「死ぬのが怖い」|死への恐怖を訴える利用者さんに介護職員ができることとは?
本日のお悩み:死ぬのが怖い利用者さんへの対応方法は?
介護施設で働いていると、健康な利用者さんからも年齢を重ねたことで、「死ぬのが怖い」という相談を受けたり、終末期の利用者さんに関しては「死にたくない」「こわい」と毎日のように言ってきたりします。
このような場面における介護職員の適切な声かけの方法や、ポイントを教えていただきたいです。
死に関する対応は非常にセンシティブなもの
執筆者/専門家
伊藤 浩一
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14
ご質問ありがとうございます。「死ぬのが怖い」私も何度か耳にして対応に困ったことがあります。
なんて言葉を返したほうがいいのか、どのような顔で聞けばよいのか、どんな態度で接すれば良いのか…など非常にセンシティブな話題であるからこそ、この対応でよかったという確信を得た経験はありません。
こればかりは相手がどう感じるかなので、本当に難しい対応だと思います。とは言え、今までの介護人生の中で培った「こういう点は気をつけて対応した方が良い」というポイントはありますので、皆さんに共有させていただこうと思います。
死ぬのが怖い利用者さんへの対応で気をつけること3選!
では早速、私が出会った1人の利用者さんの事例を用いながら、介護職が対応方法で気をつけること3選を紹介します。
1.発言に対して否定しない
2.無理に即答せず、思いを受け止める
3.アドバイスをしない
【事例あり】病気で死への恐怖を抱えた利用者さんの話
【Aさんの事例】
Aさん(82歳・女性)は身寄りもなくお子さんもいなかったため、癌を患い、自宅での生活が困難となったタイミングで施設入所となりました。
入所当時は比較的食事もとれ、職員と笑顔で話すこともしばしば見られましたが、1年が経過し、食欲が徐々になくなっていくと体重も低下、日々の活動意欲も薄れていきました。身寄りもないことから施設入居を決めた際、ご本人の中では死に対して覚悟を決めて入所してきたのですが、やはり体の痛みや食欲が低下していくとなると気持ちも低下し、少しずつ弱音を吐く日が多くなってきました。
「腰が痛い」「食欲がわかない」などマイナスな発言から、徐々に「死ぬのが怖い」という発言を繰り返すようになりました。
以下で、先述した対応で気をつけることを用いながら、利用者さんへの対応方法を解説します。
1.発言に対して否定しない
まず1つ目は、発言に対して否定しないことです。
例えば、痛みがあるという発言に対しては「痛いですよね」と相手の言葉を繰り返します。これは、リフレイジング(オウム返し)という手法です。相手が話した言葉を繰り返すことによって受容していることを相手にわかりやすく伝えることができます。
次に「どこが痛みますか」と尋ねます。痛みの箇所を聞くことによって、痛いという思いを承認しながら、より具体的な思いを吐き出しやすいように促します。皆さんも何か辛いことがあったときに、誰かに思いを打ち明けることで楽になったことはありませんか?これと同じ状況を意図的に作り出す方法です。
これらの例を踏まえると「死ぬのが怖い」と言う言葉に対しては、「死ぬなんて言わないでください」とつい否定的に返してしまいがちですが、「死ぬのは怖いですよね。私も怖いです。Aさんはどんなことに怖さを感じますか?」と肯定しながら聞くことによって、本当の胸の内を引き出します。
2.無理に即答せず、思いを受け止める
特に死にたいと言うお話をされた際は、前述した通り「そんなこと言わないでください」と急いで返答してしまいがちです。これは私たちが「死」を言ってはいけないワードと決めつけているからで、「死」という言葉を発した人物に一刻も早く軌道修正を図らなければならないという条件反射的な対応でしょう。
しかし、Aさんにとって「死」は、ごく身近な存在で常に生活を共にしている切っても切り離せない重要なワードなのです。このような背景を踏まえると、私たちのよかれと思っての早い返答は、Aさんにとっては逆で「軽く受け止めた」とマイナスに捉えられてしまう可能性があります。そのため言葉での即答は無理に行わず、少し間を開けてから対応することが大切です。
3.アドバイスをしない
「死にたい」という発言に対して、「あまり気にしないほうがいいですよ」などと励ますアドバイスをしてしまいそうですが、Aさんはアドバイスが欲しいわけではありません。自分の気持ちを知ってもらいたい、受け取ってもらいたいという思いで「死ぬのが怖い」という言葉を発しているのではないでしょうか。
そのため励ましやアドバイスはせず、相手の気持ちを受け止めるということに専念しましょう。皆さんも誰かに相談したいとき、具体的なアドバイスがなくても、ただ聞いてもらえただけで楽になったことはないでしょうか。むしろアドバイスが自分の考えと合わなかったら余計に不安やストレスになります。
これらのことから、「死への恐怖」に対しては受容の姿勢が大切なのです。
【事例あり】これらの対応をした結果利用者さんは…
【Aさんの事例2】
このような3つのポイントをみんなで共有しながら、もちろんうまくいかないこともありましたが、Aさんの終末期ケアに取り組みました。結果、取り組みからドクターの宣告通り1ヵ月でAさんは旅立って行かれましたが、ポイントを全スタッフで共有することにより、職員のAさんと接する不安が軽減され、常に穏やかに接することができるようになりました。
また、Aさんも少しずつ「死にたくない」「死ぬのが怖い」などといった言葉が少なくなり、現実を受け止めながら時折笑顔で返してくださることも出てきました。そして、最後はとても穏やかに息を引きとられたことを思い出します。
最後に:利用者さんに関心をもって接しましょう!
マザーテレサは「愛(好き)の反対は憎しみでなく無関心」と言いました。
つまり、無関心ほど人を不安にさせるものはないということだと思います。「死にたくない」という言葉の裏には不安で仕方がない、特別扱いをして欲しいわけでもなくただ自然に関心を持ってほしいというAさんの思いがあったと推測できます。
"I will be there for you"「そばにいますよ」
私が好きな英語の格言です。お役に立てたら幸いです。
あわせて読みたい記事
看取り介護で大切なことは?ご家族の心理に寄り添ったケアの進め方(執筆者/専門家 脇 健仁先生) | ささえるラボ
https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/1157
介護職が看取りケアから学んだこととは?ターミナルケア・緩和ケアとの違いについても解説 | ささえるラボ
https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/372