迫真演技の警察官 訓練で「刃物男」から「ツキノワグマ」まで 名張署・内田巡査長
署幹部「訓練引き締めてくれる」
ある時は「刃物男」、またある時は「ツキノワグマ」、しかしてその実態は――。三重県警名張署生活安全課の内田智幸巡査長(36)は、警察と関係機関の合同訓練で犯人役などを務め、鬼気迫る演技を披露している。その姿は、現場に本番さながらの緊張感をもたらす。
内田巡査長は桑名市出身。四日市大学時代、制服姿に憧れて警察官を志した。2010年に採用され、鈴鹿署と鳥羽署を経て22年に名張署に着任。普段はストーカーやDV事案などの人身安全対策、古物や風俗営業といった許可事務などを担当している。
鳥羽署勤務の時、幼稚園などを訪問して園児たちに誘拐犯などから自分の身を守る大切さを伝える防犯講話を担当。初めは台本通りに進めたが、子どもたちの反応は「イマイチ」だったという。
そこで、サングラスやニット帽などの小道具で不審者の変装をしたり、アドリブで奇声を上げたりと、臨場感ある演出を工夫。会場は盛り上がり、子どもたちは熱心に話を聞くようになったという。それ以来、高齢者に特殊詐欺への注意を呼び掛ける寸劇や金融機関での強盗対応訓練の犯人役などでも、役に入り込むような演技を実践し、腕を磨いてきた。
今年1月に近鉄名張駅の列車内であった訓練では、乗客を刃物で切り付けて暴れる不審者役を熱演。アクリル盾を手に不用意に近づく駅員に対しては、隙を見て自ら襲いかかった。さすまたなどを手に制圧に来た警察官に対しても、最後まで激しく抵抗した。訓練後、参加した女性車掌からは「本当に怖くてドキドキした」と言われたという。
〈YouTubeで動画(https://youtu.be/qTtJyPdRAcs)〉
「この役は内田しかいない」熊役も熱演
7月中旬に県や赤目地区などと合同で実施した熊への対応訓練では、ツキノワグマ役を務めた。人間以外の役は初めてだったが、署の幹部たちは「この役は内田しかいない」と信頼して送り出した。
猛暑の中、もこもこした黒い服や熊の頭部のマスクを身に着け、四つん這いで餌を探す姿を再現。銃口を向けるハンターに対しては、立ち上がって両手を上げ、大きなうなり声で威嚇した。インターネットの動画や、祖父宅で飼っていた大型犬の動きなどを参考に演じたという。
内田巡査長は「訓練は、普段体験できないことを体験する場。参加者が万が一、本当にそんな状況に遭遇した時、経験が少しでも役に立てば」と話す。同署の駒倉正己副署長は「『訓練は本番のように、本番は訓練のように』と言われる。内田は訓練を引き締めてくれている」と評した。
〈YouTubeで動画(https://youtu.be/F78crP251Ic)〉
採用案内
三重県警は8月26日まで、25年4月採用の警察官・警察事務官の受験申し込みを受け付けている。受験案内などは、三重県警察採用情報ホームページ(https://www.police.pref.mie.jp/recruit/)から。
内田巡査長は「警察の仕事はいろんなジャンルがあり、自分に合った仕事を見つけられるのが魅力。私のように小さなきっかけで入っても、しっかり自分の活躍の場を見つけることができるので、ぜひ警察官を目指して」と呼び掛けた。