好きな野球を諦めるな!女子野球を通じて地域を盛り上げる“三方よし”のベースボールプロジェクト【広島県安芸太田町】
広島県北西部の山間部に位置し、広島市とも隣接する安芸太田町は四季折々の自然が満喫できる町。 しかし、高齢化率52%は県内最高で、少子高齢化、人口減少が顕著に表れている自治体でもあります。 そんな地で活動する社会人女子硬式野球チーム「S-TIME PRINCESS(エスタイム・プリンセス)」は創設より地域の活性化を目指しています。 野球を続けたい女性たちの受け皿として機能し始めました。
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参加人口が増えている女子野球を通して地域を盛り上げたい
女子野球で活性化
フィットネスジムを経営する一般社団法人ライフステージの代表理事で、プロジェクトの発起人となった大瀬戸亮平氏に発足の経緯を伺いました。
大瀬戸氏は広島市内でフィットネスジムを経営する一方で、自身も大学まで野球をしていた経験を生かして小・中学生対象の野球に特化した野球塾を運営しています。 そうした関係もあり、過疎化が進む安芸太田町で女子野球を通して何か地域が盛り上げる活動ができないかと考えました。
「中学・高校で女子野球の人口は急増していますが、社会人チームに関しては企業主体になります。野球を続けるには、その企業に入らないといけない。 選手が安芸太田町に住んで、地元の企業で働くことで、働きながら野球ができる環境を作れないかという構想を、一緒にソフトボールをしている安芸太田町の建設会社の社長に話すと『ぜひやってみんか』と、社長の同級生で安芸太田町議会の議長さんに繋いでいただきました。 さらに議長さんから町長さんへと繋がり、とんとん拍子で進んでいきました」(大瀬戸さん)
メディアへの露出
2023年8月頃からSNSで選手募集を行うと、町外から野球経験を問わず、中高生、専門学校生、そして介護施設での就職が決まって移住してきた選手たちが集まりました。 さらに2024年3月に安芸太田町と練習場所を提供してくれている広島県立加計高等学校、そしてライフステージの3社間で地域包括連携協定「ヒト・マチ・ツナグ」を締結すると、NHK広島をはじめ、RCC中国放送、TSSテレビ新広島から取材を受け取り上げられたことで、問い合わせは県外からも来るようになりました。
就職・移住希望者にはヒアリングでマッチング
求められる介護職
選手募集の対象年齢は中学生から45歳と幅広く、希望者には就職・住居斡旋も行っていますが、やはり不足しているのが介護職です。
「選手が入団する前には必ず面談をしています。 どういう職業に就きたいのか、どういうところに住みたいのかをヒアリングさせていただき、そこからマッチングできる安芸太田町の企業さんを紹介。 そこの企業さんが持っている宿舎や、借り上げている一軒家を案内します。 職業で不足しているのは介護ですね。 介護施設の人員が足りない。 看護師とか、理学療法士、作業療法士みたいな専門職はもちろんですが、絶対的に人数が足りないので、事業規模を縮小している介護施設も多いんです。 介護施設で働くことで、何年かしたら介護福祉士という資格を取ることができ、資格を取れば引退した後も、どこでも働いていけます」(大瀬戸さん)
チームに入って知った野球の力
また、メンバーの一人、柳音羽(なるは)選手はこの春に大学を卒業し、障害のある方を支援する療育に関わる仕事に従事していますが、チームでは月に一回、野球による療育を行っています。
「私はこれまで療育に5年ほど関わってきていましたが、野球を通して療育ができることはあまり知らず、チームに入ってすごく学ばせてもらっています。捕って、打って、投げる、野球をする動きのなかでそれがまさに療育になっている。 発達が少し遅れている子どもたちや、人との関わりが難しい子どもたちが野球を通して笑顔になることにやりがいを感じています」(柳さん)
リーグ参入で新たな目標も変わらぬ地域貢献
ルビー・リーグ参入
エスタイム・プリンセスは創設から1年、中四国女子硬式野球連盟への加盟と、4月より開幕するルビー・リーグ(3部リーグ・Bグループ)へ参入しました。 現在もまだメンバーは7名のため、山口県女子硬式野球チームの山口ヴィーナスとの合同チームでの参入ですが、新たな目標が生まれました。
創設時からキャプテンでエースとしてチームを引っ張る山本優華(ゆうか)選手は「うれしいのが一番。今まで女子だけで試合をすることがなかったので、それがうれしい。 チームの勝利に貢献したい」と話します。
柳選手も「リーグに参入するまでは2、3人とかで練習をよくしていたので、何のためにやっているのかたまに分からなくなっていた。リーグに入ったことで、選手も気持ちが変わったと思います。試合をしてみて、結果はひどかったですけど、今後の課題とかも考えながら、自分的には試合ができるうれしさを感じました」と喜びを語ってくれました。
「勝ちというのは、スポーツをやっている人間であれば誰でも目指すと思う。人数が少ないなかでルビー・リーグに参加しようと思ったのは、選手が頑張ってSNSを通して選手集めをしている部分に感銘を受けたからです。練習だけじゃなくて、何かしら結果、実績を残さないと選手集めにつながらないし、町への周知やPRもできませんから」(大瀬戸さん)
変わらぬ地域貢献
リーグ参入と進化したエスタイム・プリンセスですが、これからも変わらないことがあります。それが地域への貢献です。これまでも野球をするだけでなく、地域のイベントに参加したり、ボランティアを行うことで地域に貢献してきましたが、それはこれからも変わりません。
「イベントに参加したとき地域住民の方たちに認知していただいて、応援してもらえることが一番うれしい」(山本さん)
「自分が好きな野球をすることで、地域が盛り上がっていく。人の役に立てることに魅力があります」(柳さん)
「強くて、勝利だけを目指すチームではなくて、地域に溶け込んだ、周りから応援されるチームを理念にあげています。勝ち負けではなくて、その地域への恩返し、地域への活動を広げていきたいという考えがありますので、興味がある方は気軽な気持ちで問い合わせていただければと思います」(大瀬戸さん)
チーム名のエスタイム・プリンセスのエスタイムには、幸せな時間とか、シャイニング、輝く時間という想いが込められているそうです。
「リーグ戦に関しても中学校の跡地を活用して試合をすることが決まっています。安芸太田町で公式試合ができるということですね。そこで選手がしっかり輝いている。使われていなかった場所に地域住民が集まって応援するという姿が我々も目指しているところです。使われてない施設に地域住民の方に歩いても来てもらうことで健康増進にもなりますから、選手たちが頑張っている姿を見て、輝いている時間をみんなで共有できればと思っています」(大瀬戸さん)
多くの女子選手が社会人になって両立を諦めるなか、その受け皿として選手は好きな野球を続けることで輝きながら人間力も成長してゆく。地元においても、輝いている若者がいれば町も活性化し、行政は町の顔としてPRできる。まさに“三方よし”のベースボールプロジェクト。好きな野球を続ける彼女たちの輝きが、これからも町を明るくしてくれることでしょう。