ゲイリー・ホルトのESPギターは「バターみたいに滑らかな弾き心地!」
エクソダスを中心に、後期スレイヤーでも活躍したギタリスト:ゲイリー・ホルト。彼が使用するESP製ギターの数々は、その攻撃性あふれるプレイ・スタイルを体現するかのごとき鮮烈な見た目やサウンドを備えていることでもよく知られている。ここ数年のうちに新たに登場したカスタム・ショップ・モデルや、今年のNAMMショウで発表されたLTD製シグネチュア・モデルなどについて、本人が熱く語ってくれたインタビューをお届けしよう。
一生持つような良い音がする
YG:今年発表されたあなたのニュー・モデル、LTD“GH SV-200について教えて下さい。昨年はよく似たルックスのLTD“GH-SV”が発表されていましたが、本機とはどんな違いがあるのでしょうか?
ゲイリー・ホルト(以下GH):“GH-SV”がスルー・ネック・ジョイントで、マカッサル・エボニー指板なのに対して、“GH SV-200”はボルト・オン・ネックのローズウッド指板になっていて、よりスターター向けのモデルだ。素晴らしい出来だよ。ギターを始めたばかりのヤツがこんなに良いギターを使えるなんて…と思ってしまうぐらい(笑)。自分が弾き始めた頃に入手できたモデルよりもずっといい。価格帯もより手頃だしね。ギターの弾き方を学びたい子供には完璧なヘヴィ・メタル・ギターだ。クオリティはもちろん、見た目もイカしてる。一方“GH-SV”は上級者向けで、ネックの部分にこだわって作られている。クラフトマンの熟練の技が生きたモデルというわけだ。
YG:あなたは昨年9月に行なわれたTHE BAY STRIKES BACKツアーでの来日時に、当時できたばかりだったというESP製のVシェイプの赤いニュー・ギターを受け取っていました。こちらも市販モデルになるのでしょうか? それとも、あなただけのカスタム・モデルなのですか?
Pic●Mikio Ariga
GH:現時点では、俺の専用モデルだ。だけどこの赤いVシェイプは…やはりカスタムの“Eclipse”モデル同様、“Liquid Lava”フィニッシュが使われている。ハンドメイドでフィックスド・ブリッジ。Vシェイプは素晴らしかった。「これをカスタム・ショップ・モデルにしたらいい」と言ったくらいだ。だから、もしかしたら…ね。どこへ行っても、誰もがあれを「こんな素晴らしいVシェイプは初めて見た!」と言ってくれる。カーヴド・トップのボディーの中にもう1つV字の形状があるのがかっこいい。他に並ぶものがない見た目だ。今は俺の家のソファに座っているよ(笑)。いつでも弾かれるのを待っているし、毎日弾いている。恋人みたいだ。今はエクソダスの曲作りをやっているから、“Eclipse”の方はドロップCチューニング(全弦1音下げ+6弦のみさらに1音下げ)にしてあり、もう1本は全弦1音下げ。これらはお気に入りのギターだ。本当にすごい。フィニッシュがまた、最初にもらった“Eclipse”同様素晴らしい。誰もが話しかけてくるんだ。昨晩のメタル・アリージェンスのライヴにも持って行ったら「その塗装、すごいね。こんな素晴らしいのは見たことがない」と言われたよ。
YG: THE BAY STRIKES BACKは東京で2公演行なわれ、この赤いVシェイプは初日のみ使われましたが、それには何か理由がありましたか?
GH:赤いモデルは両方ともフィックスド・ブリッジのギターで、決まった曲でしか使わない。ほとんどの曲では“ワァ〜ッ”とアームをグイグイ鳴らしているからね。だから、「この曲はアーミングなしでいけるな」という曲を選んで使った。で、2日目の夜はアームがいらない曲が「Only Death Decides」(1990年『IMPACT IS IMMINENT』収録)だったので、そこで“Eclipse”を使った。ドロップCチューニングなので、その仕様にあらかじめ準備しておいた。5弦のゲージは[.060]。もしアーミングの必要がなければ、ショウ1本通してまるまるあのギターを使いたいぐらいだけど、あの時は不要な箇所を探して使ったという状況だった。
YG:LTD “GH SV-200”ほか、あなたの市販モデルのブリッジは基本的にフロイドローズですが、 赤いVシェイプはヒップショット製のフィックスド・ブリッジに見えましたが…。
GH:いや、これはヒップショットのように作られたカスタム・メイドのものだ。今回のESPカスタムショップ“Limited Exhibition”モデルの中にも、同じようなブリッジを持ったモデルがあったと思う。昨晩のNAMMショウで、俺のモデルと同じブリッジを用いたモデルを数本見かけた。「作るのに3倍の時間がかるんです」と言われたよ。まるでストラトキャスターみたい。それに、これまでの人生の中で最も快適に弾けるブリッジなんだ。手に当たる感触が全然なくて、とても完璧。サウンドも素晴らしい。過去最高のプレイアビリティが得られる。LTD“Eclipse”にそっくりだよ。ボディー・シェイプなどすべてのスペックが同じで、ヘヴィ・メタルのシェイプといえばこれ、って感じのモデルになってる。
YG:Vシェイプの弾き心地を教えて下さい。
GH:素晴らしい。バターみたいに滑らかだ。フレットはステンレス・スティール製で、これまでにないほど見事な仕上がり。そしてさっきのブリッジの良さだよ。ここまでの弾き心地を感じるには、普段ならしばらく弾いて慣れないと出てこないこともある。ちょっと頑張ってようやく楽になるというか、ね。俺はギターをねじ伏せて弾くタイプだから、弾きやすいとより適当に弾いてしまう(笑)。とにかく素晴らしい。
YG:そのステンレス・スティール製のフレットですが、9月の来日時にお話を聞いた際、あなたは「ネックはギターの音を決める大事なパーツで、ステンレス・スティール製のフレットはブライトに感じるから普段好きじゃないけど、赤いニュー・モデルはとても良かった」と言っていました。LTD“GH SV-200”のフレットもやはりステンレス・スティールですが、これはあなたのリクエストだったのでしょうか?
GH:いや。俺はこれまでに1本だけ、ステンレス・スティールのフレットを打ったギターを手に入れたことがあったが、これがかなり明るい音で、フレット仕事が良くなかったのか分からないけど…好きになれなくてね。友人の工房が作ってくれた、ハンドメイドのカスタム・ギターだったんだけど。以来ステンレス・スティール・フレットといえば、そのギターが俺の唯一の判断基準だったわけだ。ところが昨年、ESPのスタッフが持ってきてくれたあの赤いモデルを、何も知らずにアンプに繋いで弾いてみた。フレットの素材を尋ねたら、ステンレス・スティールだというじゃないか。なんでこんな良い音がするのかわからないぐらい良かったね。このギターは“バター”だ。完璧。一生持つよ。
Pic●Mikio Ariga
孫娘のギターだって弾くよ!
YG:ちなみに、あなたのEMG製ピックアップ“GH Set”も、鮮烈なレッド・カラーは一目であなたのモデルだと分かります。シグネチュア・モデルにはブリッジ用が“81”、ネック用は“89R”で、10年ほど前に作られたと思いますが、中身は通常モデルの“81”“89R”と同じなのでしょうか?
GH:違うのは色だけ。それと、俺自身のチョイスであるということだね。“81”はヘヴィ・メタルに最適なモデル。そして“89R”は“85”のサウンドが得られつつ、シングルコイルにもなる。“R”がつくモデルはシングルコイルが入っているんだ。ネックにより近い。殆どのモデルはミドル寄りで、ミドル・ピックアップみたいになっている。俺はネック・ピックアップのサウンドをより明るくしたかったんだよ。指板の上でよりクリーミーな音がするね。分厚くて、まるでデイヴ・マーレイ(アイアン・メイデン)に近い音だ。彼のモデルは史上最高のネック・ピックアップの音がするんだよ。
YG:ところで、Vシェイプのギターは、座って弾く時にコツがいると思いますが、普段作曲する時もVシェイプを使っているのですか?
GH:今はそうしている。通常、家で弾くギターはLTD“Gary Holt Eclipse”の白もしくは赤のモデルだった。それをそのままアルバムでも使っている。毎日そこにあって弾いているものだから。時にはカスタム・ショップ製モデルの方も出してきて、フルセッティングの機材を整えて弾くこともある。だけどあのVシェイプはあまりにも弾き込んできたのでもうすっかりなじんでいて、非常にいい感じだ。正直、家に置いてあるものは何でも弾くよ。孫娘の持っている“Powerpuff Girls Guitars”(注:デイジーロック製、ピンク色でハート型ボディーのガールズ向けギター)もね!(笑) 孫の家族がベイエリアに引っ越す時に、ギターも持っていかれたけど。
YG:さて、近況はいかがですか? エクソダスは今年9月にアルバムをリリース予定ですよね。
GH:すべてが上手くいけば、その予定だ。リフは何百万個もできているけど、完成したものは何もない。時間を取って決めていなかいといけない。曲としては半分までできているものばかり。それに、できてもまた変えたりしているんだ。俺はいつもそのやり方でやっていて、それを残りのメンバーに聴かせると、俺がいじくり回したヤツよりも、最初に目指していた方向性が一番良いとなって、元に戻ることもある。アイデアはすべて電話に録音してあるんだ。“ProTools”なんか使わないよ。VOXの小型アンプの前にケータイをセッティングすればOK(笑)。じゃないと、忘れていってしまう。そのリフをもう2度と再現できなくなってしまうから。
YG:それが一番カンタンですよね。
GH:全くだ。“ProTools”のセッション・データが起ち上がる頃には、リフなんて忘れてしまっている。時間がかかりすぎるよ。でもNAMMが終わったら、真剣に曲に取り組んで仕上げていく。 もちろん、新しいモデルも使ってね!!
エクソダス公式ウェブExodusAttack.com – Exodus Official SiteESP 公式インフォメーションGary Holt | ESP GUITARS
(インタビュー●ヤング・ギター編集部 取材協力●吉田理人)