菌が誤って気管に入ってしまうことで肺に炎症が起こるもので、特に就寝中や嚥下機能が衰えている人ではリスクが高まります。
しかし、日常的な口腔ケアを徹底することで、口腔内の細菌を減らし、このリスクを大きく下げることができるのです。
介護施設での実践的な口腔ケア方法
口を開けてもらう=心を開いてもらうこと
介護現場での口腔ケアには、専門的な知識と丁寧なコミュニケーションが求められます。
まず大切なのは、「口を開けてもらうこと」です。これは単に物理的に口を開けさせるという意味ではなく、利用者に安心して口腔を委ねてもらう、つまり「心を開いてもらう」プロセスが重要になります。
そのためには、信頼関係の構築が不可欠です。握手や軽いスキンシップ、アイコンタクト、優しい声かけなど、段階的に距離を縮めていく工夫が必要です。
認知症の方への配慮とコミュニケーション
認知症の方には、口腔ケアが「不快なこと」「何をされるかわからない不安なこと」と感じられる場合もあります。
そのため、道具を見せながら一つひとつ説明し、「今から歯をきれいにしましょうね」といった肯定的な言葉を使って、安心感を与えることが大切です。
ケアの手順や道具の使い分けも行いましょう
また、誤嚥を防ぐためにはケアの手順にも配慮が必要です。
まずスポンジブラシで粘膜や歯茎、頬の内側などの汚れを優しく取り除いてから、歯ブラシで歯を丁寧に磨くという順序が推奨されます。食べかすが多く残ったままいきなり磨くと、喉に落ちて誤嚥の原因になることがあります。スポンジブラシは湿らせてから使用し、使い捨てることで衛生的にケアが可能です。
また、歯間ブラシや義歯ブラシなども併用し、利用者さん一人ひとりの状態に合わせた道具の使い分けもポイントです。
ケアの時間帯や姿勢も大切に
ケアを行う時間帯や姿勢も意識したい点です。
眠気が強い時間帯や食後すぐなどは避け、しっかりと覚醒しているタイミングを見計らい、座位で顎を引いた姿勢を保って行うと、より安全にケアができます。
「歯と口の健康週間」を活かした施設内の取り組み
ここまで、介護施設での口腔ケアについて解説してきました。口腔ケアは、「歯と口の健康週間」に限らず、365日必要で、大切なケアです。
次に、「歯と口の健康週間」を活かして取り組めるイベントなどを紹介します。
・歯の健康に関するポスターの掲示
・介護職にむけて口腔ケアの大切さを再認識してもらう勉強会の開催
・利用者さん、職員、ご家族などで口腔体操の実施
・歯科衛生士さんによる講話
このように、日々のケアをもちろん大切にしつつ、「歯と口の健康週間」であるからこそ口腔ケアの大切さを再認識してもらう機会にできるとよいのかと思います。
最後に:日常ケアの積み重ねが健康を守る
「8020(ハチマルニイマル)運動」に象徴されるように、80歳になっても自分の歯を20本以上保つことは、単に見た目や機能面の問題にとどまらず、自立した生活を続けるための鍵でもあります。噛む力が保たれていれば、栄養をしっかり摂取できるだけでなく、脳への刺激が維持され、認知機能の低下を防ぐ効果もあるとされています。
しかし実際の現場では、高齢になるにつれ口腔の清潔を保つことが難しくなるという課題に直面します。義歯の取り扱いや保管が不適切であったり、歯磨きを面倒に感じたり、認知症によってケアを拒否したりと、さまざまな事情が重なります。そうした中で、利用者さんにとって、日々行われる「介護職員によるケア」が、口腔の健康を支える大きな力となるのです。
これからも日々のケアを大切にしつつ、年に1回「歯と口の健康週間」でさらに全員の意識を高めていけるとよいでしょう。
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