逆風のはずが…倒産わずか1件に激減 書店で何が起きている? 静岡でも“進化中”
■生き残りのキーワードは「脱・書店」 1~5月の倒産が過去最少
出版不況や活字離れに苦しんできた書店業界に、“意外な光”が差している。今年1月から5月までに倒産した書店の数は1件にとどまり、過去最少ペースで推移している。書店生き残りのキーワードは「脱・書籍」。静岡県内でも同様の傾向がみられる。
【写真で見る】”逆風”は覚悟の上 書店オープンに込めた使命感
民間の調査会社・帝国データバンクの最新調査によると、2025年1~5月に倒産した書店はわずか1件で、前年同期の11件から大幅に減少した。統計を開始した2000年以降で最も少ないペース。これまで長く逆風が吹いていた業界にとって、久しぶりの好材料といえる。
業績だけを見ると、まだ苦戦が続いている書店は少なくない。2024年度の業績が判明した書店のうち「赤字」は34.4%、「減益」が23.9%を占める。若年層を中心とした活字離れに加え、Amazonをはじめとするネット書店や電子書籍の普及によって、従来型のビジネスモデルは限界に達しつつある。
そこで、多くの書店が生き残りをかけて打ち出しているのが「脱・書籍」の戦略だ。単に本を売る場所ではなく、訪れることで価値を感じられる“滞在型書店”への転換が進んでいる。
近年は、文房具や雑貨の取り扱いを強化する店舗が急増している。ボールペンやノートといった定番アイテムに加え、季節雑貨やギフト商品を大々的に展開する書店もある。中には大手雑貨店と共同出店するケースもあり、書籍の売上に頼らない新たな収益源を構築しつつある。
さらに、カフェを併設した書店や、学習塾との連携による学生向けサービスの導入といった動きも広がっている。こうした取り組みは書店を「本を買うだけの場所」から「長居したくなる空間」へと変え、集客力の向上にもつながっている。
■静岡市の中心市街地は大型書店閉店 新しいスタイルの書店オープン
全国的な傾向は静岡県にも表れている。静岡市の市街地は、この5年ほどで戸田書店静岡本店や江崎書店など、大型書店が次々と閉店した。
その逆風の中で開店した「ひばりブックス」はカフェとギャラリーが併設されており、作家を招いたトークイベントなども開催している。まさに、従来の書店のイメージを覆し、本を買う目的以外にも訪れたくなる場所としてファンを拡大している。今年4月にリニューアルオープンした「TSUTATA BOOKSTORE静岡」は書籍だけではなく、食や健康のメーカーとタッグを組んで売場を拡大した。
各書店の工夫や努力が奏功し、2024年度の業績では「増益」が全体の39.9%に上った。これは過去10年間で2番目に高い水準で、業界の変化を象徴する数字といえる。
人口減少や都市部への集中によって地域の書店が失われつつある中、書店は本だけでなく、人と人とのつながりや地域文化を支える拠点としての役割も期待されている。「縮小を続ける出版市場で、どうすれば人が再び本屋に足を運ぶのか」。その問いに対する答えを模索しながら、書店は変化している。
(SHIZUOKA Life編集部)