労働生産性の停滞と人材育成投資で経営層と現場に温度差 生産性本部の調査が示す役職間のギャップ
公益財団法人日本生産性本部(東京都千代田区)は10月13日、300人以上の組織で働くビジネスパーソン2945人を対象に、第3回「生産性課題に関するビジネスパーソンの意識調査」を実施し、その結果を公表した。
調査では、役職が上がるほど生産性向上を実感する一方、人材育成やデジタル技術の活用方針に役職間でギャップがあることが判明した。経営層はリスキリングやAI活用に向けた投資を拡大しているが、現場ではその効果が十分に実感されていないことがうかがえる。
経営層が生産性向上を実感するも、管理職・非管理職では実感が薄い
労働生産性の変化について、「上がった」とする回答は経営層で40.1%であるのに対し、管理職層では23.7%、非管理職層では17.2%と低く、役職が下がるにつれて生産性向上の実感が薄れる結果となった。
すべての役職で最も多かった回答は「変わらない」で、経営層で36.5%、現場レベルでは管理職層(49.1%)、非管理職層(46.5%)と半数近くに及んだ。経営層は一定の成果を実感しているものの、現場レベルでは改善の実感が乏しいことがうかがえる。
なお産業別では、製造業が33.6%と生産性向上を認識する傾向が高い一方、対人サービス業は21.7%、非対人サービス業は27.6%にとどまった。
労働生産性が低い原因で多いのは「無駄な作業・業務が多い」ことで、全体で45.0%となった。非管理職で51.1%、管理職でも44.0%と役職が下がるほど高くなり、産業別に見ても全産業共通で最も高くなっている。反対に「仕事の仕組みのデジタル化が進んでいない」は役職が上がるほど回答が多くなり、経営層で3割を超え(34.4%)、現場との問題意識に違いが生じている。
人材育成への投資額や育成すべき人材、経営陣と現場との認識に3つのズレ
人材育成への投資については、経営層の6割超が「投資を増やした」と回答。具体例では、「リスキル・学び直しプログラムの実施」が最も多く、回答者の半数近くがこれを選択した。ほかにも、「自己啓発への支援」「Off-JTの推進」「OJTの推進」など、多岐にわたる育成施策が実施されている。
一方、役職が下がるにつれて投資拡大の実感は薄れている。非管理職層では「投資が増えた」とする回答が22.4%にとどまり、「いいえ」(41.8%)がその2倍近くを占める結果となった。
生成AI・デジタル技術の効果を実感するも、人材育成の優先度に温度差
生成AIやデジタル技術に対する認識では、全役職で「無駄な業務が減り、ワークライフバランスが改善した」との回答が最多であった。さらに、「人手不足の解消に貢献している」との回答も多い一方、「コストに見合った効果が出ていない」との回答が経営層で2割に上り、一定の懸念があることがわかった。
また、デジタル技術を活用するために育成すべき人材については、役職ごとに異なる優先度が見られている。
経営層・管理職層では「管理職」の育成を優先する回答が45.9%と最多で、次いで「経営幹部」(33.3%)、「非管理職」(29.9%)の順となった。
一方、非管理職層では「非管理職」が40.5%と最多で、「非正規を含む全従業員」(29.8%)、「管理職」(27.2%)が続いた。人材育成の優先度について役職間で温度差が見られる。
活用するために必要と考えるスキルにも分散
生成AIやデジタル技術を活用するために必要なスキルについても、役職間で回答が分散し、育成方針が明確に定まっていない状況がうかがえた。回答者全体での傾向は以下の通り。
・多くの人が利用するデジタルツールのスキル(29.2%)
・データサイエンスなど専門技術の習得(26.2%)
・問題解決能力や創造力(28.5%)
・チームワークやコミュニケーションなどソフトスキルの強化(23.9%)
・DXを効果的に進めるためのマネジメントスキルの強化(23.8%)
・情報セキュリティを強化するための倫理観の醸成(10.0%)
同調査は、6月21日から25日にかけてインターネットで実施された。調査対象は、「経営層」745人、「管理職層」1100人、「非管理職層」1100人で、「製造業」「対人サービス業」「非対人サービス業」にも分類して、分析を行っている。
調査結果の詳細は、日本生産性本部の調査・研究サイトで確認できる。