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フィンランドのモダンデザイン界の巨匠、日本初の回顧展「タピオ・ヴィルカラ」(取材レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

フィンランドを代表するモダンデザイン界の巨匠、タピオ・ヴィルカラ(1915-1985)。2025年は、ヴィルカラの生誕110年、没後40年の節目にあたり、日本で初めてとなる回顧展が東京ステーションギャラリーではじまりました。

日本ではガラスデザイナーとしての印象が強いヴィルカラですが、ガラスのほかに磁器やカトラリー、商品パッケージなど、多くの素材と幅広いジャンルを手掛けています。会場では、6つの章立てで、アートやデザインの分野における作品を紹介していきます。


東京ステーションギャラリー「タピオ・ヴィルカラ 世界の果て」会場入口


フィンランドの南部の港町ハンコで、彫刻家で墓地の設計士の父と木彫やテキスタイルを制作する母のもとに生まれたヴィルカラ。自らも芸術の道を選び、ヘルシンキの美術学校で装飾彫刻を学びました。

グラフィックデザインの経験を経た後、1946年にイッタラのデザインコンペで優勝したことを機に、イッタラのデザイナーとしてキャリアをスタートさせます。


「素材のすべてを知る」会場風景


ヴィルカラはイッタラ以外でも協業し、ガラスのほかに磁器や金属、プラスチックや木といった様々な素材に取り組みました。自然から着想を得て、ドローイングや型作り、職人との対話を重ねて生み出された製品は、実用性がありながらも心地よさも与えてくれます。


「素材のすべてを知る」会場風景

「素材のすべてを知る」会場風景


フィンランド国営の酒類専売企業アルコから依頼を受けて、ボトルとラベルをデザインした「フィンランディア・ウォッカ」は、国ごとの制約に対応しながら国内向けとアメリカ向けに製造されました。

氷河の中で長い時間をかけて濾過された天然氷河水を仕込み水としたフィンランディア・ウォッカのボトルには、北極や冷たい飲み物を連想させる象徴的なデザインが施されています。


「フィンランディア・ウォッカ」のボトル


1946年には、フィンランド銀行主催の紙幣デザインコンペを勝ち抜いたヴィルカラ。スケッチは両手行い、フリーハンドでも完璧な円が描けるほど器用だったヴィルカラの、高いスキルが感じられます。


フィンランド紙幣(スケッチ)


ヴィルカラは1950年代から、デザイナーの仕事と並行してガラスや木を用いた製作をはじめます。空間を意識したダイナミックな造形の中に、素材の追求や職人の技巧も感じることができます。

2階の展示室では、ガラスや木のオブジェに加えて、ブロンズやアルミなど素材を変えて楽しんだヴィルカラの幅広い造形表現を紹介します。


「造形の園」会場風景

「造形の園」会場風景


ヴィルカラは、合板を何層も重ねた「リズミック・プライウッド」と名付けた素材も開発。景観段階から高度な空間把握能力を要した作品では、家具職人とともに、斧やナイフ、ヤスリを使って合板を彫っています。


《ピュッレ / 渦巻》1954年


ヴィルカラの作品の中でも特に象徴的なデザインとして挙げられるのは、アンズダケの形から着想を得たオブジェです。フォルムとラインの美しい相互作用によって、花瓶の機能を持ちながら、彫刻としての地位も確率したと言えます。

最初のデザインは、1946年のカルフラ=イッタラ・ガラス製造所主催のコンペのために考案されましたが、その後、安定性を高めるために脚部を広げ、製造を簡素化するなど様々な改良が加えられました。


《カンタレッリ / アンズダケ》


ヴィルカラは1949年に初めてイタリアを訪れて以来、展示設計者、デザイナー、アーティストとしてミラノ・トリエンナーレに参加しました。1965年、ヴィルカラはヴェネツィアのムラーノ島のガラス工房を訪れ、職人の技と豊富な色使いに魅了され、それがきっかけとなって、イタリアにも拠点を置いて活動を始めました。


「ヴェネチアの色」会場風景


溶けたガラスが螺旋形で表現された「コレアーノ」。皿、ボウル、花瓶からなるこのシリーズには、緑とターコイズ、緑と紫のパターンがあります。ムラーノでの作業ではスケッチをほとんど行わず、実験を繰り返す様にデザインを生み出し、ムラーノ島の伝統と北欧デザインを融合させていきました。


「ヴェネチアの色」会場風景


ヴィルカラは1960年代に、合板とガラスの異なる素材を使った2つの「ウルティマ・ツーレ」を製作しています。ひとつは1967年モントリオール万博で発表した縦4メートル、横9メートルにおよぶ合板を使用した記念碑。もう一つは1968年にデザインされ現在も生産が続いているヴィルカラの代名詞と言えるガラスシリーズです。 溶け落ちる氷の瞬間から着想した作品で、「世界の最北」「世界の果て」という意味があります。

会場最後には、約300個の「ウルティマ・ツーレ」のガラスシリーズのインスタレーションが並び、ヴィルカラが探求した「世界の果て」をイメージした空間になっています。


「世界の果て」会場風景

「ウルティマ・ツーレ」のガラスシリーズのインスタレーション


作品自体は目にしたことのあっても「ヴィルカラ」の名前や活動については知らなかったという方も多いのではないでしょうか。ヴィルカラの多彩な作品をこの機会にご覧になってはいかがでしょうか。

展覧会は東京会場の後、兵庫県、岐阜県へ巡回予定です。

[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2025年4月4日 ]

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