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Vol.80 ドローンのチャイナリスクとその対応[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

DRONE

「チャイナリスク」とは、中国に関連するビジネスや投資を行う際に考慮しなければならないリスクのことだが、いうまでもなく、ドローン産業にとって、中国は非常に深くかかわっている。今回は「チャイナリスク」に関して、考えていきたい

チャイナリスクとは?

チャイナリスクの具体的なリスクとしては、政治的リスク、経済的リスク、規制の変更、為替レートの変動、知的財産の保護不足、サプライチェーン(供給網)の不安定性などが挙げられる。

近年は、米中対立の激化、人権問題、台湾問題、新型コロナの対応などにより、中国を取り巻く国際環境の変化がチャイナリスクをより高める方向となっており、こうした中国を取り巻く国際情勢の変化は、中国を取り巻く環境をより複雑にし、日本企業にとってのリスクを高める要因となっている。

特に、米中対立は、現在のチャイナリスクとして注目されている大きな問題であり、中国の経済、技術、軍事力の拡大を背景にしたアメリカと中国間の競争および緊張状態を指す。この対立は、貿易不均衡、知的財産権の問題、技術覇権争い、地政学的な対立など、多岐にわたる分野で顕在化している。

また、それに伴う「台湾有事」は軍事衝突といったことだけでなく、台湾を中心としたサプライチェーンの中断が考えられ、特に、半導体など重要産業での影響は甚大で、世界経済にも大きな波紋を広げることが予想される。

(これは現在の生成AIなどの行方にもNVIDIA<NVIDIAはファブレスでほぼ台湾のTSMCに製造委託をしている>の行方とともに大きく影響する。逆をいえば、この生成AIや半導体などの争いのために「台湾有事」があるといってもいいくらいだ。)

日本にとっては、貿易面だけを捉えても、対中貿易は、2023年時点で輸出に関しては米国に続く2位となっており(米国143853百万ドル、中国126133百万ドル)、輸入に関しては1位が中国となっている(中国173887百万ドル、米国82200百万ドル)。特に輸入に関しては日本への輸入全体の中の22.1%を中国が占めている。

日本からの対中輸出の中では、電気機器およびその部分品(第85類)が構成比27.4%を占め、次に機械類(第84類)が構成比21.2%となっている。どちらも「集積回路」そのものか、「半導体、集積回路またはフラットディスプレーの製造用機器」の割合が高く、また伸びてきている。

日本への対中輸入の中では、電気機器(第85類)が構成比29.3%を占める。その中でも比率が大きいのはスマートフォンであるが、2023年の伸び率として一番大きかったのは、蓄電池(リチウムイオン電池など)となっている(2015年以降、一貫して増加してきている)。

2023年の日中貿易(前編):日本の対中輸出、2年連続で2桁減2023年の日中貿易(後編):日本の対中輸入、2020年以来初の減少

ドローン産業全体にとってのチャイナリスク

ドローン産業にとって、日本だけでなく世界中でも、これまで1番重要な企業は「DJI」であったことは異論がないであろう。もし、「DJI」が中国の企業でなく、米国の企業であったなら、まったく違った光景になっていたことが想像されるが、"中国"の「DJI」がこの産業を進めてきたことこそが時代の流れを示しているようにも思う。

ドローン産業にとってのチャイナリスクの懸念点は、以下の2つとなっている。

各国でのDJIの取り扱いドローンの構成部品の取り扱い

前回のコラムでも記したが、DJIはこれまでその製品戦略や製品力、価格競争力といった多くの面で優位性を示し、多くのシェアを握ってきた。

https://www.drone.jp/column/2024062516061591498.html

米中を中心に技術覇権争いといった面で、様々な分野、スマートフォン・クラウド・AI・EV・ロボットや、現在では宇宙分野などで競争をしてきている。その中にドローンといった自律移動ロボットも含まれているが、そんな中で「DJI」の一人勝ちに関して米国政府は一定期間見過ごしてきた。

それが2019年ぐらいより、警察・消防のドローン利用が進む中での「DJI」のシェアが高くなったのを問題視し、オープンソースのイニシアチブ(Blue sUAS)を通じて、ドローン産業全体の立て直しを図ってきた。それはやはりドローンが単なる自律移動ロボットというよりも、デジタルデータの収集を行うツールという部分もあったであろう。(日本ではドローンのモビリティといった部分に注目されるが米国目線からいうと、ドローンのモビリティは航空機産業の延長戦上にある話であり、ルールや技術に関しても、米国の優位性が高いため、ドローンのモビリティは現在の状態を継続していくという観点が強いだろう。)

米国政府のDJIに対する対抗策として、まず示したものは、2020年12月にアメリカ商務省がDJI社をエンティティリスト(禁輸リスト)に加えたことを発表し、これによって米国企業はDJI社に許可なく技術や部品を輸出することが禁止されることになった。

これにより、それまで進んでいたインテルやマイクロソフトといった企業との連携が出来なくなっただけでなく、AppleやGoogleが提供するクラウドインフラも使うことが難しくなり、DJIが形成してきた開発や実用のエコシステムが崩れ始めた。

また、米中の技術覇権といった争いだけでなく、ウクライナ戦争で、ドローンが中心に躍り出る中で、全世界で自国でのドローン開発・製造ということに火が点いた。ドローンが、軍事上の重要なシステムになっていくことで各国が戦略的にドローンに向き合う形となっている。

その流れの中で、これも前回のコラムにも書いたが、中国も「ドローン及びその関連品目の輸出許可対象」化といった発表を2023年7月に行った。

目視範囲を越えて手動で操縦できるドローンは、従来の1時間以内から30分以内に輸出規制が適用されるようになった。ドローンの最大離陸重量は7kg(15.4ポンド)未満に制限されている。禁止されているその他の機能には、国際的に認証された民生用電力制限を超える無線機器、発射または錘を落下させる装置、ハイパースペクトル、マルチスペクトル、精密赤外線カメラ、高出力レーザー探知機などが含まれる

この発表によって、「台湾有事」などが起きた場合には、DJIのドローンや場合によっては、ドローン関連部品の輸出禁止が、中国政府の意向で行える形となっている。

ドローンの開発・製造を行う新興国は、こういったチャイナリスクを念頭に、チャイナフリーといった中国機や中国部品排除の流れも出てきている。

また、米国においても、この2024年6月、米下院で「Countering CCP Drones Act(中国共産党ドローン対策法)」が可決された。この法案は、中国に本社を置くDJIのドローンを「国家安全保障上のリスクをもたらす」通信機器として分類することを目的としている。

この法案は、まだ、上院で可決されておらず、現在DJIのドローンを活用している企業にとって、産業へのダメージも大きいため抵抗もあり、法律としての成立は不明だが、成立した場合の影響として、DJIドローンが米国のネットワーク上に接続できなくなる可能性、米国内でDJIドローンの販売が困難になる可能性などが出てきている。

DJIにとっても、米国のドローン市場は現在推定60億ドルの規模で、その多くがDJIの米国での売上になっている、そのためDJIとしてもダメージも大きく、以下のコメントを出している。

DJIに対する措置は保護貿易主義を示唆し、公正な競争と開かれた市場の原則を損なうものです。「中国共産党ドローン対策法(Countering CCP Drones Act)」は、根拠のない疑惑が公共政策を左右するという危険な前例となり、米国の経済的繁栄を脅かす恐れがあります。(MITテクノロジーレビューにメールでDJI担当者が声明)

日本におけるドローン産業にとってのチャイナリスク

日本においても、チャイナリスクという観点では、中国への情報漏洩といったポイントでセキュリティリスクを中心に対策を講じてきた。(例えば、ネットワークカメラの分野では米国、英国、韓国などの動きに合わせ、議論が重ねられている。)

ドローンに関しても、2020年9月に内閣官房より「ドローンに関するセキュリティリスクへの対応について」という資料が提出された。

これは必ずしも中国機体をターゲットとしたものでなく、一般的なセキュリティリスクを示したものであるが、この発表を受けて、毎日新聞が「政府機関、中国製ドローン新規購入を排除 情報漏えい・乗っ取り防止を義務化」と報道し、日本経済新聞などでも同様な報道がされたため、ドローン利用を検討している大手企業を中心に国産ドローンへの切り替えの検討が開始された。

「中国製ドローンの排除進む インフラ点検、情報漏洩を懸念 NTTは切り替えへ」(日本経済新聞、2021年5月4日)

また、政府も国産ドローンの開発に対して動いた。それは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「安全安心なドローン基盤技術開発」であった。

「『国産ドローン』の逆襲、中国一強化の脅威に政府主導で対抗」(日経XTECH、2020年8月3日)

NEDOは2020年1月27日に公募を開始し、4月27日に実施企業5社を公表した。プロジェクトは「委託事業」と「助成事業」に分かれており、前者は自律制御システム研究所(ACSL)、ヤマハ発動機、NTTドコモが、後者はACSL、ヤマハ発動機、ザクティ、先端力学シミュレーション研究所が担う。2019年度の政府補正予算16億円を充てた。

このプロジェクトでできたプロダクトがACSLの「SOTEN」であった。

SOTENは2022年から出荷され始めたが、ACSLの決算書によると、SOTENの機体台数は、2022年が645台に対し、2023年は101台となっている。2022年度は比較的順調に動き始めたものの、トラブルなどもあり、様々な要因で必ずしも予定していた通りに動き出していない。

2020年から動き始めた「国産ドローン」の動きに関して、現時点において、日本では「DJI」を排除できるほどの機体が開発できていない。特に台数が出ているMavic相当の「小型ドローン」に関しては、米国が「Blue sUAS」もあり一定の成果が出ているのに対して、日本では成果が出ているとはいえない。

また、国産ドローンへの切り替えを検討したドローン活用の企業においても、国産ドローンでの機能や使い勝手などの問題によって、国産ドローンでの本格運用まで至っているケースは少ない。

日本においては、米国の下院が可決したような「Countering CCP Drones Act(中国共産党ドローン対策法)」な中国機排除が進むと米国以上にドローン産業全体で大きな混乱が起こるであろう。

こういった日本の状況において、中国が昨年2023年7月に示した「ドローン及びその関連品目の輸出許可対象」化により、「台湾有事」などの中で、中国がドローンやドローン関連品の輸出禁止を行った場合にもドローン産業全体で大きな混乱が起こることが予想される。

日本でのチャイナリスクの対応

当然、日本政府は上に示したような中国が輸出禁止などの発動をしないような交渉を行う必要があり、また、そういった交渉もしていると思うが、それは様々な事象の中で難しく必ずしもうまくいかないケースもあるだろう。

本来であれば、輸出入に関しては、日本・中国の相互の関係性の中でバランスが取れていれば、過剰な動きを防ぐことができるが、ドローンにおいては著しくそのバランスが崩れている。

2015年時点においては、DJIドローンの中の構成部品の5~6割は日本製であった。

「世界最大手の中国ドローンメーカーは、日本の部品を5割使っていた!」(日刊工業新聞、2016年10月26日)

しかし、現時点においては、そのほとんどが中国製に置き換わっている。唯一強みを発揮しているのは、SONYとTDKのCMOSイメージセンサーとモーションセンサーのみである。

「最新ドローンを分解 半導体は『ほぼ中国製』」(EETimes Japan、2024年7月2日)

また、DJIのものだけでなく、国産ドローンを製造する際も、その中の多くの部品が中国製である。特に深刻なのは、ドローンの中心部品であるモーターとバッテリーはどの国産機体メーカーもほとんどが中国から輸入している。

バッテリーに関しては、完成品だけでなく、リチウムイオンバッテリーの原材料そのものが中国にイニシアチブを取られてしまっている。(これはドローンだけでなく、EVなどの分野でも深刻で、そういったこともあり、ハイブリッドが見直され、揺り戻しが起こっている。)

ドローンにおいても、ハイブリッドや全個体電池、水素電池などの検討が必要であるだろう。

こういった部品単位のイニシアチブに関して、各ドローン機体メーカーが担っていくことに関しては、その規模やリソースも含め、非常に難しい。そのときに参考になるのは、「Blue UAS」だ。特にBlue UAS Frameworkといったものが有用だ。

Blue UAS Framework

これは「政府および業界パートナーにオプションを提供する、相互運用可能な NDAA準拠のUASコンポーネントとソフトウェア。このフレームワークは、sUAS開発者に高度な機能を提供し、政府顧客のリスクを軽減します。これには、DoD アプリケーションで使用するための重要なコンポーネント、サブコンポーネント、モジュール、ソフトウェアが含まれます」となる。

こういったイニシアチブは、まさにドローンオープンプラットフォームプロジェクト(DOP)でも行おうとしているが、出来れば政府主導で行い、国産の部品メーカーやアプリケーションメーカーの強みを発揮して、そこで作ったリストをチャイナフリー化をしようとしている国々に提供していくことで、日本企業の強みを海外でも発揮する素地を作っていくことは、チャイナリスクの対策としても重要であろう。場合によっては、「Blue UAS Framework」との連携という観点も拡がりといった点では重要になってくるだろう。

https://www.drone.jp/column/2023072111554369731.html

チャイナリスクは現在既にそこにあり、早急な対策を打っていくことが必要である。

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